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第二章:偽りのぬくもりと錆びた心臓-第22話:狂乱の器と、雷鳴の目覚め

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!作者のくろねこパパです。

https://x.com/k7nature1

▼ 前話(第21話)のあらすじ

カズの新技【アルファ・ゼロ】の威力が施設のステルスを破り、オブシディアンのバケモノ『特務追跡者』が強襲。カズの危機に直面したエリスは、顔や太腿に禍々しい紅い術式を浮かび上がらせる『トランス化(核心共鳴)』を発動させ、「私のマスターの前から消えろ」と冷酷に言い放ちます。

――今回は、その続きとなる第22話。

感情を排除した「殺戮の器」として特務追跡者を一方的に蹂躙するエリス。

しかし、その圧倒的な闇の共鳴は、もう一人のヒロインの内に眠る『強大な力』をも呼び覚ますことになります。

狂乱の闇と、美しき雷神。

フィッツジェラルド姉妹の真の力が解放される激アツのバトル回、ぜひお楽しみください!

(※ここから第22話の本文スタート)

「……ゴミクズが。私のマスターの前から、消えろ」


 氷点下の空気が支配するドーム状の訓練施設【アーク・セクター01】。

 天井の岩盤が吹き飛び、猛吹雪が吹き込む瓦礫の山の中央で、エリス・フィッツジェラルドは、もはや人間のそれではない「殺戮の器」としての真の姿をさらけ出していた。


 彼女の白磁のような顔、双剣を握る華奢な腕、そして露わになった白い太腿。その全てに、呪いのように複雑な幾何学模様の術式が、まるで皮膚の下を這う真っ赤な血管のように浮き上がり、禍々しい紅い光を脈打たせている。


 トランス化――『核心共鳴』。


 それは、イデアの元社長・一ノ瀬拓也と、エリスの父であるイアン・フィッツジェラルドが、長年の狂気にも似た研究の末に「育て上げた」究極の軍事兵器の姿だった。


「……オメガ、機動確認。……排除スル」


 漆黒の強化装甲を纏ったオブシディアンの『特務追跡者エリミネーター』が、両腕の高周波ブレードを唸らせ、赤い単眼のバイザーを明滅させてエリスへと突進する。

 だが、遅い。


 トランス化したエリスの網膜には、人間の限界を超えた特務追跡者の神速の踏み込みすらも、ひどく鈍重なコマ送りのように映っていた。


「遅い」


 エリスが、虚空を滑るように一歩を踏み出す。

 特務追跡者の高周波ブレードが彼女の首筋を捉えるより早く、エリスの振るったオメガの双剣が、漆黒の装甲ごと追跡者の右腕を根本から『消滅』させた。切断ではない。圧倒的な闇の魔力が、触れた質量そのものを削り取ったのだ。


「ギ、ガァァッ……!?」


 特務追跡者が初めて苦悶の機械音を漏らし、残った左腕で反撃を試みる。

 だが、エリスの表情には微塵の感情もない。彼女の全身を覆う紅い術式がさらに激しく発光し、ドス黒い闇のオーラが施設内の光を貪り食っていく。


「もろい。……死ね」


 無慈悲な宣告と共に、エリスの双剣が追跡者の胸部装甲を十字に切り裂く。火花とオイルが飛び散り、特務追跡者の巨体が瓦礫の中へと無様に吹き飛んだ。

 圧倒的。まさに蹂躙じゅうりんだった。

 だが、カズの胸元に浮遊する黄金の精霊・シフティは、その光景を冷ややかな瞳で見下ろしていた。


『……ふむ。やはり、我が本母体であるエリスの器が共鳴せねば、あの「規格」は完全には起動せんか』


「シフティ……本母体って、どういうことだ?」


 カズが、目の前で化け物のように敵を圧倒するエリスを見つめながら、シフティに問う。

『簡単なことじゃよ、カズ。イアンと拓也は、エリスが幼い頃からその内に眠る「精霊の力」に気付いておった。彼らはそれを人工的に引き出し、軍事兵器として制御しようと研究を重ねた。……エリスのあの姿は、作られたものではない。我という守護精霊の力を引き金にして、彼女本来の闇の属性を「育てた」結果なのじゃ』


 シフティの言葉に、カズは息を呑む。


 あの禍々しい術式と闇のオーラは、改造手術の結果などではなく、エリスという少女が生まれ持った「本質」なのだと。


『そして……もう一つの「結果」が、今まさに目覚めようとしておるわ』


 シフティが、ふわりと視線を移す。


 その先には、エリスの戦いを食い入るように見つめていた双子の姉、アリス・フィッツジェラルドが立っていた。


「……え?」


 アリスが、自身の身体に起きている異変に気づき、小さく声を漏らす。

 彼女の銀色の長い髪が、無重力空間にいるかのようにふわりと逆立ち始めていた。


 バチッ……バチィィッ!!


 突如として、アリスの足元から青白い火花が弾け、周囲のコンクリートの床が焦げる。


「なっ……アリスの身体が、浮いてる!?」

 カズが叫ぶ。


 アリスの身体が、見えない力に引っ張り上げられるように、ゆっくりと数十センチほど宙へ舞い上がった。彼女の全身から、凄まじい密度の紫電(稲妻)が(ほとばし)り、周囲の空間にバチバチと悲鳴のような音を立てて放電していく。


 ドクン、ドクン……!


 施設内の空気が、ビリビリと肌を刺すほどの高電圧に帯電していく。呼吸をするだけで肺が焼けるような錯覚。


「なんと! エリスの共鳴に惹かれ、呼び覚まされよったわ」

 シフティが、まるで面白いショーでも見るかのように呟いた。


「どういうことだ!? シフティ!」


 カズが吹き荒れる紫電の風に耐えながら叫ぶ。


『なぁに、簡単なことじゃよ。エリスとアリスは双子。元々が一つだった存在から分かれ、能力を分け合った。属性はその時宿した精霊によって決まるが、エリスの場合は元々持って生まれた力が「闇」じゃ。それに対して、アリスは精霊を宿し、その宿した精霊が「雷」じゃったというだけのこと』


 シフティが語る間にも、アリスの胸元が眩い紫色の光を放ち始める。

 まるで、彼女の心臓そのものが雷のコアに作り変えられているかのように。

 そして――アリスの胸元から、弾けるような閃光と共に、『それ』が姿を現した。


 紫電を纏う、純白の雷鳥を思わせる美しき高位精霊。

 アリスの内にあの1月の惨劇の日からずっと微睡まどろんでいた【雷の精霊】が、双子の妹であるエリスの強大な闇の共鳴に惹かれ合い、ついに完全な覚醒を果たしたのだ。


『しかし……あの精霊、とんでもない魔力量じゃの。空気に雷が溶け込み、ビリビリと痛む程じゃ。あれ程の魔力量の精霊がただ出てきただけでこの有様じゃ。技でも放とうものなら、この施設ごと消し飛ぶやもしれんの』


 シフティは不敵な笑みを浮かべ、静かに語る。


『じゃが、カズ。お主の方が格上なのはよく覚えておくんじゃな。アリスとお主がもし本気で戦闘になるとしても、カズ、お前が負けることなどあり得んのじゃよ。お前は「すべてのアルファ」を統べる器なのだからな』


「……分かってる。今は、アリスの覚醒を見届けるだけだ」


『言うてる間に、アリスが完全に覚醒しよったぞ。さぁ、お手並み拝見といくかの』


     *


 宙に浮いていたアリスの足が、静かに床へと降り立つ。

 彼女を包んでいた紫電のオーラが、嘘のようにピタリと収まった。だが、それは力が消えたわけではない。雷の精霊の膨大な魔力が、彼女の細い肉体と、腰に帯びた名刀『三日月宗近』の鞘の中に、極限まで圧縮・充填されたのだ。


「……なるほど。これが、父様たちが遺してくれた、私の『本当の力』」


 アリスが傍らで浮遊する上位精霊を見つめ、静かに呟く。


 彼女の銀髪には、うっすらと紫色の光の粒子が纏わりついている。

 その時、瓦礫の中から、半壊した特務追跡者が立ち上がった。

 エリスの闇の魔力によって右腕と胸部装甲を失い、オイルを血のように流しながらも、その赤い単眼は冷酷にカズたちを捉えていた。


「……ターゲット【アルファ】。……オメガ。……及ビ、未知ノ高エネルギー体。全テ、排除スル」


 特務追跡者の内部から、ブスブスと不気味な排気音が漏れ出す。失われた右腕の断面からスパークが散り、剥き出しになった人工筋肉が異常な隆起を見せた。生存本能の欠落した機械仕掛けの殺意が、施設内に残るわずかな酸素すらも焼き尽くしそうなほどの熱量となって放射される。

 その単眼が最も危険な対象としてロックオンしたのは、覚醒したばかりのアリスだった。

 残された左腕。そこに備わった高周波ブレードが限界出力を超え、赤熱して周囲の雪と瓦礫を瞬時に蒸発させる。


「死ネェェェェッ!!」


 人工声帯を破壊するほどの絶叫。特務追跡者が、床のコンクリートを粉砕しながら弾丸のように跳躍した。数百キロの巨体が空を裂き、音速を超える唐竹割りがアリスの脳天へと振り下ろされる。


 死の刃が迫る。しかし、アリスは瞬き一つしなかった。


「……」


 彼女は三日月宗近の柄にそっと右手を添え、まるで氷上を滑るかのように、ゆっくりと敵の懐へ向かって歩み寄っていく。


 そして。


 ガギィィィィィィィィンッ!!!


 鼓膜を破るほどの凄まじい金属の衝突音が、ドーム状の施設全体に反響した。

 カズは目を疑った。

 血は一滴も流れていない。アリスの細い腕がへし折れることもなかった。

 アリスは、刀身を鞘から抜くことすらしていなかった。たった一本の『鞘』の側面だけで、特務追跡者の全質量と高周波ブレードの破壊力を、頭上のわずか数センチで完全に受け止めていたのだ。


 激突の余波でアリスの足元の岩盤がすり鉢状に陥没し、紫電の衝撃波が円形に吹き荒れる。だが、彼女の姿勢はミリ単位でさえ揺らいでいなかった。


「……バ、カ、ナ。……計算外ノ、耐久値。出力、エラー」


 追跡者の機械音声が、ノイズ混じりの驚愕に歪む。

 鍔迫り合いの体勢のまま、アリスは涼やかな顔で敵の赤い単眼を見つめ返した。彼女の周囲には、極限まで圧縮された紫色の放電が、チリチリと空間を焦がしながら舞っている。


「ふふっ……力任せに振るうだけの刃なんて、ただのなまくらにしかすぎません」


 アリスが、柄を握る手にほんの僅かに力を込め、鞘を弾く。


 ドゴォォォォンッ!!


 たったそれだけの動作で、特務追跡者の漆黒の巨体が、まるで不可視の巨大なハンマーで殴り飛ばされたかのように、数十メートル後方へと凄まじい勢いで弾き飛ばされた。

 瓦礫の山に激突し、立ち上がろうともがく機械の残骸。

 まるでその場に静止して立っているようにしか見えないアリスの動きには、一切の無駄がなかった。舞を踊るかのように洗練され、そして、恐ろしいほどに美しかった。


「さて……」


 アリスは目を閉じ、低く腰を落として、極めて自然な動作で居合の構えをとった。


「そろそろ、お遊びは終わりに致しましょうか」


 その静かな宣告と共に、三日月宗近の電磁加速鞘が、雷の精霊の膨大な魔力を一気に吸い上げ始める。


 キュィィィィィィィィィィン……ッ!!


 これまでにない甲高いジェネレーターの臨界音が鳴り響く。

 柄を握るアリスの右手に、視界を白く染め上げるほどの紫電が収束していく。空間の電荷が狂い、彼女を中心に無数のプラズマが弾け飛んだ。


 一呼吸。


 そして、アリスが冷徹なる死の宣告を紡ぐ。


 電磁抜刀術・真打。


「――【雷閃らいせん紫電一文字しでんいちもんじ】」


 抜刀。


 その瞬間、アリスの姿がブレた。


 カズの【アルファ】の動体視力をもってしても、彼女が刀を抜いた軌跡すら捉えることはできなかった。

 ただ、アリスが立っていた場所から、遥か後方に吹き飛ばされた特務追跡者の背後へと続く直線状の空間に、世界そのものを焼き斬るような巨大な「紫色の稲妻の壁」が、一瞬だけ出現した。


 ゴロゴロゴロゴロ……ッ!!


 遅れてやってきた、破裂音に近い乾いた落雷の直撃音。その圧倒的な轟音が、ドーム施設の岩盤を激しく揺らし、瓦礫を粉砕する。


「…………」


 アリスは特務追跡者に背を向けたまま、低い姿勢からゆっくりと立ち上がり。

 チャキリ……。


 美しく研ぎ澄まされた所作で、ゆっくりと三日月宗近を鞘に納めた。


 ズレ……。


 その清冽な納刀の音を合図にするかのように。

 背後で硬直していた特務追跡者の漆黒の巨体が、脳天から股下にかけて、真っ二つに『縦一文字』に両断された。

 切断面は超高圧の雷撃によって完全に焼き焦がされ、細胞はおろか、一滴のオイルすらこぼれることはない。

 重力に従い、左右に分かれた二つの鉄塊が、轟音と共に床に崩れ落ち、沈黙した。


「……ふぅ」


 アリスが銀髪をかき上げ、小さく息を吐く。

 その姿は、狂乱の闇に身を委ねた「殺戮の器」たる妹とは対極の、静寂と美しさを極めた『雷神』そのものであった。


第二章 第23話へとつづく

いつも『19回目の殺意を紅茶に添えて』をお読みいただき、本当にありがとうございます!作者のくろねこパパです。

今回は、ヒロイン二人の圧倒的な戦闘力を描いた覚醒回でした!

イデアによって究極の軍事兵器として育て上げられたエリスの『トランス化』。そして、妹の共鳴に惹かれ合ってついに目覚めたアリスの『雷の精霊』。

禍々しい闇の力で蹂躙するエリスと、一切の無駄がない美しい居合で一刀両断するアリスの対比、楽しんでいただけたでしょうか?(アリスの新技【雷閃・紫電一文字】、作者的にもかなりお気に入りです!)

そして、そんな化け物じみた双子すらも凌駕する「格上」として君臨するカズ。彼がすべての光を統べる『アルファ』としてどこまで強くなるのかも、今後の見どころです!

▼ 次回予告:第23話

特務追跡者を完全に沈黙させたアリス。しかし、激しい戦闘の余波で『アーク・セクター01』の施設は半壊状態に。

一段落ついた一行ですが、エリスのトランス化の反動や、アリスの覚醒による変化など、まだまだ課題は山積みです。そして、カズの『アルファ』としての地獄の修行の行方は……!?

次回、激闘を終えた彼らの次なる一手にご期待ください!

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