↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/20

3 たった2人の逃避行

 ミランダとクレアは必死に王子たちの方へ向かって走る。

 走りながらミランダは王子に向かって叫んだ。


「殿下! 奥!

奥に扉があります!

そこから逃げられます!」


 ラブト王子はミランダとクレアが走ってくるのを見た。そして、ミランダの言っていることも理解した。

 そして……


「えっ?」


 走りながらミランダは信じられない光景を見た。

 王子は近衛兵を引き連れて、壇上の奥にそそくさと移動し始めたのだ。

 走ってくるミランダたちを迎え入れようともせず、一瞬の躊躇もなく逃げ出した。


 なんて奴!


 怒りが込み上げきた。

 だが、ミランダはその感情を無理やり抑え込む。

 今はそんなことに拘っている場合ではない。他に考えなければならないことがあった。

 王子たちに、壇上に引き上げてもらうつもりだったのだが、これでは自力で壇に上がるしかない。けれど、もたもたしているとゾンビたちの格好の餌食だ。


どうする……

どうする?


「これしかないっ!」


 持っていたナイフを帯に挟み、手近の長テーブルを両手で抱え上げた。

 長テーブルをひっくり返して、壇に下ろした。長テーブルは壇に載っかり、壇上までの簡易スロープが出来上がった。


「ほら、登って! そしたら走る!!」

 

 クレアを先に乗せ、先を行くよう促す。

 その後を追いかけようとミランダもテーブルに足をかける。その瞬間。


「ぐがぁ」


 完全に無防備になったミランダにゾンビが襲いかかった。


 ダメ!

 噛まれる


「ホーリーライト!」


 会場が再び聖なる光に包まれた。ゾンビたちの動きが一瞬止まった。

 その一瞬の隙をついてミランダは襲いかかってきたゾンビを蹴り飛ばし、その反動を利用してテーブルの上に飛び乗る。


「あ、ありがとう助かったわ」


 ミランダは荒い息をつきながらクレアに礼を言う。しかし、クレアはふるふると首を横に振った。


「浄化されないですぅ……」

「こいつらにホーリーライトは効かないと思う。

一瞬、動きは止まるみたいだけど」

「なんで。なんでですか?」

「説明は後! 今は逃げるの!」


 ミランダはクレアを押し、王子たちを追って奥の扉へ向かう。

 ちょうど王子が扉を通り抜けようとしていた。

 王子は一度振り返り、ミランダとクレアを見た。

 間違いなく見た。

 そして、何事もなかったかのようにそのまま扉の奥へ姿を消した。

 

 徐々にゾンビたちが壇上に這い上がってくる。

 最後の近衛兵が扉を抜けて数秒遅れてミランダたちも扉にたどり着いた。

 ノブに手をかけ扉を開こうとする。


ガチ


 何かに引っかかり、扉は開こうとしなかった。


「開かない?!

開けて。

開けて。

開けろ!

ああ、あのクソ王子、鍵掛けやがった!!」


 ミランダは絶叫して扉を思い切り叩く。だが扉は一向に開く気配がなかった。


「ミランダ様!」


 クレアの言葉でミランダは我に返った。

 振り返ると複数のゾンビたちが壇上に上がったところだった。

 

「ウガァ」

「グゴゴゴァ」


 ゾンビたちが一斉に襲いかかってきた。

 一瞬の閃光。

 この日、3度目のホーリーライトが閃いた。

 が、ゾンビたちが消滅することはなかった。

 

「うそ……や、やっぱり効かない……?」

「だから言ったでしょう!」


 クレアの腕を引き、強引に走らせながら、ミランダは叫んだ。


「あれはアンデッドじゃない! ゾンビ!

それも最悪……走るゾンビよ!!」

「ええ!? ゾ、ゾンビ!? なんですかそれ。わたくし、そんなの聞いたことありませんけど!?」

「説明してる暇はないわ! とにかく逃げるのよ。走りなさい!」


 壇上の逆の端には使用人用の通用扉があった。そこに向かって2人は走った。

 飾り気のない小さな扉にたどり着くと、転がるように飛込み、扉を閉めた。


 ドンドンと背後で扉を叩く音が響く。

 だが、どうやらゾンビたちはノブをひねって扉を開けることはできないようだった。

 ゾンビ化により知性と記憶が低下したのだろう。

 扉と床の間に詰め物をして扉をが開かないようにしようかとも思ったが、ミランダは思いとどまった。

 もしかしたら、まだ会場に普通の人がいるかもしれない。

 その人たちの逃げる道を塞ぐのは人殺しと同じだ、とミランダは結論づけた。

 

「大丈夫? 

どこも噛まれたりしてないわよね?」

「はい。どこも怪我はないです」


 しかし、その答えにミランダは満足できずにクレアの身体のあちこち、手首や足、肩口などを点検し始めた。


「えっ? ち、ちょっとお待ちください。

なにをされるのです」


 クレアは顔を赤らめ抵抗する。


「動かないで。噛まれていないか確認してるんだから」

「大丈夫です。リビングデッドに毒はありませんから噛まれてもかすり傷ですよ」


 ミランダは真剣な顔つきでクレアをじっと見た。


「あれはリビングデッドじゃない。

ゾンビよ。

毒がない? 大有りよ。

よい? ゾンビには絶対噛まれないようにしなさい。

噛まれ人にも近づいちゃ駄目。

噛まれた人はゾンビになるの。それはさっきの会場で見たでしょう?」

「毒があるとか、噛まれたらリビングデッドになるとか。さっきからなにをおっしゃってるのでしょうか。

そんな話、聞いたことないのですが」

「何度も言わせないで。あれはリビングデッドではなくてゾンビ」

「さっきからゾンビ、ゾンビって、一体なんなんですか?

なんでミランダ様がそんなことを知っているのですか?」


 クレアの問いにミランダは言葉を詰まらせる。

 なんと答えれば納得するか分からなかった。

 自分は異世界から転生してきたんだ、その記憶によると……と言ってもきっと理解できないだろう。


「それは……」


 ミランダはそこで言葉を切った。

 クレアはじっとミランダの言葉を待った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。