12 第2回 作戦会議
船着き場付近から黒い煙が幾筋も立ち上っていた。
目を凝らして見ると桟橋のところで船が燃えているように見えた。
理由は分からないが、とにかく船着き場から逃げるという案は絶望的だった。
「落ち着け!
こんな時はどうするって決めていたっけ……そうだ。
他の脱出経路がないかを探す、だ!」
シスレーは事前にミランダたちと打ち合わせていた手順を思い出すことで心を落ち着かせた。
とりあえず船着き場とは反対方向、つまり正門方向へと目を向けた。
一目見るなり、シスレーは落胆のため息をついた。
正門と校舎の間には広大なグランドが広がっている。校舎の玄関口から正門までは直線でおよそ200メートルほどで、横幅はそのほぼ倍の広さがあるのだが、ほぼ満遍なくゾンビらしき生徒たちが徘徊していた。
あんなところに出ていったら、たちまち四方八方を囲まれて身動きが取れなくなる。
強行突破など不可能だ。
「八方塞がりか……」
シスレーは屋上で一人、途方に暮れた。
「もしも船着き場が駄目だった場合、正門の強行突破しかないと思うのだけど、そうなったらやはりわたしはおいていくのが良いと思う」
シエスタが静かに言った。
ミランダはシエスタへ目を向けると、小さく首を横に振った。
「だから、それは結論が出ていることよ。誰も置いてはいかない。みんな助かる方法を考える」
「わたしは納得していないって言っているのです。
シスレーはわたしをおぶってでも逃げると言うと思うけど、そんなのは自殺行……」
ミランダはシエスタの言葉を途中で遮った。
「自殺行為!
そうよ。自殺行為よ。
でも、それはあなたを連れていく、連れていかない、という話ではない。
私たちだけだとしても、なにか策を練らない限り正面突破は難しいと思うの」
「策とは?」
「……、そう。なんというかゾンビの動きを止めるとか、注意を惹くとか、そういうたぐいの何かよ」
「なら、わたくしのホーリーライトで足止めを!」
クレアが手を挙げて、発言した。
「却下よ」
しかし、ミランダは即答する。
クレアは露骨に悲しそうな表情をした。
「なんでですかぁ……、わたしが聖女としてやっぱり頼りないから……ですかぁ」
「そうじゃない。
ホーリーライトの効果は数秒程度しか期待できない。
私たちが正門にたどり着くまでに何回ホーリーライトを使うことになると思ってるの?」
「いえ、わたくし、がんばりますから!」
「そういう問題じゃないの。
さっき、心臓が止まりそうになってたじゃないの。
死んじゃうわよ」
「いいんです。例え、わたくしがどうなろうとも……」
バン!
ミランダがとつぜん、机を叩くと立ち上がり、すごい形相でクレアを睨みつけた。
その剣幕にクレアは言葉を失い、固まった。
「あなたのそういう態度は我慢ならない! ずっと言っているでしょう。
誰も置いていかない。みんなが助かる方法を考えるって!
そのみんなの中には、クレア、あなたも入っているんですからね」
「だって、わたくしは聖女で……、だから、その……、みなさんを……えっと、ごめんなさい。
もういいません」
クレアはうつむくと小さくつぶやく。
ミランダはすこし息を吐くと椅子に座りなおした。
誰もが無言で、部屋には重い空気が漂った。
「まあ、ゾンビの気を惹く方法を考えてみるのはありだと思う」
シエスタが場を取り持つように口を開いた。
「一体、奴らはどんなものに興味があるんだろう。 えっと、言い方を変えると、どうやって襲うものと襲わないものの区別をつけているのかな?って話」
「そうですね。何に反応しているのでしょうか?
先ほど、玄関口に行った時、ゾンビさんたちはふらふら歩いているだけでした。
良く考えると不思議ですよね。なんで互いを襲わないんでしょうか」
二人の会話を聞きながら、ミランダはだんだんと落ち着いてきた。
内心、怒鳴ってしまったことを反省しながら、シエスタたちの疑問について思考をめぐらした。
音とか臭いに反応しているのかな
しかし、単純に音だけなら、クレアの指摘通り、ゾンビ同士で襲いあっていずれ自滅しそうなものだ、と思った。
映画の世界だとどうだったっけ?
吐く息に反応するとか、体内のウイルスを感知して選別しているとか、いろんな設定があったなぁ。と思い出す。
ああ、駄目だ。今の状況がどういう設定かなんてわからない。
無数の仮説をひとつひとつ試しているような時間はない。
じりじりとした焦燥に駆られながら、それでもミランダは自分を落ち着かせながら、今までの経験をもう一度おさらいしてみた。
その結果、先ほどの玄関先での経験を思い出した。
「少なくとも、一つ言えるのはゾンビは音に過敏に反応するみたい。
さっき、玄関口にいたゾンビたちが、逃げてくる生徒の声に反応して一斉に襲い掛かってきたから。
私たちは、それでゾンビに挟み撃ちにあって危うく死にかけたのよ」
その時、窓ガラスがトントンと音を立てた。
三人はいっせいに窓を見た。




