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第三章:東京地下迷宮(マザーサーバー)奪還編 第27話:狂乱の器と雷鳴の覚醒

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!作者のくろねこパパです。

▼ くろねこパパのX(Twitter)はこちら!

https://x.com/k7nature1

▼ 前話(第26話)のあらすじ

旧地下鉄網の廃線跡を進むカズたち。立ち塞がったスクラップ・グールの群れを、エリスの『闇』とアリスの『雷』が圧倒的な力で蹂躙しました。準備運動おそうじを終えた一行は、いよいよオブシディアンの心臓部【中層区画】へと繋がるハッチを開きます。

――そして今回の第27話。

ハッチの先で待ち受けていたのは、マザーサーバー直属の門番たる重装甲特化型の『特務追跡者エリミネーター』。絶望的な火力の前に、エリスはカズを護るため、再び自身の心を蝕む「狂乱の器」を解放します。

傷つき、内なる殺意に飲まれそうになるエリス。その時、カズが取った行動とは……?

殺意の呪いが解け、二人の真の「共鳴」が生まれる、第三章屈指の激アツ&感涙エピソードです。ぜひお楽しみください!

(※ここから第27話の本文スタート)


 ギギギギギギ……ッ、ガァン!!

 アダムがハッキングデバイスを接続し、強制的にロックを解除した巨大な換気ダクトのハッチが、重々しい金属音と共に床へと倒れ伏した。


 カビと泥に塗れた旧地下鉄網メトロの淀んだ空気とは打って変わって、ハッチの向こう側から流れ込んできたのは、無機質で、肺が凍りつくほどに冷たい「滅菌された風」だった。


「……ここから先が、オブシディアンの心臓部【中層区画】ってわけか。空気が綺麗すぎて逆に吐き気がするぜ」


 アダムが、アサルトライフルの安全装置を外した。


「気を抜くなよ。ここからはスラムの廃品回収機グールなんかじゃすまない。オブシディアンの最新鋭がウヨウヨしてるはずだ」


 カズがタクティカルライトで空間を照らし出す。

 そこは、見渡す限りの白銀色の壁面と、規則的に明滅する青いLEDラインに覆われた、巨大な円筒形の通路だった。幅は優に数十メートルはあり、ホバーSUVが数台並んで走れそうなほどの異常なスケールだ。


「……マスター・カズ。警戒ヲ」

 最後尾を歩いていたミオドロイドが、突如としてその赤い瞳を激しく点滅させた。

「前方、頭上ヨリ……規格外ノ高質量体、落下シテキマス!!」


 ドゴォォォォォォンッ!!!


 ミオの警告が終わるより早く、カズたちの数十メートル前方の「天井」が、突如として爆発するように崩落した。


 分厚い特殊合金の装甲板を紙クズのように引き裂きながら、白煙と粉塵を纏って『それ』は舞い降りた。


 ズウゥゥンッ!と、着地の衝撃だけで円筒形の通路全体が激しく揺れ、カズとアダムが思わず体勢を崩す。


「な……なんだ、こいつは……!」


 粉塵が晴れた先に立ち塞がっていた影を見て、カズは息を呑んだ。

 体高四メートルに迫る、二足歩行の巨大な機械。表面を覆う装甲は一部が剥き出しになり、その内側には、人間の骸骨を模したようなおぞましい金属骨格と、どす黒いオイルを循環させる人工筋肉の束が蠢いていた。

 両腕には、戦車の装甲すら蜂の巣にするであろう巨大な六銃身ガトリング砲と、高出力のプラズマ・キャノンがマウントされている。


『――不法侵入者ヲ確認。プロトコル【殲滅】ニ移行。目標ヲ排除スル』


 頭部の骸骨めいたバイザーの奥で、真紅の光学レンズがギョロリとカズたちを睨みつけた。

特務追跡者エリミネーターの……重装甲特化型だと!?」

 雪山で戦った個体とは明らかに違う、純粋な「殺戮」と「防衛」のためだけに調整された、マザーサーバー直属の門番ボス


「チィッ! カズ、散開しろ! こんな狭い通路で撃たれたら蜂の巣だ!」


 アダムが叫んだ瞬間、巨大なガトリング砲の銃身が高速回転を始め、耳をつんざくようなモーター音が響き渡った。


「させません……!」


 カズの前に、黒いメイド服のスカートを翻し、エリスが躍り出た。

 彼女は腰の双剣『オメガ』を引き抜くと同時に、アリスとアダムに向かって鋭く叫んだ。


「お姉ちゃん、アダムさんと先輩を連れて後ろに下がっていてください! こいつは……私がやります!」


「エリス!? 何を言っているの、相手は規格外よ! 私も出るわ!」


 アリスが三日月宗近に手を掛けようとするが、エリスはそれを強い口調で制止した。


「駄目です!……今の私の力(狂乱)を完全に解放すれば、お姉ちゃんたちまで巻き込んでしまいます。だから、下がって!!」


 その言葉の直後。

 ブォンッ……!と、エリスの全身から、光すらも呑み込むような「ドス黒い闇」と「紫電」が爆発的に噴き出した。


 彼女の美しい右目の青い瞳が、血のような真紅へと染まり上がる。白磁の太腿に刻まれた術式が、血管が浮き出るように禍々しく脈打ち始めた。


「――お掃除の時間です!」


 狂乱の器・解放。


 ギュオォォォォォンッ!!

 エリミネーターのガトリング砲が火を噴いた。毎秒数十発という狂気の弾雨が、エリスの華奢な身体を物理的にミンチにせんと襲い掛かる。

 だが、エリスの身体から溢れ出した漆黒の霧が、その凶悪な弾丸のすべてを空間ごと「喰い破り」、虚空へと消滅させていく。


「マスター達の前から消え失せろォォォォ!!」

 エリスは狂気に満ちた叫び声を上げ、漆黒の霧を引いて弾幕の中を一直線に駆け抜けた。


 重力を無視したような跳躍。彼女はエリミネーターの胸部装甲に張り付くように接近し、オメガの双剣を交差させて振り抜いた。


 ガガガガガガッ!!


 闇を纏った刃と、特殊合金の装甲が激突し、凄まじい火花が散る。


『――脅威度【S】。排除手順ヲ更新』


 エリミネーターは微動だにせず、左腕のプラズマ・キャノンの銃口を、胸元に張り付くエリスに至近距離で向けた。


「エリス!!」

 カズの悲痛な叫び声。


 ドゴォォォォンッ!!!


 青白い超高熱のプラズマが炸裂し、エリスの小さな身体が吹き飛ばされた。


「きゃあっ……!!」


 壁に激しく叩きつけられ、エリスは床を何度も転がる。メイド服の右肩が焼け焦げ、真っ白な肌から鮮血が飛び散った。


「ゲホッ……ァ……っ……」


 エリスが血を吐きながら、震える脚で立ち上がる。

 痛い。苦しい。だが、それ以上に彼女の精神を蝕んでいたのは、解放した器の力に引きずり出される『内なる衝動』だった。


幻聴:(……殺せ!……すべて終わらせろ!……)


(……特ニ、アノ男ヲ。一ノ瀬 和ヲ、お前ノ手デ……!)


 脳髄を直接かき回されるような、狂乱の殺意。過去十八回のループで、彼女にカズの頭を撃ち抜かせ、喉を切り裂かせてきた「呪い」。

 エリスの右目の紅い光が、さらに禍々しく明滅する。


「……ちがう……」


 エリスは自身の頭を両手で抱え込み、血の混じった涙を流しながら叫んだ。


「私は……私はもう、先輩を殺さない……!! 私の命は、先輩を護るための盾……先輩のための、剣なんだからぁぁっ!!」


 自己犠牲の愛だけが、ギリギリで彼女の理性を繋ぎ止めていた。

 再びオメガを構え、絶望的な体格差の機械の巨体へと突撃していくエリス。だが、彼女の攻撃は怒りと悲しみで精彩を欠き、エリミネーターの冷徹な反撃によって、その白い肌に次々と無惨な傷が刻まれていく。


「やめろ……エリス、もうやめろ!!」


 カズは、無意識のうちに走り出していた。


「おいカズ、馬鹿野郎! 出るな!!」


 アダムの制止を振り切り、カズは弾雨とプラズマが飛び交う死地の中央へと飛び込んだ。


『カズ! 行くでない! 今のあの娘は「殺戮の器」そのものじゃ! 下手にお主が近づけば、十八回のループと同じように、お主自身が真っ二つにされるぞ!!』


 胸元から飛び出したシフティが必死に警告する。


「……知るかよ」


 カズは止まらない。


「十八回殺されたからなんだ。十九回目も同じように、エリスは俺の傍にずっと居たんだよ!」


 カズは、吹き飛ばされて膝をついたエリスの背中に、強く、そして優しく手を当てた。


「せ、先輩……!? 駄目です、離れて……私の中のバケモノが、先輩をっ……!」


 恐怖に顔を歪め、カズから離れようとするエリス。

 だが、カズはエリスの身体をそっと抱き寄せ、微笑みながらエリスに優しく問い掛ける


「もういい、エリス。一人で暗闇と戦わなくていいんだ」


 その瞬間だった。

 カズの身体の奥底から、圧倒的で、だがどこまでも温かく純粋な「黄金の光」が溢れ出した。


すべてを統べる神の領域――【アルファ】の力。


 それは破壊の光ではない。「接続」と「調和」の光だった。

 カズの手を通じて、アルファの黄金の光がエリスの身体へと流れ込む。

 すると、エリスを包み込んでいた禍々しいドス黒い闇が、まるで朝日に照らされた夜霧のように浄化され、美しく力強い「紫色の雷光」へと変質していった。


「……あ……ああ……」


 エリスの身体の震えが止まる。

 彼女の脳を焼き尽くそうとしていた「殺意の呪い」が、カズの温かい光によって完全に溶かされていく。血のように紅く染まっていた右の瞳が、ふっと元の優しく澄み切った青色へと戻った。


「……カズ様と、エリスの魔力が……完全に同調している……?」


 後方で構えていたアリスが、信じられないものを見るように目を見開く。

 カズの放つ純粋な「光」と、エリスの安定した「紫電」。二つのエネルギーが混ざり合い、彼らの周囲に、弾丸もプラズマも寄せ付けない絶対的な『共鳴フィールド』が形成された。


『――理解不能。出力エラー。エネルギー値、計測限界ヲ突破』

 エリミネーターのAIが混乱をきたし、機械の巨体が初めて後ずさりをした。


「行くぞ、エリス。俺たちの未来を、お前の剣で切り拓け!」


「はい……先輩っ!!」


 エリスが、カズの温もりを背中に感じながら跳躍した。

 もう、狂乱の闇はない。あるのは、愛する人を護るための絶対的な強さ。

 彼女の双剣『オメガ』に、黄金と紫の光が螺旋を描いて収束していく。それは、いかなる強固な装甲をも貫く、ただ一つの「希望の刃」だった。


「――これで、終わりです!!」


 ズッッッバァァァァァァァァァンッ!!!!!


 閃光。


 エリスの振り抜いた双剣が、エリミネーターの巨大な胴体を、その奥に隠された中核である『錆びた心臓メインコア』ごと、一筆書きのように完璧に両断した。


『――機能……停止……』


 数秒の静寂の後。


 機械の巨体は真っ二つにズレ落ち、円筒形の通路を揺るがす大爆発と共に、跡形もなく粉砕された。


     *


 戦闘が終わった。

 燃え盛る残骸から上がる炎と、カズの身体から放たれる黄金の光の残滓が、薄暗く冷たかった地下の通路を、まるで『夜明けの太陽(黎明)』のように暖かく照らし出していた。


「……終わったな」


 カズが静かに息を吐き出す。

 エリスは、オメガの双剣を空間に溶かすように仕舞い込むと、ふらりと体勢を崩した。


「おっと」


 カズが慌てて駆け寄り、その身体を抱き留める。


「せ、先輩……私……」


 エリスは、先ほどまでの圧倒的な戦闘力が嘘のように、元の可憐で可愛らしいメイドの姿に戻っていた。頬には煤がつき、メイド服はボロボロだ。


 カズは何も言わず、内ポケットから折り畳まれた清潔なハンカチを取り出すと、エリスの頬の汚れを優しく拭ってやった。


「よく頑張ったな。最高にカッコよかったぞ、俺の自慢のメイドさん」


「……っ」


 エリスの大きな青い瞳から、ポロポロと大粒の涙が溢れ出した。


 それは、自分の存在意義を呪う涙ではない。護り抜けた安堵と、カズからの絶対的な愛情を感じた、喜びの涙だった。


「先輩……あの……」


 エリスは、カズの胸に顔を埋めながら、震える声で囁いた。


「このお仕事が、全部終わって……平和になったら……。また、私が先輩に、一番美味しい紅茶を……淹れてもいいですか……?」


 十八回のループで、常にカズの死に付きまとってきた「紅茶」。


 殺意の象徴だったその言葉が、今、十九回目のこの瞬間、カズにとって『生きるための唯一の温もり』へと昇華された。


「ああ。約束だ」


 カズはエリスの銀髪を優しく撫でながら、力強く頷いた。


「お前の淹れる紅茶を飲むまで、俺は絶対に死なない」


 冷たい鋼鉄の迷宮の奥深くで。

 死のループに囚われ続けた二人は、初めて、本当の意味での「未来あした」を約束したのだった。


第三章 第28話へとつづく

最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!作者のくろねこパパです。

今回は、エリスとカズの絆が完全に結ばれる、物語において本当に大切なエピソードでした。

強大なエリミネーターを前に、自らを犠牲にして戦うエリス。そんな彼女を力強く抱きしめ、二人の力が「共鳴」を果たす瞬間……書いていて作者自身も胸が熱くなりました。

そして、これまで過去18回のループで「死の象徴」だったエリスの紅茶が、「生きるための温かい約束」に変わるラストシーン。19回目のループにして、ついに二人は過酷な運命を乗り越え、明るい未来を掴み取りましたね!

▼ 次回予告:第28話

強敵エリミネーターを撃破し、互いの想いを確かめ合ったカズとエリス。

さあ、ここから反撃の狼煙を上げ、マザーサーバーの最深部へ……! と、誰もがそう信じて疑わなかった、その時。

第三章、最大の「絶望」がカズたちを襲います。

次回、絶対に読者の皆様の予想を裏切る衝撃の展開が待っています。ぜひ、覚悟してお待ちください。

※「二人の共鳴に泣いた!」「紅茶の約束エモすぎる!」「エリス、幸せになって!」と少しでも心が動かされましたら、ぜひページ下部の**【★】での評価や【ブックマーク】**での応援をよろしくお願いいたします!

皆様からの熱い応援が、次回以降の怒涛の展開を書き上げる最大の原動力になります!!


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