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15 約束 ひとつ

 ミランダはシスレーとゾンビの群れに突進する。

 そして、ゾンビの1体に渾身の体当たりをかます。

 

「ミ、ミランダさん!」


 シスレーがミランダの乱入に驚いたように叫んだ。

 ミランダに体当たりを受けてよろめいたゾンビだったが、すぐにぎくしゃくとした動きでミランダに襲いかかってきた。


「逃げるのよ!」


 ゾンビを両手で受け止めるとミランダは叫んだ。そこへもう1体のゾンビがタックルしてきた。堪えきれず、ミランダは2体のゾンビともつれながら地面に倒れた。


「あ、痛っ!?」


 地面に背中を打ちつけ、息が止まる。目の前にはゾンビの顔と血まみれの口があった。

 今すぐにものど笛を噛みちぎろうとガチガチと噛み鳴らしながらじりじりと迫ってくる。


 ああ、やっぱり、やめればよかった、とミランダは思った。


 その時だ。


「ホーリーライト!」


 叫び声とともに視界が光に包まれた。




「ああ、駄目です……」


 倉庫の入口でクレアは小さく呟いた。

 助けに行ったミランダがゾンビに囲まれたシスレーを助けようと突撃する姿を見ていた。

 それはあまりに無謀な行動だった。

 案の定、ミランダはあっさりゾンビに押し倒されてしまった。


 なんとかして助けなければ。とクレアは思う。

 そして今のクレアにやれることはひとつしかない。


ホーリーライト。


 だが、既に限界に近いクレアにとってホーリーライトは危険すぎた。

 ミランダやシエスタに禁止されていたし、それ以上にクレア本人が自覚していた。

 いま、ホーリーライトを、唱えたならなにが起きるか分からない。


私がゾンビになったら見捨てなさい


 クレアの頭の中にミランダとの約束が思い出された。


「ああ、でも……でも……」


絶対ゾンビにならない


 その直後に交わしたもう一つの約束が蘇る。


 そうよ、まだミランダさんはゾンビじゃない。なら、最後まで私は諦めない!


 クレアは意を決すると魔法を唱える。


「ホーリーライト!」


 心臓がなにかに鷲掴みされたようにずきりと痛んだ。


 光が閃き、ゾンビたちが硬直した。

 ミランダは渾身の力で2体のゾンビを押しのけると立ち上がると倉庫に向かって走りだした。

 今までの経験でホーリーライトの効果時間は数十秒しかない。その間に倉庫へ逃げ込まなければならない。

 

「シスレー!」


 ミランダは呆然と立っていたシスレーの腕をつかんで叫んだ。


「あ、ああ、ミランダさん……、無事ですか」

「そんなことはあとでいいから! シエスタ連れて、逃げるよ!!」

「え、あ、はい!」


 ゾンビたちはすでに動き始めていた。

 一刻の猶予もない。

 ミランダとシスレーはシエスタを両方から肩に担ぐようにして走り出す。


「急いで、急いで!」

「走れ、走れ!」


 二人は掛け声で調子を取りながら走る。

 それは三人四脚のようであったが、真ん中のシエスタの足はほとんど浮いた状態だった。

 その3人をゾンビたちが追いかけてくる。

 ミランダは倉庫の方へ目を向ける。

 入口のところでは、クレアが蹲っていた。

 

 ホーリーライトで無理をしたせいか? とミランダは直感した。


「クレア! クレア! しっかりして、ドアをあけて。はやく!」


 クレアは胸を押さえたまま、よろよろと立ち上がる。遠目からでもクレアの顔色から血の気がないのが分かった。

 それでもクレアはドアを開けてくれた。

 三人は倉庫へ飛び込んだ。


ピシャリ


 ドアが閉まる音と、同時に入口の扉になにかが激しくぶつかる音が響いた。


「ドアを! ドアを押さえて!!」


 間髪を入れず、ミランダは背中をドアに押し付け押さえる。ゾンビたちがドアを開けて入ってくることはないけれど、ドアが押し破られる可能性はあった。

 シスレーが加勢に加わる。

 二人してドアを抑えてていると、やがてドアを叩く音がしなくなった。

 記憶力がないのか、ゾンビたちの興味は長続きしないことは経験済みだ。

 ミランダはゆっくりと息を吐いた。


「私が押さえているから、何かつっかい棒になるものをさがして。

それからクレアの様子をみて。かなり調子が悪いみたい」

「……、いえ、わたしは、大丈夫……です」


 蒼い顔で答えるクレアにシエスタが割って入った。


「私が診るよ。

きっとホーリーライトの使い過ぎで心臓にきたんだろう。

少し休めば、良くなると思うけどね」

「……お願いするわ……」


 ミランダはそう答えると、そっと視線を落とした。

 その視線は自身の右足のふくろはぎに注がれていた。

 

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