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16 そんなのみんな、くそっくらえ

「ねえ、シエスタ……」


 ミランダは入口でうずくまったままシエスタの名を呼んだ。

 クレアの様子を見ていたシエスタは、顔をミランダの方へ向ける。


「花火の仕掛けについてはあなたに任せて良いかしら」

「勿論。

花火のことはよく分からないけれど、それはみんな同じだからね。

やれるだけ頑張る」


 シエスタの言葉にミランダは無言で頷く。そして、今度はクレアに声をかけた。


「クレア……具合はどう?」

「はい。もう大丈夫です」

「そう。それは良かった。

もう無理はしないでちょうだいね。

聖女だからって誰かの犠牲になる責任なんかないのだから。

……

それでシエスタ、後のことはあなたに任せようと思うの。

クレアのこと宜しく頼むわ。無茶させないでね」

「はい?

なにを言っているのだ?

まだ終わってはない。あなたの仕事はこれからでしょう。

まさかみんな、わたしに丸投げするつもりかい?」


 怪訝そうな表情でシエスタは言った。

 それに対して、ミランダは口元を歪めて笑った。


「残念ながら、私はここでリタイヤよ。

ゾンビに噛まれたの。

ほら、さっき押し倒された時にね」


 ミランダはそう言いながら自分のふくらはぎのところを見せた。

 そこにはくっきりと歯型がついていた。


「そんな、ミランダさん!」

「近づくな!!」


 駆け寄ろうとするクレアをミランダは激しい口調で制した。

 ビクリと怯えたように固まるクレア。


「近づいちゃ駄目よ。

いつ、あなたに襲いかかるか分からないのだから。

あのメイドたちみたいにはなりたくないでしょう」


 ミランダはすぐに穏やかな口調に戻り、教え諭すように言った。

 そして、扉を背にゆっくりと立ち上がった。


「まだ、近くにゾンビたちがいるかもしれないから……今、ここを開けるのはあまり得策じゃないわね。

でも、心配はいらないわ。もう少ししたら出ていくから」

「出ていくって! 

なにを言っているんですか?!」

「当然でしょう。私はゾンビなのよ」

「ミランダさんはゾンビじゃないです!」


 クレアは駄々っ子のように大声を上げた。


「まだね。

でも時間の問題なのよ、クレア。

ね、分かるでしょう?」


 ミランダは微かな笑みを浮かべる。

 それは可笑しかったからではなくて、駄々をこねる子供をあやそうとする母親の笑みに近かった。

 

「分かりません。分かりません。分かりません……」


 クレアはボロボロと涙を流しなから同じ言葉を繰り返した。


「泣かないで。

あなたのせいではないから。

噛まれたのは私のミスなんだから。

誰も気にする必要はないわ。

ふう。だんだん気持ちが悪くなってきた。

それに……なんか悪寒もするわ。

ああ、ゾンビウィルスが身体中で増殖しているのが実感できるわね。

こんな感じなんだ。すごく気持ち悪い……。

だから、そろそろ行くわ」


 ドアの取っ手に手をかけようと後ろを向いたその瞬間、クレアは駆けより、ミランダの手を取った。

 そして、泣きじゃくりながら叫ぶ。


「駄目です! 行かせません!!」

「ちょっと! 近づいたら駄目って言ったでしょう。いつソンビ化するか分からないのよ。離れなさい」

「嫌です。絶対に放しません」

「聞き分けのない子ね!

約束したでしょう。どちらかがゾンビになったたら見捨てるって。

シスレー! クレアを押さえてちょうだい!」


 シスレーは突然名前を呼ばれて戸惑い、シエスタの方へ目を向けた。

 しかし、シエスタは険しい表情のまま無言だった。


「私が治します!

だからあきらめないでください」

「それはもう試したじゃないの。

これは魔法じゃ治せないのよ。

放しなさい。どちらかがゾンビになったら見捨てるって約束したでしょう」

「そんなの、そんなの……

そんなのみんな、くそっくらえ! です!!」

「くそっくらえって、あなた……」


 想定外のクレアの言葉にミランダは面食らい、目をパチクリとさせた。


「あははは」


 突然、笑い声が響き渡った。

 シエスタが腹を抱えて笑い出したのだ。

 ミランダ、クレア、シスレーの、3人がぎょっとしたようにシエスタを見つめる。

 ひとしきり笑い終えたシエスタは目に涙を浮かべながら、言った。


「ああ、くそっくらえって、聖女様。

ほんと、クレア。

あなたのことが大好きになってしまいそうよ。

その言葉で私も腹をくくるわ。

シスレー! ミランダを捕まえなさい」


 シエスタの言葉にシスレーは一度びくりと体を震わせた。

 シエスタを二度見して、そしてミランダへ目を向けた。2人の相反する命令に迷っているのが一目で分かった。


「シスレー! 早くなさい!!」


 シエスタの一喝がシスレーの迷いを切り裂いた。

 弾けるようにシスレーはミランダに襲いかかった。


「ちょっ、ちょっと、やめなさい。

やめて……あなたたち、正気なの?!」


 クレアとシスレーに取り押さえられたミランダは身を捩りながら叫んだ。


「これでミランダをふん縛ってしまいなさい」


 シエスタが倉庫に転がっていたロープの束を2人に投げてよこした。

 ミランダは抵抗したが、ロープて手足を縛られるのにそれほど時間はかからなかった。


「あなたたち、なんてことをするの?!

自分たちのしていることが分かっているの?」


 床に転がった状態でミランダはマジ切れして怒鳴った。

 しかし、シエスタはどこ吹く風といった風でミランダを見下ろしていた。


「わかっているわ。

少なくともこれであなたがゾンビ化したとしても心配はいらないから安心して」

「なにを馬鹿なことを!

なんのつもりよ!」

「勿論あなたを治療するんですよ」

「なんですって……?

あなたはもっと合理的な判断をする人だと思ったのに!」

「あは、そのセリフどっかで聞いたかも。

でも、わたしは大いに理性的なつもりよ」

「なにをバカな!

魔法でこれは治せないのよ」


 ミランダの言葉にシエスタの瞳がキラリと光った。


「そこよ、それ!

なんでこの現象が魔法で治せないと断言できるのか?

そこが知りたいのですよ。

それはあなたが、わたしたちの知らないことを知っているから。

……じゃない?」


 シエスタの言葉にミランダは言葉を失った。

 あからさまに目が泳ぐのがわかった。


「な、なんのこと……かしら。

言っていることが分からないわ」

「さっき、ソンビウィルスとか言ったわよね。

ゾンビは分かる。でもウィルスってなに?

その言葉を聞いて確信したんの。

ミランダ、あなた、異世界からの転生者でしょう」

「て、転生者……なんのこと?」

「魔法に関する文献の中にはね、異界についての記述も沢山あるの。

その記述の中には異世界からの記憶をもった人たちの話がある。

それを転生者と呼んでいるわ。

その転生者たちは往々にして珍しい力やわたしたちが知らない知識を持っている、といわれている。

このゾンビという現象についてミランダの知識。それは転生者のものだよね?」


 ミランダはシエスタから目をそらし、黙り込む。しかし、シエスタは追及の手を緩めるつもりはなかった。容赦なく言葉を続ける。


「さぁ、話しなさい。

あなたは、まだわたしたちが知らないことを知っている。

今すぐ、知っていること全てを話しなさい。

それが私たちが探しているパズルのピースなのかもしれないのよ」


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