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第三章:東京地下迷宮(マザーサーバー)奪還編 第26話:廃線跡の亡霊と、雷闇の双刃

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!作者のくろねこパパです。

▼ くろねこパパのX(Twitter)はこちら!

https://x.com/k7nature1

▼ 前話(第25話)のあらすじ

決死の雪山越えを果たし、東京の隠れ家で束の間の休息とティータイムをとった一行。正面突破不可能な大要塞へ侵入するため、アダムの案内で「旧地下鉄網メトロ」の廃線跡を利用した裏ルート潜入作戦を開始します。

――そして今回の第26話。

オブシディアンの監視網すら届かない完全な闇のトンネルで、カズたちを待ち受けていたのはクローン兵ではなく、スラムの闇が産み出したおぞましい異形たちの群れでした。

しかし、たっぷり休んで「充電完了」したヒロイン二人を怒らせるとどうなるか……?

雷と闇が舞い踊る、エリスとアリスの圧倒的な無双アクション劇、そして戦闘後の可愛すぎるギャップをぜひお楽しみください!

(※ここから第26話の本文スタート)



 カビと錆、そして淀んだ泥の匂いが、肺の奥にまでねっとりと絡みつく。


 かつて数百万の人間を乗せて東京の地下を駆け巡っていた旧地下鉄網メトロは、今やオブシディアンの管理網から完全に切り離された「光の届かない墓標」と化していた。


 カズたちは、アダムを先頭に、漆黒の闇に包まれたトンネルの線路跡を慎重に進んでいた。

 カズが掲げるタクティカルライトの白い光だけが、壁面に描かれた極彩色の古いグラフィティや、朽ち果てた車両の残骸を不気味に浮かび上がらせている。


「……嫌な静けさだな。ネズミ一匹いないな」


 カズがアルファ・レオンのグリップに手を添えながら、油断なく周囲に視線を配る。


「当然だ。ここはオブシディアンのクローン兵すら寄り付かねえ、本当の『掃き溜め』だからな」


 アダムが、型遅れな暗視ゴーグルを額に押し上げながら、口に咥えた火の点いていないタバコを噛み締めた。


「カズ。さっきから妙な音が聞こえねえか? ……金属を、引き摺るような音だ」


 アダムの言葉に、全員が足を止める。


 カァン……、ギィィ……。


 トンネルの奥、ライトの光が届かない絶対の暗闇から、確かに何かが近づいてくる音がした。それは足音というより、鉄クズを無理やりアスファルトに擦り付けているような、耳障りなノイズだった。


 カァン……カンッ……。


「……マスター・カズ。前方ヨリ、多数ノ熱源体接近。生命反応、極メテ微弱。シカシ……敵意ハ、最大値デス」

 ミオドロイドの警告と同時だった。


 暗闇の中に、一つ、二つと「赤い光」が灯った。

 いや、違う。それは光ではない。暴走し、血のように赤く染まった『光学レンズ(義眼)』の群れだ。


 カズのライトが、暗闇から這い出てきた異形たちの姿を捉えた。

「な、なんだこいつら……!」

 カズが息を呑む。


 それは、かつて人間だったモノたちの成れの果てだった。

 ボロボロの衣服を纏った彼らの頭部には、粗悪な金属パーツが無造作に埋め込まれている。腕を失った者はそこに鉄パイプを突き刺し、顎が欠損した者は剥き出しの歯車を噛み合わせていた。生気のない皮膚は土気色に変色し、口からは黒いタールのような体液を垂らしている。


「チッ……『スクラップ・グール(ナノマシン汚染者)』の群れか。一番面倒な連中に出くわしちまったな」


 アダムが舌打ちをし、アサルトライフルを構える。


「グールだと?」


「ああ。スラムで出回ってる安価な違法ナノマシンを脳に埋め込んで、拒絶反応で脳の大部分が焼き切れた連中だ。自我も痛覚もねえ。ただ動くモノを見つけて、手当たり次第に解体しようとする『生きた廃品回収機』だ」


「ガ……ァ……ギギギ……ッ!!」


 アダムの声に反応し、数十体、いや、百を超えるスクラップ・グールの群れが、一斉に耳障りな奇声を上げてカズたちに向かってなだれ込んできた。


 統制されたクローン兵の動きではない。ゴキブリの群れのような、ただ純粋な狂気と飢えに突き動かされたおぞましい突撃。


「カズ、撃つぞ! こいつら痛覚がねえから、頭か心臓のコアを完全に吹っ飛ばさねえと止まらねえ!」


 アダムがライフルのセーフティを外そうとした、その時。


「先輩」

 凛とした、冷たい鈴を転がすような声がトンネル内に響いた。


 カズとアダムの前に、フワリと二つの影が躍り出る。

 メイド服のスカートを翻したエリスと、黒い軍服姿のアリスだった。


「雪山では、先輩たちにずっと護っていただきましたから。……ここから先は、メイドの仕事(お掃除)の時間です」


 エリスが、可憐な微笑みを浮かべながら、腰の双剣『オメガ』をゆっくりと引き抜く。


 刃が闇に触れた瞬間、彼女の白磁の太腿に刻まれた紅い術式が、仄かに、だが禍々しく脈打ち始めた。


「ええ。十分に眠らせてもらったおかげで、身体が軽いです。少し、運動不足だったところです!」


 アリスが、三日月宗近の柄に手を添え、低く腰を落とす。彼女の銀髪の毛先から、チリチリと青白い紫電が弾け、廃線の空気を一気に高電圧へと変えていく。


「おいおい、お嬢ちゃんたち……」


 アダムが呆気にとられいる前で、双子の姉妹は、迫り来る百の亡霊の群れへと同時に踏み込んだ。


 エリスの神速の加速に、赤眼の赤い光が尾を引く様にグールの群れへと突進して行く。


「邪魔です。……消えなさい」


 エリスが虚空を滑るように跳躍する。

 先頭を走っていた巨大なグールが、腕に埋め込んだ丸鋸チェーンソーをエリスへと振り下ろした。


 だが、エリスは避けることすらしない。彼女が振るった漆黒の双剣が、丸鋸ごとグールの巨体を「撫でた」。


 ズパァンッ!!


 オメガの刃に触れた瞬間、グールの身体の半分が、ドス黒い闇に喰い破られたように空間ごと『消滅』したのだ。痛覚のないグールが悲鳴を上げる間もなく、残された半身がボトリと地面に落ちて崩れ去る。


「ガァァッ! ギギギギッ!」


 仲間の死に頓着することなく、無数の群れがエリスに殺到する。全方位からの鉄パイプや鋭利なスクラップの刺突。


 しかし、エリスのステップはワルツを踊るように優雅だった。身を翻すたびにフリルが舞い、オメガの双剣が黒い軌跡を描く。


「随分と頑固な汚れですね。……不愉快です」


 冷徹な声と共に、エリスが独楽のように回転した。円状に放たれたドス黒い斬撃が、彼女を包囲していた十数体のグールの胴体を、紙屑のようにまとめて削り取る。タールのような体液が噴き出すが、エリスは目に見えぬ闇の障壁でそれを弾き、ドレスに一滴の汚れも許さない。


「背後が隙だらけです、この人間モドキが」


 エリスの死角、頭上の通気管から勢い良く降ってきた三体のグール。だが、彼らの汚れた足がエリスに届くより早く、トンネル内を凄まじい閃光が切り裂いた。


 雷神・アリス。

 彼女が三日月宗近を鞘から数センチだけ引き抜き、パチン、と納刀した瞬間。


 バチバチバチィィッ!!


 目にも留まらぬ神速の居合が、宙を舞う三体のグールの首を正確に刎ね飛ばすと同時に、傷口から数万ボルトの紫電を体内に流し込んだ。

 グールたちの脳内に埋め込まれていた違法ナノマシンが一瞬でショートし、頭部が内側から弾け飛ぶ。


「チィィィッ!」


 残る五十体以上の群れが、今度はアリスへとターゲットを変えて津波のように押し寄せる。


「……群れるしか能がないないんて哀れですね」


 アリスの青い瞳が、氷のように冷たく細められた。彼女は三日月宗近を完全に抜き放ち、刀身に莫大な雷の魔力を纏わせる。


「――散りなさい。雷閃・紫電連舞しでんれんぶ


 アリスが地を蹴った。

 ジグザグに、壁面や廃車両を蹴り渡りながら、アリスは紫色の稲妻そのものと化して群れの中を駆け抜けた。彼女が通り過ぎた後には、数秒の遅れを伴って、グールたちの身体から一斉に青白いプラズマが噴き出す。


 ドドドドドォォォォンッ!!!


 連鎖的な雷の爆発。焼け焦げた鉄屑とタールの雨が降り注ぎ、トンネルの壁面が激しく震えた。


「……凄いな」

 カズが、前衛で舞うようにバケモノを解体していく二人を見て、思わず感嘆の声を漏らした。


 エリスの圧倒的な『闇』が触れる者すべてを塵に帰し、アリスの研ぎ澄まされた『雷』が群れの死角を音速で穿つ。姉妹の息の合った連携は、さながら地獄で踊る美しき死神のワルツだった。


「ふん。嬢ちゃん達、俺たちが休ませてやった分、きっちり暴れて恩返しするつもりらしいな」


 アダムがライフルを一度も撃つことなく肩に担ぎ直し、ようやくタバコに火を点けて深く紫煙を吸い込んだ。


 数分後。


 トンネル内に満ちていたグールの群れは、辺り一帯に残骸だけを残し、完全に鎮圧されていた。床には黒いオイルと、焼け焦げたグールの死骸と電子部品の山だけが積み重なっていた。


「おそうじ、完了しました。先輩!」


 エリスが双剣をスッと空間に仕舞い込むと、先ほどまでの冷酷な「殺戮の器」の顔から一転、花が咲いたような満面の笑みを浮かべてカズのもとへ駆け寄ってきた。


「どうでしたか、先輩? 私、少しはお役に立てましたか?」

 褒めてほしそうに青い瞳をキラキラと輝かせ、カズの腕にすり寄るその姿は、周囲の凄惨な血の海(オイルの海)とのギャップがあまりにも激しかった。


「ああ。完璧な仕事だったよ。ありがとうエリス。…でもあまり無理はしないでくれ、エリスにもしもの事があったら俺は___」


 カズが最後の言葉を言い切るのを遮る様にエリスが透かさず口を開いた。


「えへへ……先輩に褒めてもらいましたぁ!私決めたんです、どんな事があっても先輩は私が守ると。」と至福の表情で目を細め、だが確かな決意を秘めた表情がそこにはあった。


「エリスったら、またそんなにカズ様に甘えて」


 カチャリ、と涼やかな音を立てて三日月宗近を納刀したアリスが、呆れたような、けれど優しい微笑みを浮かべて歩み寄ってきた。


「でも、少し踏み込みが荒かったわね。エリスの左側、あと数センチでオイルの飛沫がメイド服のフリルに飛ぶところでしたよ。」


「計算通りです、お姉ちゃん! それに、お姉ちゃんの雷撃だって派手すぎます。せっかく先輩に淹れてもらった紅茶の余韻が、焦げたオゾンの匂いで台無しになっちゃいました」


「ふふっ、それはごめんなさい。次はもう少し、静かに斬るよう努力するわ」


 バケモノの死骸の山を前にして、まるで午後のティータイムの続きを楽しむかのように、和やかに談笑し合う美しい姉妹。


「……なぁカズ。俺たち、とんでもねえ姫君たちを連れ歩いてるんだな」

 アダムが口の端を引き攣らせ、灰を落としながらボヤいた。


「今更だろ。……だが、これほど頼もしい仲間は他にいない」


 カズはそう言って、トンネルのさらに奥へと視線を向けた。

 ミオドロイドが指し示すポイント。

 そこには、分厚い鋼鉄の扉で封鎖された、【東京地下迷宮】の中層区画へと直接繋がる巨大な「換気ダクト」のハッチが口を開けていた。


「さあ、準備運動はここまでだ。オブシディアンの心臓部に、風穴を開けに行くぞ」


 カズの決意の声と共に、一行はついに、クローン生産の闇の中心へとその足を踏み入れていく。


第三章 第27話へとつづく


最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!作者のくろねこパパです。

今回は、第三章の初バトル回!痛覚を持たないスクラップ・グールの群れを相手に、エリスの『闇』とアリスの『雷』が炸裂する姉妹無双アクションでした。

血の海(オイルの海)のど真ん中で、まるでティータイムの続きのように和やかに談笑するヒロインたちと、それにドン引きするアダムの図……書いていてとても楽しかったです(笑)。そして、密かにカズとエリスの互いを護り抜くという強い決意が交差するシーンも、今後の展開の重要な鍵になっていきます。

▼ 次回予告:第27話

準備運動(グールの掃討)を終え、いよいよ巨大な換気ダクトを抜けて【東京地下迷宮】の中層区画へと侵入する一行。

しかし、そこはオブシディアンの最新鋭の防衛システムと、無数のクローン兵が巡回する絶対領域。カズたちは無事に最深部のマザーサーバーへと辿り着くことができるのか!?

次回、緊迫の潜入ミッションが本格始動します!

※「エリスとアリス強すぎ!」「戦闘後の会話が尊い!」「カズとエリスの絆が最高!」と少しでも楽しんでいただけましたら、ぜひページ下部の**【★】での評価や【ブックマーク】**での応援をよろしくお願いいたします!

皆様からの応援が、最高の物語を紡ぐための最大のモチベーションになります!!

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