14 花火大作戦
「じゃあ、整理するわ。
脱出ルートは正門。
グランドを抜けて正門から堂々と逃げる。
問題はグランドにいるゾンビたち。
ゾンビたちは音に反応して、そっちに向かう性質がある。
だからそれを利用する。
音を出す方法は、卒業パーティーのために用意された大量の花火を使うことにするわ」
ミランダは簡易に書いた地図を指さした。
指はグランドの隅っこにある四角を示していた。
「倉庫ですよね。それ」
「そう、倉庫よ。その中に花火とかが置かれているわ。
まず、その倉庫までいって、花火を順番に破裂するように細工する。
その後、少し離れたところまで導火線をひっぱっていって、火をつける。
後は花火が順番に爆発して、ゾンビをおびき寄せてくれるから、隙をみて正門に向かって走る。
簡単でしょう?」
「まあ、言うほど簡単じゃ、なさそうだけどね」
少しの間をおいて、シエスタがぼそりと言った。
「まず、倉庫まで行くのが大変だろう」
「そうね。でも、倉庫は都合のいいことに校舎の裏側伝いでかなりの距離まで近づける。
そこからは極力静かに、でも一気に走って倉庫まで行って、いそいでドアを開けて、閉める!」
「はぁ、極力静かに一気に走るって、なんか形容詞が殺しあっているんだけど……
とても安心できる計画とは思えない」
「それはもう、仕方ないでしょう。
こんな状況なんだから、ある程度のリスクを負うことになるのはしかたないわ。
それとも他にいい方法があるかしら?」
「……、うーん、ないね。ある程度のリスクは認めるよ。
でも、一つだけ確認させてほしい。たしか倉庫には常時鍵がかかっていたと思うのだけど、それはどうするの?」
「大丈夫。鍵の番号なら知っているから。私、こう見えても生徒会の者ですから」
「了解。じゃあ、まあ、がんばって」
シエスタの言葉に、ミランダは眉間にしわをよせた。
「また、そんなことを言う。あなたも行くのよ」
「いや、いや、今の計画を聞く限り、やっぱりわたしは足手まといじゃないか。
すばやく倉庫までたどり着くためには、わたしは最大のリスクになる。
だから一緒に行く意味がない。置いていくのが正解だ」
「いいえ、意味はあるわ」
「ほう? どんな意味が?」
「多分倉庫で花火の時限発火装置をつくるのにシエスタの知識が必要だと思う。
私たちにはあなたのサポートが必要なの。
だから、倉庫までは私たちがあなたをサポートする。
私たちはチームなの。
一人でも欠けたら生き残ることができない。そう思っています」
「そうです! 先輩は僕が背負って運びます。絶対連れて行きますからね!」
二人の剣幕に押されて、シエスタは両手を挙げて降参のポーズをとった。
「やれ、やれ。わかりました。
お手伝いします。
話を蒸し返して悪かった」
シエスタは首を横に振りながらやれやれとため息をついた。しかし、その表情はどこかほっとしたような、うれしそうでもあった。
ミランダは縄梯子から手を放して、地面に降り立った。
そして、前後、左右へ油断なく目を走らせた。
ゾンビの姿はない。
手で合図をすると、クレアが下りてきた。
そして、シエスタを背負ったシスレーが続いた。
全員が無事降りたのを確認すると、ミランダたちは校舎の壁に身を寄せながらグランドに向かって進んだ。
やがて校舎の壁は終わり、目の前には広大がグランドが現れた。
ミランダは校舎の壁からそっとグランドの様子をうかがった。
目指す倉庫は、およそ15メートルほどの距離だった。
その間を複数のゾンビたちがゆらゆらとあてもなく歩いていた。
「黙ってすり抜けるのは無理ね……
とは言えこれは織り込み済み」
ミランダは一旦、後ろに控える3人へ顔を向けた。
「じゃあ行くわ」
ミランダは近くにあった石を放り投げた。
石はぼとぼとと鈍い音を立てて地面を転がる。
と、近くのゾンビたちが反応して、ぞろぞろと石を追いかけた。
さらにそれに釣られて何体かのゾンビが動いた。
倉庫までの狭い道が開く。
一息、二息で駆け抜けられる距離だ。
「行くよ!」
みんなに囁くとミランダは走り出した。
その後をクレア、シスレー、シエスタが追いかける。
「ぐるる」
ゾンビの1体がミランダたちにすぐに気づいた。
ひたひたと走る一行を不思議そうに見つめていたがやがて思い出したかのように追いかけ始めた。
その1体の隣にいたゾンビも振り返り、そのまま隣にいたゾンビもと、雪崩のようにミランダたちを追いかけるゾンビたちは数を増やす。
「来た、来た、来たっすよ!」
「しっ! 静かに走るんだ」
悲鳴を上げるシスレーをシエスタが低い声でたしなめる。
杖をつきながら必死に走るシエスタ。そして、シエスタを守るように伴奏する2人が遅れて、ミランダとクレアが先行する。
これは想定されていたことだ、とにかく鍵の番号を知っているミランダが一番さきに倉庫に到着する必要があった。
ミランダは倉庫の扉に到着して鍵を開けようとしたその時、シエスタの肩にゾンビの手が触れた。
それを振り払い、走り続けようとする。
しかし、逆に足をひねって、バランスを大きく崩した。
「あっ?!」
小さな声を上げてシエスタは転んだ。
そこにゾンビが襲いかかってきた。
「だぁ!」
雄叫びを上げながらシスレーが襲いかかるゾンビに蹴りを食らわせた。
ゾンビは、のけぞり倒れる。
しかし、さらなるゾンビが襲いかかってきた。
「なぁっ! このやろー」
シスレーは噛みつこうとしてくるゾンビを押しとどめながら転んだシエスタの方へ目を向けた。
「せ、先輩! 立てますか?
ここは僕が食い止めますから、行ってください」
「え? でも」
シエスタはそう言いながら杖をさがす。杖はだいぶ遠くに転がっていた。
「ダメだ。わたしは置いて、君だけ逃げろ」
「なっ、ことをできるわけないでしょっ!!」
さらに襲いかかってきたゾンビを片足を上げて器用に防ぎながらシスレーが叫ぶ。
しかし、そこへもう何体かのゾンビが迫ってくる。もう完全に限界だった。
「ミ、ミランダさん、シエスタさんたちがっ!」
倉庫の扉のところでクレアが小さな悲鳴をあげた。
「待って、待って、もうすぐだから……、よしっ! 開いた!!」
扉を開けながらミランダは振り返る。
見るとシエスタが転び、襲いかかるゾンビをシスレーが必死に防いでいるのが見えた。
「私が助けに行く! クレアはここで待機よ」
ミランダは躊躇なく叫ぶと走り出した。
「シエスタ!」
ミランダはシエスタを引っ張り起こした。そして、シスレーの方へ目を向ける。
シスレーは2体のゾンビに防いでいたが、そこへもう2体が襲いかかろうとしていた。
もう、彼は助けられない
助けようとすればさらなる犠牲者がでるかもしれない
一瞬ミランダはそう思った。
その気配を感じ取ったのか、シエスタがボソリと言った。
「嫌だ。シスレーを置いてくなんてできない……
助けてよ……シスレー、助けてよ」
駄目だ。駄目だ。そんな危険は冒せない。
シエスタを連れて倉庫へ逃げ込め
頭の中で声が割れ鐘のように鳴り響いた。
誰も見捨てない。みんなで逃げる!
閃きのような声が耳元で囁いた。
あるいは頭の上から響いたのか、あるいはお腹の中から沸き立ったのか。
ミランダは奥歯を噛みしめると猛然とゾンビの群れに突進した。




