8 合流
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「開けて! 中に入れて!」
身体を押しつけて扉をこじ開けようとするが無理だった。
「ダメだ。逃げよう」
扉を諦めて逃げようとするが、すぐにミランダはたたらを踏む。
前からも騒ぎを聞きつけたゾンビたちが寄ってくるのが見えたからだ。
狭い廊下で前と後ろをゾンビに挟まれる格好になった。
「どうする。どうする?」
半ば不可抗力とは言え、2階に登ったのは失敗だったとミランダは後悔する。
ああ、せめてこの扉が開いてくれればともう一度扉を見ると、扉がちょっと開いて、誰かがこちらを伺っていた。
目と目が合う。
扉が開くのとゾンビがミランダに飛び掛ってくるのはほとんど同時だった。
「ひゃっ!」
ミランダは懸命に噛みつこうとしてくるゾンビを押し返そうとした。
しかし、ゾンビの力は強く、まるで押し返せない。
じりじりと迫るゾンビの口。
避けようと体をのけぞらせる。ズルリと足が滑った。
ドン!
背中を床に強かに打ちつけ、痛みにミランダは顔をしかめた。
ガチンと目の前でゾンビの口が閉じられる。
気づくとミランダはゾンビに押し倒された格好になっていた。
再びゾンビの顔が近づいてくる。それを払いのけたいが重くてできなかった。
⊡
再び、扉がドンドンと激しくたたかれた。
またリビングデッドどもが扉をこじ開けようとしているのだろうかと、シスレーとシエスタは顔を見合わせてる。とはいえ今度はしっかりバリケードを作っていたので安心感が違った。
「開けて、開けて、お願い。 助けて!」
安心した直後に扉の向こう側から悲痛な声が聞こえてきた。
「え、これって、誰かが助けをもとめているんですかね?」
「そのようだ」
「え、え? どうしますか?」
「どうもこうもないだろう。助けるんだ」
「いや、でも、開けたらリビングデッドが入ってくるかもしれませんよ」
シスレーの言葉にシエスタは立ち上がると扉の方へ向う。
「それでコーヒー飲みながら、助けを求める誰だか知らない人を見捨てる?
君は一生、コーヒーが飲めなくなるよ」
「ああ、分かりました。先輩は下がっていてください。そういうことは僕がやりますから!」
シスレーは、せっかく作ったバリケードをまた汗をかきながら外すと、扉を少しだけ開けて様子を見た。廊下には見覚えのある女性がいた。女性がくるりと顔を向けた。
目と目があう。
シスレーはそれが王子の婚約者のミランダ嬢だと理解した。と、リビングデッドがミランダを押し倒した。
シスレーは慌ててミランダを助けようと廊下に飛び出た。
「あ、あぶない!」
⊡■
外へ出たとたん、別の女の声がした。
そっちへ目を向けると自分に向かってリビングデッドがとびかかってくるのが見えた。間一髪、その攻撃を手で押さえる。
しかし、ミランダを助けられる状態ではなくなった。
襲い掛かってきたリビングデッドの背後にはまだ数人のリビングデッドの姿が見えた。
これ、詰んだんじゃないか、とシスレーは思った。
「ホ、ホーリーライト!」
掛け声と同時に廊下が光に包まれた。
と、リビングデッドの圧力が無くなった。
「今です! 早く」
声に促され、シスレーはリビングデッドを突き放すと急いで部屋に飛び込んだ。
ミランダも一瞬の隙を見逃すことなく、ゾンビを蹴り飛ばすと転がるように部屋に逃げ込む。
と、同時に扉が閉まる音がした。
「ありがとう、助かったわ」
ミランダは床に手をついたまま荒い息を吐いた。
周囲をすぐに確認する。
部屋の四面の壁に本棚が設置され、床にも所狭しと本が散乱していた。
男子生徒の後ろにもう一人いることにミランダは気づいた。
黒髪のショートにメガネをかけた女子生徒。
どこかで見たことがあったが思い出せない。
「ミランダ様とクレア様とは、これはまた剛毅な組み合わせですね。
治癒魔術研究同好会へようこそ、おいでくださいました」
治癒魔術研究同好会と聞いて、ようやく思い出すことができた。
生徒でありながら魔術学会へいくつもの画期的な魔法理論を提示している学園きっての天才少女、シエスタ·ホーキングであるとミランダの記憶が言っていた。
「ところで大丈夫でしょうか。
ミランダ様ではなくクレア様の方。
顔が真っ白ですが?」
シエスタの言葉に、ミランダははっとなってクレアを見た。
クレアは胸を押さえ、苦し気に顔をゆがめていた。
「だ、大丈夫、クレア。
まさか、ゾンビに噛まれたりしてないでしょうね?」
慌ててクレアの体をあちこちを確認するミランダに、クレアは笑顔を見せた。
しかし、その笑顔は無理やりに作っているのとわかった。
苦しい息の下、クレアは答えた。
「ええ、大丈夫です。ミランダ様に守っていただきましたから。
ただ、あんなに一生懸命走った後にホーリーライトを使いましたので、ちょっと、胸が苦しいだけです。大丈夫、静かにしていれば、時機に良くなりますから」
「走った後にホーリーライトを唱えるなんて、それは自殺行為ですよ。
クレア様ならよくご存じのはずでしょうに」
「どういうこと?」
「魔法を唱えるということはものすごく体に負担がかかるのです。
特にホーリーライトみたいな強い魔法だと唱えたとたんに心拍数が跳ね上がります。
100メートルを全力疾走した直後ぐらいに。
それを走った後に唱えたら……わかるでしょう。心臓が壊れますよ」
「クレア、あなた、また、そんな無茶をしたの?!」
「いえ、はい……ごめんなさい。でもあの時は、そうしなければ……」
クレアは苦し気な表情で言い淀んだ。
何が言いたいかはミランダにも分かった。
たしかにあそこでクレアがホーリーライトを唱えなければ、今頃、みんなゾンビになっていたかもしれない。
「……、いえ、ごめんなさい。
私が言いすぎたわ。あなたがホーリーライトを唱えなければ、みんな、ゾンビになっていたかもしれない。
ありがとう。
でも、もう、あまり無茶なことはしないでちょうだい」
それがミランダ言える精いっぱいの言葉だった。
「ところで、です。今、学園では何が起こっているのでしょう?
なにがとても不可解なことが起こっているのはわかるのですが、それがなんなのか。
たとえばホーリーライトをかけたのにリビングデッドが消滅しない理由とか、さきほどミランダ様が口走った、ゾンビ、ですか?
ゾンビとはいったい何なのでしょう?
とても興味深いです」
ちょっと鼻息を荒くしてシエスタがミランダに顔を寄せてきた。




