20 Get away
花火の仕掛けを準備するのはそれなりの苦労もあったが、全員の協力でなんとか完成させた。
一度、試しに作ったロケット花火を倉庫の窓から飛ばしてみた。
効果は上々。
ロケット花火が着弾した周辺にワラワラとゾンビたちが集まっていくのを確認できた。
「さて、やれることは全部やった。後は試すだけだね」
シエスタがミランダ、クレア、シスレーの顔を順々に見ながらいった。どこか仕事をやりきった満足そうな表情だった。
「手はずは至って単純だ。
まずは爆竹を放り投げて倉庫周辺のゾンビたちを追い払う。
そしたら、今度はこのロケット花火を扉のところに置く」
と、言いながらシエスタは傍らの花火がハリネズミの針のようなロケット花火の塊を軽く叩いて見せた。
「そしたらこっちの導火線に火をつける。
後は花火がゾンビたちを誘き寄せるから、その隙に全力で正門まで走って逃げる。
理解した?」
シエスタの説明にみな、頷いた。
「では始めようか」
シエスタはそう言うとそっと扉を開けて外を伺った。扉から数メートルのところにゾンビが数体、佇んでいた。シエスタは爆竹に火をつけると出来るだけ遠くに放り投げた。
パン
パン
パパン パン
爆竹がけたたましい音を立てて爆ぜる。その音に釣られゾンビたちが移動し始めた。
その隙にミランダたちは倉庫から外へ出る。
「向きに注意して、あっちの方に向けて。
ロケット花火が正門に飛んでいったら門にゾンビの壁ができてしまう。そうなったら目を当てられない。
うん。それで良いよ。
さ、離れよう」
シスレーに細かい指示をしてロケット花火を設置させると倉庫の壁伝いにミランダたちが待機しているところまで移動した。
シスレーに導火線を渡す。
「? なんで導火線、二つあるんですか?」
シスレーが不思議そうなに質問した。
「ふふ、それは後のお楽しみだ」
シエスタはいたずらっ子のような笑みを浮かべ、ミランダの方へ顔を向けた。
「さ、逃げる合図はミランダさん、あなたに任せるよ」
なんで? と、聞くのをミランダは止めた。
この脱出が上手くいくかまだ分からない。
ならばこのチームの最後を見届けるのが自分の責任だと思った。
「いいわ。やってちょうだい」
そして、導火線に火がつけられた。そして……
ヒュ〜
ヒュ〜 ヒュ〜〜
ロケット花火が派手な音を立てながら思い思いのところへ飛んでいき落下した。
パン パン
パパン パン パン
バババババ
着地したところでさらに爆竹が破裂する。校庭のゾンビたちは突然のことに右往左往しながら音に向かって突進していく。
「今よ! 走れ!!」
ミランダは叫ぶと走り出した。
すぐ後にクレアが続く。
杖を無くしていたシエスタも懸命に走るが、やはり遅れ気味になる。
それでも歯を食いしばってシエスタ走った。
例え自分は逃げ遅れたとしても3人を正門まで辿り着かせられたらそれで満足だ、と思っていた。
その時、シエスタの体がふわりと浮いた。
気づくとシスレーがシエスタを抱き上げていた。
「ちょっ!? なにをやってる?」
驚いたようにシエスタが叫ぶ。
花火の爆音が轟く中、シスレーが叫び返した。
「なにって、先輩をおんぶしてでも逃げるって言ったでしょう」
「これはおんぶじゃない! お姫様抱っこだ!!」
「ああ、暴れないで! 走り難いですって。もっとひっついてください」
ひっつけと言われたシエスタの顔をみるみる赤く染まる。
「なにをバカなことを……」
言っている、と言う言葉は喉の奥に飲み込まれ、シエスタはその腕をシスレーの首に巻きつけた。
背後でのやりとりを見届けたミランダは隣で走るクレアにそっと手を差し出した。
クレアは走りながら、その手を一瞬不思議そうに見つめたが、すぐに微笑みながらその手を取った。
「もっともっと早く走るわよ!」
「はい!」
ミランダの宣言にクレアが返事を返した。
正門まで後30メートルほどになった時、門のところに1体のゾンビが花火に誘われることなく佇んでいた。
背中しか見えなかったけれど、その背格好、服装にミランダは見覚えがありすぎるほどあった。
「ミ、ミランダさん、あれってもしかして……」
隣を走るクレアもそのゾンビの正体に気づいたようだった。
握っている手に力が込められるのが分かった。
「ええ、そうよあれは……」
ドカーン
大音響と共に、倉庫が大爆発した。
シュルルルル ドカーン
シュルルルル ドカーン パチパチパチ
爆発と共に色とりどりな花火が空高く舞い上がり、爆発し、夕闇迫る空を色鮮やかに染め上げた。
「あははははは」
シエスタが愉快そうに笑い始めた。
彼女の第二の仕掛けが炸裂したのだ。
倉庫の爆発音に誘われ、正門のゾンビが振り返る。
それはラブト王子の成れの果てだった。
「これぞ正しきゾンビもののエンディングね」
ミランダは走りながら小さく呟いた。
クレアが首を傾げて言った。
「えっ? なんですか?」
今度はミランダは大きな声で叫んだ。
「良い、クレア? 私の言うとおりにしなさい!」
「えっ? は、はい……」
ミランダはさらに足を早めた。クレアもそれに同調する。
「足を上げて……」
「あ、足を上げて……?」
「蹴り飛ばせっ!!」
「け、蹴り飛ばす?!」
ミランダとクレアは王子だったゾンビを思い切り蹴り飛ばした。
ゾンビはキリキリと回転しながら吹き飛び、正門にぶつかる。
その弾みで学園の門が開いた。
その門をミランダとクレア。そしてシエスタを抱っこしたシスレーが駆け抜けていく。
倒れたままのゾンビを尻目にミランダは高らかに宣言した。
「私たちは生きてここを出ていきます。
そして、これからも生き延びますから!
それでは、さようなら。王子様!」




