10 作戦会議
「今さらかもしれないけど、みんなで情報を共有するためにも、現状を整理しますね」
ミランダは3人の、クレア、シエスタ、シスレーの顔を順々に見つめながら話を進めた。
「理由は分からないけど私たちの学園にゾンビが突然発生しました。
ゾンビは人を無差別に襲います。
そしてゾンビに噛まれた人間はゾンビになります。
だから今、学園のいたるところにゾンビがいて、今もどんどんと増えていると思います。
ここまでは良いかしら?」
誰からも異議が出なかったのでミランダは話を続けた。
「私たちの学園は半島の先端にあります。
だから、出口は西の正門だけです」
「異議あり。裏門には船着き場があると思うけど」
シエスタが手を挙げて意見を述べた。
「確かに船着き場はあるけど船がなければそこから逃げことはできないわ。
まさか泳いで逃げるわけにもいかないでしょう」
「でも逆に船があれば安全に逃げられるとも言える。
ゾンビに噛まれた人間もゾンビになるっていうことは、人のたくさんいる場所にはゾンビもたくさんいるってことだよね。
多分グランドにはゾンビが沢山いると思う。
逆に裏門までの道筋は普段から人けがないからゾンビも少ないんじゃないかな」
シエスタの言葉にシスレーがうんうんと頷いた。しかし、口を開いたのはクレアだった。
「確かにエントランスには沢山ゾンビがいました。あの感じだとグランドにも沢山ゾンビがいるかもしれません」
「だから、そんなところを無理に突破するより裏口の方がリスクが少ないんじゃないのかな」
シエスタの言葉にミランダは悩んだ。
たしかに一理あるからだ。
「確かにそうね。
でもそれは船が船着き場にあればの話よ。なければ逆に詰みになる。
リスクが大きすぎるわ」
「なら確認してみればいい」
「確認? どうやって確認するの」
ミランダの問いにシエスタは指を上に向けていった。
「屋上。
屋上に上がって、見てみるんだよ」
「危険よ。屋上にだってゾンビがいるかもしれない」
「多分いない。普段屋上は施錠されていて誰も入れないからね」
「……だったら私たちも入れないじゃない」
「だから外から回っていくんだ」
「外から回る……どういう意味?」
ミランダの質問にシエスタは意味ありげに今度は窓を指さした。
窓を開けて外を見た。
窓はグランドとは逆を向いているため、見えるのは裏庭だけでグランドは確認できなかった。
また角度が悪いため船着き場に船があるかも分からなかった。
「ほら、あそこ。雨どいがあるだろう」
シエスタが窓から身を乗り出して右手を指さした。
たしかに、1,2メートル先に雨どいが屋上から階下まで下りていた。
「あの雨どいを使えば屋上まで行ける。屋上からならグランドの様子も船着き場への道筋も見通せる」
「たしかに、そうだけど。あそこへ手を伸ばして、それから雨どいを登って屋上へ上がるって、すごく危なくない?」
「危ないと思うよ。でも、何もわからずにやみくもに外に出るのもかなり危ないと思うんだよね」
シエスタの指摘に、ミランダは小さくため息をついた。
結局はそういうことだ。選択の余地はない。後は誰がその役目を引き受けるか、だけだった。
「ええ、ええ、そうでしょうとも。僕がやらないで誰がやるっていうんですか」
腰にカーテンで作ったロープを巻き付けたシスレーが少しやけくそ気味に叫んだ。
シエスタはシスレーの腰に巻き付けられたロープの反対の端へ一度視線を向けた。ロープは壁に固定された本棚に結わえられていた。
「大丈夫だよ。一番危ないのは雨どいに飛びつくのに失敗して落ちることだけど。そのために腰にロープをつけたからね。心配はいらない」
シエスタはちょっとロープを引っ張って強度を確認すると、そう言った。
「でも、その後は命綱もなくて雨どいを登るんでしょう。
そこで落っこちるかもしれないじゃないですか」
「うん、そこは落ちないように頑張るしかないな」
「もう、他人事ですよね」
「そんなことはない。君が失敗したらみんな立ち往生することになるから責任重大だ。
絶対失敗しないでくれ」
「……。はい、はい。
じゃあ、いってきますから、せめて最初だけは先輩も落ちないように応援してくださいよ」
シスレーはそう言うと窓から体を乗り出し、僅かな壁の出っ張りにつま先をひっかけ、思いっきり手を伸ばしてみた。しかし、あと数センチというところで手が届かない。
ふうっとシスレーはため息をつくと、シエスタへ顔を向けた。
「やっぱり届きません。飛びます」
真剣な顔のシスレーにシエスタは無言で頷いた。
「イチ、ニィの、サン!」
シスレーは壁を蹴って雨どいに向かって飛んだ。




