第二章:偽りのぬくもりと錆びた心臓 第24話:雪山の暁光と、反逆の狼煙
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▼ 前話(第23話)のあらすじ
トランス化の残酷な代償により、己の無力さに涙を流すエリス。そんな彼女を護り抜くため、カズは自身の唯一のセーフティネットである『死に戻り』を捨てる覚悟をシフティと密約します。
――そして今回は、いよいよ第二章の最終話となる第24話!
感動の余韻も束の間、アリスの雷撃の余波で崩壊を始めたアーク・セクター01からの決死の脱出劇が幕を開けます。
今回は、ヒロイン二人が後部座席で「充電中」のため、カズとアダム――中学・高校時代からの付き合いである「同い年の最強同期コンビ」が大暴れ!
猛吹雪のカーチェイスと、次なる戦場「東京」へ向けた反逆の狼煙。第二章の最高に熱いフィナーレ、ぜひお楽しみください!
(※ここから第24話の本文スタート)
特務追跡者の漆黒の巨体が両断され、ドーム状の巨大施設【アーク・セクター01】に束の間の静寂が訪れたのも、ほんの数秒のことだった。
ゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
突如として、地下施設全体が、まるで巨大な獣の胃袋の中で咀嚼されているかのような暴力的な振動に包まれた。
「……チッ、やっぱりか」
カズが、腕の中で気絶するように眠りに落ちたエリスを抱き抱え直しながら、天井の亀裂を見上げる。
アリスが放った規格外の高位雷撃魔法【雷閃・紫電一文字】と、特務追跡者の自爆にも等しい限界出力の激突。その余波は、分厚い岩盤とステルス防壁の耐久値を完全に上回っていた。天井の至る所から、数百キロはありそうな岩塊が雨のように崩れ落ちてくる。
「おいおいカズ! お前らがイチャイチャしてたせいで、文字通り天井が落ちてきてんぞ!!」
瓦礫の雨を器用に避けながら、マットブラックのホバーSUVのドアを蹴り開けるアダム。
彼はヤンチャな笑みを浮かべながら、戦闘の緊張を紛らわせるように、咥えた真新しいタバコにオイルライターで火を点けようとしていた。
その瞬間。彼らのすぐ横の地面に、車体ほどの大きさの岩盤が轟音と共に落下した。
「うおっ!?」
ドスゥゥゥンッ!!という凄まじい衝撃波で地面が跳ね
「あぁクソッ! 冗談じゃねえ、生き埋めにされる前に早く乗れカズ!」
「分かってる! アリス、エリスを頼む!」
カズは崩壊する瓦礫の中を神速で駆け抜け、後部座席にエリスを慎重に寝かせると、アリスとミオドロイドをそれに続かせる。
そのまま自身は運転席へと滑り込み、助手席では、アダムが舌打ちしながら、今来た方向をじっと睨みつけていた。
「ミオ! スラスト出力最大! このまま雪山をぶち抜くぞ!」
「了解。マスター・カズ。リニア・ドライブ、最大出力へ移行。……衝撃ニ備エテクダサイ」
カズが操縦桿を限界まで押し込んだ瞬間、SUVの車体下部から放たれる青白い磁力光が爆発的に膨れ上がった。
ドォォォォンッ!!
崩れ落ちるホログラム・ゲートの残骸を強引に跳ね飛ばし、漆黒のSUVが、視界ゼロの猛吹雪が吹き荒れる北アルプスの斜面へとダイブする。
直後、彼らが今までいた【アーク・セクター01】は、数万トンの雪崩と岩盤崩落に巻き込まれ、完全に雪の底へと圧し潰された。
「……ふぅ。間一髪ってやつだな」
アダムが助手席の窓を少しだけ開け、紫煙を猛吹雪の外へと吐き出す。
だが、安堵する暇はなかった。
『――警告。後方ヨリ、複数の高熱源体接近。光学迷彩ヲ展開シタ【雪上強襲用無人機】十五機。特務追跡者ガ遺シタ、残党兵器ト推測サレマス』
網膜プロジェクターを通じて、ミオドロイドの無機質な音声が運転席と助手席に響く。
「マジかよ、あのバケモノ、まだ置き土産を残してやがったのか」
「追跡者の本体がやられた以上、自律モードでターゲットを殲滅するまで追ってくる気だろうな」
カズがバックミラーを一瞥する。
後部座席では、エリスがアリスの肩に頭を預け、静かな寝息を立てていた。姉であるアリスもまた、先の雷神覚醒による激しい魔力消費の反動で、目を閉じて魔力を充填している最中だった。
「……後ろの姫君たちは、起こすわけにはいかねえな」
アダムがニヤリと笑い、足元に置いていたアサルトライフルを手に取った。
「カズ。お前のそのスーツ、血とオイルで汚すんじゃねえぞ。左半分は俺が全部落としてやる」
「アダムも言うようになったな。なら右半分は俺が片付ける。……シフティとの特訓の成果、見せてやるよ」
カズとアダム。同じ歳であり、同じ死線を潜り抜けてきた中、高以来の 「同期コンビ」。
二人の間に、過剰な言葉は必要なかった。
猛吹雪の中、後方から迫るドローンの群れが、紅い光学センサーを明滅させながらプラズマ弾の掃射を開始した。
ババババババッ!!
装甲SUVの防弾ガラスに高熱の弾雨が叩きつけられる。
「オラオラオラァッ!!」
アダムが助手席の窓から身を乗り出し、タバコを咥えたままアサルトライフルを猛烈な勢いで連射する。若さと破天荒さが剥き出しになった、荒々しくも正確なフルオート射撃。
徹甲弾が吹雪を切り裂き、迫り来るドローンのローターや推進器を次々と粉砕していく。車内には薬莢が滝のように降り注ぎ、火薬の匂いがタバコの煙と混ざり合う。
「右、五機接近!」
アダムの怒号に応えるように、カズが動く。
カズは右手で巧みに操縦桿を捌きながら、左手で魔銃『アルファ・レオン』を抜き放った。
一切の力みはない。シフティから教え込まれた「魔力の圧縮」。すべての光を丹田に引き戻し、銃口の奥底に極小のブラックホールのような黄金の球体を形成する。
カズは、サイドミラー越しに後方のドローン群を見据え、静かに引き金を絞った。
シュンッ……!
轟音はない。閃光もない。
ただ、目に見えないほど細く圧縮された「黄金の線」が、吹雪の空間を真っ直ぐに貫いた。
新技――【零式収束魔弾:アルファ・ゼロ】。
パシュューン!!
乾いた消滅音と共に、後方を飛んでいたドローン三機のコアが、一直線に、分子レベルで静かに「消滅」した。爆発すら起きない。動力を失った鉄塊が、ただ雪山へと墜落していく。
「……おいおい、マジかよ」
アダムがライフルを撃ちながら、信じられないものを見たように目を剥く。
「お前、あんな燃費の悪そうなド派手な花火撃ってたのに、いつの間にそんなエグい精密射撃覚えたんだよ。しかも片手運転で」
「だから言ったろ。特訓の成果だって」
カズが薄く笑いながら、再び引き金を絞る。
続く二発の【アルファ・ゼロ】が、残るドローンを的確に沈黙させた。エネルギーのすべてを「破壊(消滅)」のみに変換した一撃は、魔力の消耗を全く感じさせない。
「よし、これで全部だ」
アダムが窓を閉め、熱を持ったライフルの銃身を撫でながら、ふぅ、とタバコの煙を吐き出す。
「ったく、お前といると退屈しねえな、カズ」
「お互い様だろ、アダム」
二人の同期が、コンソール越しに拳を軽く打ち合わせる。
追跡者の残党を完全に振り切ったホバーSUVは、雪崩の危険地帯を抜け、なだらかな稜線へと躍り出た。
「ミオ。さっき追跡者から引っこ抜いたデータ、解析は終わってるな?」
カズの問いかけに、後部座席のミオドロイドが赤い瞳を点滅させる。
「肯定。マスター・カズ。暗号化サレテヰタ座標データノ解読ニ成功シマシタ。フロントガラスニ、立体マップヲ投影シマス」
淡いブルーの光が立ち昇り、運転席と助手席の間に、巨大な都市の地下構造を模したホログラムが浮かび上がった。
それは、まるで蟻の巣のように複雑に絡み合った、おぞましい巨大地下施設の全貌だった。
「……これが、日本におけるオブシディアン・ミリテックの最大拠点……」
カズが息を呑む。
「【東京地下迷宮】。日本のクローン生産の根であり、イデアの元社長……一ノ瀬拓也の遺したデータが眠っているかもしれない場所」
ミオの無機質な説明が続く。
「施設ハ、地下百階層ニ及ブ巨大要塞デス。数万体ノ戦闘用クローン兵ト、最新鋭ノ防衛システムニヨッテ完全ニ隔離サレテヰマス。正面突破ノ成功率ハ、0.0001パーセント未満……」
「……はっ」
絶望的な数字を聞いて、アダムが短く鼻で笑った。
「随分と大掛かりな歓迎会じゃねえか。なあ、カズ」
「ああ。だが、行くしかない」
カズの言葉には、迷いがなかった。
彼の胸の奥には、シフティと交わした念話での密約が深く刻み込まれている。
『エリスの命が危ない時は、俺を見捨ててエリスに戻れ』
それはつまり、カズの唯一のチート能力である【死に戻り】を捨てるということ。たった一度のミスが、本当の「死」と「世界の終わり」を意味する、取り返しのつかない綱渡りの始まりだった。
それでも、カズは退かない。
もう、これ以上誰かが傷つくのを見て、死に戻ってやり直すのはご免だった。
目の前にいるアダム。後部座席で眠るエリスとアリス。そして、未来で待っているはずの明日香や夏帆。
彼ら全員を、今のこの【アルファ】の力で、この一回の人生で、必ず護り抜く。
「……正面突破しかねえなら、ぶち破るまでだ」
カズが前を見据え、オーダースーツの襟をスッと正す。
「上等だ。世界中を敵に回すって決めたんだ。東京の地下をひっくり返すくらい、どうってことねえよな」
アダムもまた、短くなったタバコを灰皿に押し付け、不敵な笑みを浮かべてシートに深く背中を預けた。
ホバーSUVが、厚い雪雲を突き抜ける。
視界が急激に開け、フロントガラスの向こうに、眩い暁の光が差し込んできた。
長かった、本当に長かった北アルプスの夜が明ける。
山の稜線の彼方、朝日に照らされて黄金色に輝く雲海の下には、彼らが向かうべき2100年の巨大都市・東京の摩天楼が、微かに、だが確かにそびえ立っていた。
「さあ、反逆の時間だ」
カズがアクセルを踏み込む。
青白い磁力光が尾を引き、ホバーSUVは空を滑るように加速する。
彼らの未来を取り戻すための、そして、クローンに支配された世界に反逆の狼煙を上げるための、決死の旅が始まる。
「――俺たちの世界を、取り戻しに行くぞ」
暁の空へと疾走する漆黒の車体。
その背中を、昇りゆく朝日が力強く照らし出していた。
(第二章 偽りのぬくもりと錆びた心臓・完)
(第三章 東京地下迷宮奪還編へと続く)
19回目の殺意を紅茶に添えて』第二章、これにて完結です!
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!作者のくろねこパパです。
最終話は、限界を迎えて後部座席でスヤスヤと眠るエリスとアリスを護りながら、前衛で大暴れするカズとアダムの「仲良し同期コンビ」の掛け合いを描きました。
オーダースーツ姿で涼しい顔をして精密射撃を決めるカズと、タバコを咥えながらライフルをぶっ放すヤンチャなアダム。中学・高校時代からの付き合いだからこそ出せる、この二人の阿吽の呼吸とバディ感、楽しんでいただけたなら最高です!
▼ 次回予告:第三章 第25話〜
一行を乗せたホバーSUVは、いよいよクローン生産の根源たる大要塞【東京地下迷宮】へと向かいます。
次章【第三章:東京奪還編】、さらにスケールアップした世界観とバトルをお届けしたいと考えておりますので、応援のほどどうぞよろしくお願いします。
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