19 戻ってこい!
「息してません。
死んじゃいました、クレアさん、死んじゃいましたぁ!」
シスレーが大声でわめいた。
「まさか……、いや、やはりと言うべきか。
多重詠唱は体への負担が大きすぎんだ。
多分、心臓が保たなかった」
シエスタは沈鬱な表情で言った。
「ちょ、ちょっと、なに言ってんの!」
ミランダが怒鳴り声を上げた。
「だから、クレアはあなたを助けるために命を掛けたんだよ!」
シエスタも負けずに怒鳴り返した。
しかし、ミランダは体をよじり身を起こすと、クレアに向かって這いずり始めた。
「もう何もかも遅いんだよ!」
そんなミランダに向かって、シエスタは諦めの声を浴びせた。
しかし、ミランダはそんな言葉に耳を貸そうとはしない。
「まだよ!
まだやれることがあるわ。
シスレー、早く私の縄をほどきなさい。
急いで!」
シスレーは言われるままにミランダの手の縄を解く。
「起きなさい、クレア。起きなさい!」
ミランダはクレアの頬を何度か叩き、覚醒を促す。しかし、目を覚ますことはなかった。
「ダメ……、息してない。
心臓も止まっている。
えっとこういう時はどうすんだっけ……」
ミランダは懸命に昔、受けた救急医療の講習のことを思い出す。
「胸骨の下、指三本ぐらいのところを、両手を重ねて……肘を曲げずに、体重乗せて……、押す、押す、押す」
ミランダは心臓マッサージを始めた。
シエスタとシスレーはその動きを奇異な目で見つめるだけだった。
「……28、29、30」
押しながら30を数えると、今度はクレアの口に自らの口を当て、息を吹き込む。
「……ミランダさん、なにやってるんです?」
「なにをやっているのか分からないけど。なんだろう、クレアを助けようとしてるのは分かる。
異世界の魔法のようなものかもしれない……」
必死に心臓マッサージと人工呼吸をするミランダを見守りながらシスレーとシエスタは囁きあった。
そんな2人に構うことなくミランダは必死にクレアの蘇生を続けた。
「ああ、駄目よ、駄目。戻ってきなさい。
貸しっぱなして、逃げるなんて私が許さない。
戻ってきて。
戻ってきて……私に貸しを返させなさい!
戻って来い! この、バカ聖女!!」
大粒の涙をこぼしながらミランダは叫んだ。
と、その瞬間。
クレアの体が突然海老反り、大きく息を吐いた。
「かはっ……ゴボ、ゴボ……」
「ああ、クレア、クレア……」
ミランダはポロポロ涙を流しながらクレアを抱きしめた。
「……ミランダさん……
私、バカ聖女じゃないです……」
抱きしめられながら、クレアは弱々しくクレームをつけた。
「全く……、そう言うこと言うからバカ聖女なんていわれるのよ」
「ひどい……、私、こんなに頑張ったのに。
ミランダさん、もうゾンビになんかならないですよね」
「ええ、あなたのお陰よ。
本当にありがとう」
「すごい! クレアさんが生き返った!
ミランダさんも神聖魔法が使えるんですかね?!」
「さぁ……、分からないけど。
あの2人は良いコンビだね。
って、ちょっと、待て。
どこ行こうとしてる!」
クレアたちの方へ歩いていこうとするシスレーをシエスタが慌てて引き止めた。
「もう少し2人だけにしてやりなさい。
それより私たちにはやる事があるでしょう」
「えっ、やること?
やることってなんでしたっけ?」
「忘れたのかい?
私たちがここへ来たのは花火でゾンビたちの気を惹くためだろう。
その準備をするよ」
シエスタは抱き合うミランダたちを置いて、花火の仕掛けを作る準備を始めた。




