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2 だってそれ、ゾンビですから

 卒業パーティー会場は騒然となった。

 あちらこちらで悲鳴が上がる。

 襲われる者。

 逃げ惑う者。

 その中にぐねぐねと体を暫く動かしていたかと思うと突然狂ったように周囲に襲いかかる者もいた。


 ミランダにはそれがなんなのか。それが意味することがわかった。

 初めて見るはずの光景を見て、彼女は思い出した。

 それがかつて自分が生きていた世界でゾンビと呼ばれる存在であることを。


「リビングデッド!

なぜこんな下級のアンデットが学園内にいるのでしょうか」


 ミランダの横を1人の少女が通り過ぎた。

 クレアだ。


「皆さん! お下がりください。今、わたしが聖光(ホーリーライト)で彼らを浄化いたします」


 ああ、きっとそれは無理


 ミランダは心の中で思った。

 しかし、ミランダの心の声など知らないクレアは両手を広げ、神へ祈りを捧げる。


「ホーリーライト!」


 会場が眩い光に包まれた。

 聖女クレア。

 聖女の名前は伊達ではない。

 彼女こそ学園唯一、王国でも稀有な神聖魔法の使い手だった。

 不浄なものを一瞬で浄化するホーリーライトの前には、アンデットでもデーモンでも瞬き一つで塵と化すのだ。

 パーティー会場で暴れるリビングデッドなどこれで一掃……、一掃されるはずだったが……。

 ホーリーライトの光が消え、視界が戻る。

 何も変化はなかった。

 会場にいたゾンビたちは一瞬動きを止めたぐらいで、すぐに何事もなかったように再び奇声を上げながら周囲の生徒たちに襲いかかった。


「嘘……なんで効かないの?」


 クレアはその結果に呆然と立ちすくむ。

 と、近くに居たゾンビがぐるりと首をクレアに向けた。

 クレアと目が合った。

 次の瞬間


「ぐごおぉ」


 ゾンビが猛然とクレアに向かって走ってきた。


「キャァ」


 クレアの首にゾンビが噛みつく、その直前、間一髪ミランダがクレアにタックルした。

 二人はそのままゴロゴロと転がる。

 転がりながらミランダは近くのテーブルの下へ体を滑り込ませた。


「あ、ありがとうございます」

「シッ! 静かに」


 テーブルの下。

 クレアは礼を言うが、ミランダはそれを制して黙らせる。

 そしてそっと、テーブルの下から会場の様子を探った。

 逃げ惑う生徒たちの足。

 それを全力疾走で追いかけるゾンビたちの足が忙しく動き回っていた。

 どこを向いても同じ感じだった。


「どうしよう……どうする?

こんな時、映画じゃどうしてたっけ……」


 ミランダはぶつぶつ呟きながら会場の間取りを頭に描きながら必死に逃げ道を考えた。

 会場の間取りはこうだ。

 大扉のある南側。

 東と西に小さな扉が一つずつ。

 北側は壇になっていて、今そこにはラブト王子が退避していた。

 王子の回りには近衛兵たちが立ち塞がり、襲いくるゾンビ化した生徒たちから必死になって王子を守っていた。


「大扉……ダメだ。そもそもあそこからゾンビが来たんだからここ以上にゾンビがいる可能性が高いわ。

そうすると東と西の扉のどちらか……」


 ミランダはテーブルの下から東西の様子を確認した。


「ダメ…」


 東も西の扉もかなり距離があり、ゾンビが暴れ回っていた。


「……壇上の奥にも出入り口があったわよね」


 たまに生徒会で発表会をする時、壇上の奥の扉から登壇したことをミランダは思い出した。

 壇上へもう一度目を向ける。

 王子と近衛兵たちはまだ壇上にいた。

 壇に上がろうとするゾンビたちを必死に蹴り落としたり、押し返したりしていた。

 中には剣を抜いている者もいた。


 王子たちは奥に扉があることを失念しているのか、それとも知らないのか。壇上で固まったまま一向に逃げようとする素振りを見せなかった。


「あそこまで行って王子たちと合流できれば近衛兵たちに守ってもらいながら逃げられるかもしれないわ」


 横にいるクレアに言う。


「え? で、でもわたくし、皆さんを助けなければ……」


 クレアは涙目で答えた。

 その身体は小刻み震えている。


「なに言っているの?

貴女(あなた)、震えているじゃない。怖いんでしょう?」

「怖いですよ! こんなの怖いに決まってるじゃないですか。

でも、わたくしは聖女なんです。

みなさんを助ける義務があるんです」


 クレアはそう言うとテーブルから這い出ようとした。その手をミランダはぐっと握る。クレアの手は緊張で冷たかった。


「ダメよ。なにもできないから。

今は自分が生き残ることだけ考えるの。

そうしないとあっという間にアイツらの仲間入りよ」


 ミランダは猛り狂うゾンビへ視線を向けた。


 近くに落ちていた銀製のナイフを拾うと、ミランダは一度深呼吸をする。


「よい? 壇上まで走るわ。

王子たちと合流して奥の扉から脱出よ」

「え? あっ、はい」


 クレアはこくりと頷いた。


「私が合図したらとにかく壇上まで、王子たちがいるところまで走るのよ。とにかく全力で走りなさい。

分かった?」

「は、はい」


 ミランダはテーブルと壇までの間をじっと観察する。

 やがて一瞬、ゾンビたちがいなくなる。

 壇までの道が開けた。


「今よ。走れ!」


 ミランダとクレアは一緒になって走り出した。

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