第二章:偽りのぬくもりと錆びた心臓 第17話:絶望の2102年と、変わらない過去
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明日香とエリスの口喧嘩イラスト投稿しました
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▼ 前話(第16話)のあらすじ
施設の最下層『アビス』で、巨大な時空転送装置がいきなり起動。光の輪の中から実体化したのは、ARとSMGで完全武装した「二人の女子高生」でした。そのうちの一人、黒髪パッツンの明日香は、なんとカズの小学生時代の幼馴染!
感動の再会……かと思いきや、オッドアイを赤く光らせて双剣を構えるメイドのエリス。小学生の頃の思い出話など、ヒロインのライバル探知アンテナが許すはずがありません。ドローン戦以上の殺気が渦巻くアビスの底で、ヒロイン戦争の火蓋が切って落とされた――かに見えましたが……?
――今回は、その続きとなる第17話。
バチバチに火花を散らす二人を横目に、明日香たちの口から語られるのは、2102年の地獄のような未来、そして自分たちが過去へ来た本当の目的。
過去を変え、未来を救うための「終わらない戦い」。その一縷の望みが、誰も知らない施設の最奥で、歴史のバグと激突します……!
「ニセモノって誰に言ってんの? やる気? てかニセモノってなんなの? 意味わかんないし!」
挑発的にSMGを構え直す明日香に、エリスは冷たいオッドアイのまま鼻で笑った。
「あぁー、あまりにも訳の分からない突拍子もない登場だったので、(作られたただの)ホログラム映像かと思っただけです。このニセモノが!!」
「はぁ!? 喧嘩売って――」
「エリス、もうやめてくれ!」
一触即発の空気を引き裂くように、カズがついに口を開き、二人の間に割って入った。
「彼女は俺の幼馴染なんだ。紹介するよ、『早坂 明日香』だ。仲良くしてくれると助かる。……それに」
カズはエリスの肩を優しく叩いて宥めると、時空転送装置の周りで「うわ、これヤバっ! マジでレトロフューチャーじゃん」と興味津々にあちこち見て回っている金髪の制服姿の少女を指差し、明日香に問いかけた。
「あの子は明日香の友達? ちょっと紹介してくれないかな?」
カズが明日香にそう告げ終わるのと同時だった。
夏帆はカズの存在にようやく気づき、パッと顔を輝かせて駆け寄ってきた。
「あっ! カズ隊長!! こんな所で何してるんですぅ? そう言えば昨日の話しなんですけどぉー」
夏帆がカズに向かって何の屈託もなくそう言い放った瞬間、明日香の顔面からサァーッと血の気が引いた。
(夏帆のバカァァッ!! ほんっと天然!! 向こうで何度も何度も釘刺したよね!? もし過去で隊長と出くわしても、未来のことは絶対に内緒って!!)
「……えっと、どこかで会ったかな?」
カズは夏帆の言葉に首を傾げた後、スッと表情を鋭く引き締め、明日香を見据えた。
「というより……さっきから俺を『カズ隊長』とか『隊長』って呼んでるみたいだし、二人ともあの時空転送装置から完全武装で出てきたとなると、俺だって馬鹿じゃない。だいたいの察しはつくよ」
カズの言葉に、エリスがピクッと眉を動かしたが、黙ってカズの背後に控える。
「明日香、教えてくれ。お前たち、この装置と……イデアの秘密を知っているんだろ?」
カズの真っ直ぐな視線から逃れられないと悟った明日香は、天井を仰いで盛大なため息をついた。
「あぁー……もう! 面倒くさいな。夏帆のバカのせいで台無し。……わかった、もうどうなってもいいから話すよ」
明日香はSMGのセーフティをかけ、重い口を開いた。
「私たちはね、ここから少し先の未来……2102年から来たの」
*
【 2102年(未来)―― 人類防衛軍 前線基地 】
空は、業火に焼かれたように赤く染まっていた。
イデア・ジェネシスの旧研究施設跡地に作られた防衛軍の最終防衛ライン。その巨大な防壁の外側は、地獄と化していた。
『――前線からの報告!! 敵視認、数、約3000!! ゲートからこちらの防衛ラインに進行中です!!』
脳内の無線から飛び込んでくる悲鳴のような報告。
防壁の上で仁王立ちになり、眼下の絶望的な軍勢を睨みつけているのは、22歳に成長した一ノ瀬 和だった。
黒のタクティカルコートを翻し、その瞳にはかつての迷いはなく、歴戦の指揮官としての鋭い光が宿っている。
「魔弾に魔力を全力集中させ、全て焼き払え!! 何としてもこの基地だけは落とさせはしない!!」
カズの怒号と共に、防壁から無数の魔力砲火が放たれ、大地を抉る。
だが、煙が晴れた後、敵の軍勢は足を止めるどころか、さらにその悍ましい姿を露わにした。
『ダメです!! メナス(脅威)級!! ゲートから大型のメナス級が召喚されたとの報告!! 数、100……いや200、それ以上です!! どんどん増えてます!!』
「クソッ……!!」
カズは壁を強く殴りつけた。
迫り来るのは、巨大な腕や多脚を持つ、異形の生体兵器群。
全ては、あの『裏の組織』と手を組んだ軍事企業――【オブシディアン・ミリテック】が、イデアの社長である父を脅し、クローン技術を盗み出したことが発端だった。
彼らは強奪した技術でクローンを量産。やがてクローンがクローンを作り出し、遺伝子の崩壊と融合を繰り返した結果、人類を滅ぼす「化け物」へと変貌したのだ。
ハザード(危険)級、メナス(脅威)級、タイラント(暴君)級……そして、その頂点に君臨する、消滅の属性を持つ『カタストロフ(大厄災)級』。
あの『金髪のカズ』によって、世界は完全にカオスへと叩き落とされていた。
「そもそも、オブシディアン・ミリテックが父さんを脅し、技術を盗まなければこんなことには……!!」
カズはギリッと奥歯を噛み締め、インカムのスイッチを入れた。
「明日香、夏帆、いるか! ちょっと大事な頼みがある!こっちに来てくれ!」
『了解、隊長! 』
『任せてカズ隊長ぉ! 派手にぶちかましてからそっち行くね』
「明日香、夏帆、君ら二人には今から2100年の2月2日の過去に行って貰う!!」
未来の地獄。それが、彼女たちが毎日命を懸けている「日常」だった。
*
【 2100年(現在)―― 旧イデア施設 アビス 】
「……というわけ。未来のあなたは、人類防衛軍の隊長として、毎日オブシディアンのバケモノどもと戦争してるの」
明日香の告白に、カズとアダムは言葉を失っていた。エリスだけが、伏し目がちに黙り込んでいる。
「私たちがこの時代に来たのは、オブシディアン・ミリテックがイデアのクローン技術の中枢データを強奪する『2100年2月2日』……つまり、今日、この施設の襲撃を阻止して、未来を変えるためだったんだけど……」
明日香が唇を噛み締めた、その時だった。
『――警告。警告。メインサーバー室ニテ、大規模ナ破壊活動ヲ検知』
部屋の隅に控えていたミオドロイドの赤いLEDが、けたたましく点滅を始めた。
「なっ……!?」
『オブシディアン・ミリテックノ強襲部隊ト推測。……タダシ、敵ノ規模及ビ装備ハ、予測データヲ大幅ニ上回ッテイマス。メナス級プロトタイプ、複数体ノ反応アリ』
「嘘でしょ!?」
明日香が血相を変える。
「私たちの知ってる過去のデータと違う! 今日の襲撃は、少数の工作部隊だけのはずよ! なんでいきなりメナス級の試作型が投入されてるの!?」
「……歴史のスケールが、バグっているんだ」
カズが低く唸る。この狂った『19回目の箱庭』では、未来の知識すら通用しないほど、敵の力が底上げされているのだ。
「行くぞ!! データを死守する!!」
カズの号令で、全員がアビスを飛び出し、上層階のサーバー室へと走った。
だが――間に合わなかった。
彼らが駆けつけた時、サーバー室はすでに火の海だった。
アリスの電磁加速鞘による神速の居合、エリスの双剣、明日香のSMG、夏帆のAR、そしてアダムの重火器。全員の総力を結集し、待ち受けていた異形のメナス級プロトタイプたちを辛くも撃破することには成功した。
しかし、巨大なメインサーバーのコンソールは無惨に破壊され、クローン製造に関するすべてのコアデータは、すでにオブシディアンの暗殺部隊によって外部へと完全送信された後だった。
「……クソッ!!」
カズが焦げた床を殴りつける。
過去を変え、未来を救う。その一縷の望みは、圧倒的な物量と強さの前に、脆くも崩れ去った。
「……ダメだったね。私たちの任務は、失敗」
明日香が、力なくSMGを下ろした。データが盗まれた以上、彼女たちがここに留まる理由はもうない。歴史は変わらず、あの絶望の未来は確定してしまったのだから。
再び、最下層のアビス。
青白い稲妻を放つ時空転送装置の前に、明日香と夏帆が立っていた。
「ごめんね、カズ君。……ううん、隊長。結局、私たちは過去を変えられなかった……」
「明日香が悪いんじゃない!悪いのは……俺も、必ず未来でお前たちと合流する。それまで、死ぬなよ」
カズが拳を差し出すと、明日香は少しだけ悲しそうに笑い、コツンとその拳を合わせた。
ゲートの光が強くなる。明日香はふと、カズの背後に立つ銀髪のメイドへと視線を向けた。
「……また未来で私たちに会ったら、今度は少しは優しくしてね、メイドさん!」
「……誰が。一生関わりたくありません」
エリスはそっぽを向いたが、その声には先ほどまでの強烈な殺意はなかった。
「あははっ、カズ隊長、また未来でねぇー!」
夏帆が大きく手を振る。二人の少女の姿は、光の奔流に包まれ、ゲートの向こう側へと静かに消えていった。
*
それから、数日が経過したある日のこと。
カズとエリスは、物資の調達のために街の繁華街へと出ていた。
オブシディアンの襲撃以来、奇妙なほど世界は静かだった。何かが終わったわけではない。嵐の前の静けさだと、誰もが理解していた。
「……先輩」
ふと、隣を歩いていたエリスが足を止め、カズの袖を軽く引いた。
彼女の青い瞳が、交差点を歩く名もなき人々を、射抜くように見つめている。
「どうした、エリス?」
「……なんか、この人達……変です」
エリスの言葉に、カズも周囲を見渡す。
一見、いつもと変わらない日常の風景。だが、すれ違うサラリーマンの、カフェで笑い合う学生の、立ち話をする主婦の……その『瞳の奥』が、ひどく無機質で、冷たい泥のように濁っていた。
そう。それは、少しずつ、しかし着実に。
人類が『クローン』に殺害され、密かに入れ替わり、
乗っ取られているという……終わりの見えない恐怖(インベ
ージョン)の、ほんの始まりに過ぎなかったのだ。
第二章第18話へとつづく
いつも『19回目の殺意を紅茶に添えて』をお読みいただき、本当にありがとうございます!作者のくろねこパパです。
今回は、未来の世界(2102年)での絶望的な戦争、そして「過去を変えることはできない」という、時間旅行ものの残酷な真実を描いてみました。
二人の父親の衝撃的な告白、未来から来た少女たちの失敗、そして彼女たちの帰還……。
「また未来で私たちに会ったら、今度は優しくしてね」という明日香の言葉を残して消えた彼女たち。彼女たちが去った後、日常の繁華街でエリスが気づいた、人々の『瞳』の異変。
終わらない恐怖の「始まり」を、ぜひ感じていただければ幸いです。
▼ 次回予告:第17話
「……なんか、この人達……変です」
エリスが指摘した人々の瞳の異変。それは、見知らぬ人だけではありませんでした。
日常が、静かに、しかし着実に、何者かによって「侵蝕」され始めている。
すれ違う家族、隣の住人、そして自分自身の「妹」……。
本当の「終わり」は、巨大な機械でも化け物でもなく、すぐそばにある日常からやってくる――。
ヒロインたちの感動の抱擁、そして新キャラとの別れから一転。
日常が崩壊していく静かなホラーサスペンスが幕を開ける次回!お楽しみに!
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