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第三章:東京地下迷宮(マザーサーバー)奪還編 第25話:鋼鉄の摩天楼と、嵐の前のティータイム

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!作者のくろねこパパです。

いよいよ今回から、新章【第三章:東京地下迷宮マザーサーバー奪還編】が開幕します!

▼ 前章(第二章)までのあらすじ

カズの死に戻りを捨てる覚悟、エリスとアリスの真の力の覚醒。数々の激闘を経て、アーク・セクター01を脱出した一行は、日本最大のクローン生産拠点である「東京」へと到達しました。

――第25話は、嵐の前の静けさ。

夜通しの運転で東京の隠れ家(アダムの昔のガレージ)に到着した一行。ぐっすり眠って充電を完了させたエリスとアリスの目覚めや、戦場での束の間のティータイムを描きます。

そして、正面突破率0.0001%の絶対防衛網を誇る地下迷宮へ向け、カズとアダムの「同期コンビ」が導き出した潜入ルートとは……?

新たな舞台、東京の深淵へ挑む彼らの束の間の休息と、静かなる決意をお楽しみください!

(※ここから第25話の本文スタート)

 

 北アルプスの極寒の雪山を抜け、分厚い雲海を突き抜けた漆黒のホバーSUVが、暁の光に照らされた西暦2100年の巨大都市・東京へと滑り込んだ。


 上空を飛び交う無数の磁気浮上車オートカーと、摩天楼の壁面を彩る極彩色の巨大ホログラム広告。脳内ナノマシンと網膜投影によって完全に管理された、誰もが「平和」を疑わない煌びやかなメガロポリス。


 だが、それはあくまで上層部だけのかりそめの姿だ。

 カズが操るSUVは、光の届かない下層エリア――廃棄されたビルの谷間や、酸性雨の染み付いたコンクリートの迷路へと、目立たないように高度を下げていった。


「……随分と懐かしい景色じゃねえか。空気が油と錆びの匂いしかしねえ」


 助手席で、アダムが少しだけ窓を開け、新しいタバコに火を点けながら薄く笑った。紫煙が、ネオンの光が届かない薄暗い車外へと吸い込まれていく。


「アダム、お前の言う『隠れ家』ってのは、この辺りなのか?」


「ああ。次の交差点を右だ。昔、俺がヤバい橋を渡ってた頃に使ってた地下ガレージがある。オブシディアンの監視網からも完全に外れてるから、息を潜めるには丁度いい」


 カズは黙ってハンドルを切り、シャッターが半壊した廃工場のような建物の奥へと車を進めた。

 アダムが手元の端末を操作すると、埃まみれの床板が重々しい駆動音と共にスライドし、車一台がようやく通れるほどの隠しスロープが現れた。


 SUVが地下へと潜り込み、分厚い防爆シャッターが閉じられると、外の喧騒が完全に遮断された。残ったのは、ジェネレーターの低い稼働音と、微かなカビの匂いだけだ。


「よし、到着だ。……とりあえず、生き延びたな」


 カズがエンジンの出力を落とし、深くシートに背中を預けた。スーツのネクタイを外し、首筋を揉みほぐす。一晩中、限界の集中力で雪山を駆け抜け、追跡者の残党を撃ち落としてきた疲労が、今になってどっと押し寄せてきた。


「ん……ぁ……」

 その時、後部座席から微かな衣擦れの音が聞こえた。


 カズがバックミラーを覗き込むと、アリスの肩に頭を預けて眠っていたエリスが、ゆっくりと青い瞳を開いたところだった。


 彼女はぼんやりと薄暗いガレージの天井を見つめ、それからハッと弾かれたように身を起こした。


「せ、先輩……!? ここは……」


「おはよう、エリス。よく眠れたか? 東京の下層エリアだ。とりあえずの安全圏だよ」


 カズが振り返って優しく微笑むと、エリスの顔色が一気に青ざめた。


「わ、私……ずっと寝てたんですか!? 先輩がずっと運転して、敵の追撃も……っ! 私、メイドなのに、また先輩に全部やらせてしまって……!」


 パニックになりかけるエリスの頭を、カズの大きな手がポンと優しく撫でた。


「馬鹿。気にするな。お前が命懸けで『トランス化』して敵を抑え込んでくれたから、俺たちは今ここに生きてるんだ。メイドとしての仕事は、120点満点だったぞ」


「先輩……っ」


 エリスはカズの掌の温もりに触れ、安堵と申し訳なさで、ふにゃりと愛らしい顔を歪めた。


「ふふっ。おはよう、カズ様。それにアダムも。夜通しの護衛、感謝するわ」


 エリスの隣で、アリスも静かに目を覚ました。彼女の銀髪にはまだ微かに紫電の余韻が残っていたが、その表情はすっきりと穏やかだった。雷神としての莫大な魔力消費は、この数時間の深い眠りで完全に『充填チャージ』されたようだ。


「おう、姫君たちもお目覚めか」


 アダムが運転席と助手席の間から顔を出し、タバコを咥えたままニヤリと笑う。


「ガレージの奥に、昔置いておいた備品が残ってるはずだ。カフェインと糖分くらいなら補給できるぜ」


 *


 暗い地下ガレージの一角に置かれた錆びたドラム缶のテーブルに、奇妙で、だがひどく温かい光景が広がっていた。


「おいおいカズ、冗談だろ。こんな鉄屑まみれの地下室で、わざわざティーセットなんて広げる奴がいるかよ」


 アダムが、紙コップに注いだインスタントの泥水のようなコーヒーを啜りながら、呆れたようにタバコの煙を吐き出す。


「エリス達にインスタントコーヒーなんか飲ませられるかよ。それに、雪山で割れずに生き残ったんだ。使ってやらないと失礼だろ」


 カズはスーツの袖を捲り上げ、携帯用のバーナーで湯を沸かしながら、最高級のダージリンの茶葉をポットに蒸らしていた。


 その優雅な手つきに、エリスは両手を胸の前で組み、うっとりとした瞳でカズを見つめている。


「先輩の淹れてくれる紅茶……世界で一番美味しいです……」


「おいエリスちゃん、まだ飲んでねえだろうが」


 アダムのツッコミも、エリスの耳には届いていないようだった。彼女は差し出されたティーカップを両手で包み込み、幸せそうに花の綻ぶような笑みを浮かべて香りを嗅いだ。


「ありがとう、先輩。……本当に、心が落ち着く香りです」


 アリスも優雅にカップを傾け、小さく微笑む。殺伐とした逃避行の中で、カズが淹れる一杯の紅茶は、彼女たちにとって何よりの癒やしであり、人間性を繋ぎ止めるためのアンカーだった。


『……ふん。呑気なものじゃな、お前たちは』


 カズの胸元から黄金の粒子が舞い上がり、精霊・シフティが姿を現した。彼女はドラム缶の上にふわりと降り立ち、腕を組んでカズたちを見回す。


「シフティ。お前も飲むか?」


『我は精霊じゃ、人間の飲み物など不要じゃ。……それよりカズよ。茶飲み話のついでで悪いが、そろそろ【現実】を見る時間じゃぞ』


 シフティの言葉に呼応するように、傍らに控えていたミオドロイドが赤い瞳を点滅させ、ドラム缶の中央に青白いホログラムを投影した。


東京地下迷宮マザーサーバー・ハブ。現在ノ我々ノ位置カラ、地下深クヘト続ク巨大要塞ノ立体マップデス」


 ミオの無機質な声と共に浮かび上がったのは、アリの巣のように複雑に絡み合った、地下百階層に及ぶ巨大な防衛網だった。


「……何度見ても吐き気がする構造だな」


 カズが紅茶のカップを置き、険しい目でマップを睨みつける。


「正面ゲートには、重武装のクローン兵が常時三千体。さらに自動防衛タレットと、生体スキャナーの網が張り巡らされている。……正面突破の成功率は?」


「〇・〇〇〇一パーセント未満。事実上ノ、不可能インポッシブルデス」

 ミオが即答する。


「だろうな。そんな真正面から突っ込むのは、死に戻りを前提とした特攻隊カミカゼか、ただの自殺志願者だけだ」


 カズは、シフティの黄金の瞳をチラリと見た。彼にはもう、死に戻りというセーフティネットはない。エリスを護るため、シフティとの密約によって、この一回の命で全てを終わらせなければならないのだ。


「なら、どうする気じゃ? 穴でも掘るか?」


 シフティが挑発的に笑うと、横からアダムが短くなったタバコを携帯灰皿に押し付け、マップの一部を指差した。


「そんな面倒な真似しなくても、道はあるぜ。……ここを見ろ」


 アダムの指先が示したのは、地下迷宮の厳重な防衛網のさらに外側、地図の端を通る細く黒い線だった。


「これは……?」


「大昔に廃棄された、旧地下鉄網メトロのトンネルだ。今は完全にオブシディアンの管理外になってる。俺が裏稼業やってた頃、この廃線跡を密輸ルートに使ってたことがあってな。こいつを深く潜っていけば、地下迷宮の【中層区画】の換気システムに直接ハッキングして、内部に侵入できるポイントがある」


「……なるほど。警備の手薄な裏口から、一気に心臓部へ近づくってわけか」


 カズの口元に、好戦的な笑みが浮かんだ。

 同じ二十歳。同じ戦場を生き抜いてきた同期ならではの、非合法だが確実な作戦。


「エリス、アリス。身体の調子はどうだ?」


 カズが振り返ると、ヒロイン二人はすでにティーカップを置き、その瞳に静かな闘志を宿していた。


「完璧です、先輩。……今度こそ、私が先輩の道を切り拓きます!」

 エリスが、腰に手を当ててドヤ顔で言い放つ。


「いつでも抜刀できるわ。カズ様、ご命令を」


 アリスが、三日月宗近の柄を静かに撫でた。


「よし」


 カズは立ち上がり、アルファ・レオンの弾倉を確認して、ホルスターに収めた。


「作戦は決まりだ。旧地下鉄網からマザーサーバーの中層へ侵入し、一ノ瀬拓也の遺したデータと、クローン生産のルートを叩き潰す」


 薄暗い地下ガレージ。

 コーヒーと紅茶、そして火薬とタバコの匂いが混ざり合う空間で、四人と二匹、そして一体のアンドロイドは、確かな絆と覚悟を胸に立ち上がった。


「行こうぜ。俺たちの未来あしたを取り戻しに」


 カズの静かな、だが力強い号令と共に。

 彼らは光の届かない東京の深淵へと、その足を踏み入れていくのだった。


 第三章 第26話へとつづく


『19回目の殺意を紅茶に添えて』第三章・第1話(第25話)、いかがだったでしょうか。

お読みいただき、本当にありがとうございます!

激しいバトルの連続だった第二章から一転、今回は少しだけ息を抜ける日常(?)パートでした。

ボロボロの地下ガレージで、アダムがインスタントコーヒーを啜りながらタバコを吹かす横で、カズが優雅に最高級の紅茶を淹れる……。この対比と、カズにベタ惚れなエリスの反応は可愛いですよね。

▼ 次回予告:第26話

束の間の休息を終え、アダムの案内で「旧地下鉄網メトロ」の廃線跡へと足を踏み入れたカズたち。

しかし、オブシディアンの監視網から外れた完全な闇の中には、クローン兵とは違う、スラムの暗がりに潜む『別の脅威』が待ち受けていました……。

次回、いよいよ東京の地下深くへの潜入アクションが始まります!

※少しでも「面白い」や「つづきが見たい」と思っていただけましたら、ぜひページ下部の**【★】での評価や【ブックマーク】**での応援をよろしくお願いいたします!

皆様からの応援が、第三章を全力で走り抜けるための最大のエネルギーになります!!

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