雪の都と白竜王
「わ~! 道が広くておっきいです~! パパも普通に歩けそうですね~!」
「確かに、問題なく歩けるだろうが……。街中をニーズヘッグ様の巨体が歩く姿を想像すると、ゾッとするぞ……」
雪都アパシにたどり着き、目的地へと続く大通りを歩く私たち。
道の端の方では私と同じ白い髪と白い角を持つ人々が、私たちを眺めている。
注目を浴びている理由は、ラタちゃんが入っている駕籠が気になっているからだろうね。
「ちゃんと隠れられているから問題ないけど、姿を見せながら道を歩いていたら、即座に囲まれていたんだろうね……。駕籠を使う許可を出してくれたこと、感謝しないとね」
「事情を知る人たちからすれば、聖獣の情報が広まっちゃうのはマズいからね。同時に、聖獣たちと交流を深めておきたいっていう気持ちもあるだろうから、かなり悩ましいことなんだろうけど……」
私の前を移動する駕籠は、ラタちゃんが動き回っているせいか左右に揺れている。
自由に行動させてあげられたらそれが一番なんだけど、とりあえず喜んでくれているみたいだから何よりかな。
「リッカ様がおわす御所は、アヴァル大陸で言う王城なんだったな? 服装だとか、問題ないのだろうか……」
「汚れが付いているわけじゃないから、多分大丈夫だよ。私たちが初めて御所に入った時も旅装束のままだったけど、何も言われなかったし」
「……なんか、二人の話を聞いていたら緊張してきたかも。変な言葉を使ったり、言ったりしないように注意しないと」
そんなやり取りを続けているうちに、私たちは御所の前にたどり着く。
周囲に人がいないのを確認しながらラタちゃんを駕籠から降し、厳かな造りの廊下を静かに歩きだす。
廊下の端で正座し、私たちに頭を下げている人々の姿を見ていると、なんだか私自身が偉くなったと錯覚してしまいそう。
その敬意はラタちゃんに向けられているんだろうけど、どうしてもね。
「こちらで白竜王様がお待ちになられております。皆様はご友人であることは存じておりますが、失礼のないようお願い申し上げます」
簡単な注意を受けた後、目的の部屋に続くふすまが横に開かれていく。
手にはじっとりと汗が浮かび、呼吸が速まっていくのを感じる。
大きく深呼吸をした後、開ききったふすまの奥へと踏み入れると。
「来たかレイカよ! おお! イデイアもミタマも久しぶりじゃのう!」
「はしたないぜ、リッカの嬢様。いくらご友人が訪れたからと言って、大声を出しては威信に関わるんじゃないか?」
「……そう思うのなら、そなたの話し方を改める方が先ではないのか?」
地位の高い人物たちとはとても思えない会話を聞きながら、畳が敷かれた部屋を進む。
私たちの瞳には、黒い髪に黒い角を持つ男性と、座布団に正座している白い髪と白い角を持つ少女の姿が映っている。
少女の方がリッカ様で、男性の方が彼女の教育係であるカゲロウ様。
カゲロウ様はその姿の通り、ブラックドラゴンの方だよ。
「ゴホン! 改めて久しぶりじゃのう、レイカ、ミタマ、イデイアよ。そして――そちらのドラゴンが、大地の竜の――ご子息か?」
「ええ、その通り――ですが、正しくは女の子です。ラタちゃん、自己紹介よろしくね」
「はい~。私は、大地の竜ニーズヘッグの娘、ラタトスクと申します~。よろしくお願いしますね~」
ラタちゃんはくるりと宙を一回転しつつ、自己紹介をしてくれる。
お互い朗らかな様子を見るに、相性は悪くなさそう。
そういえば、テペス君の姿が見当たらないけど、どこにいるのかな。
「テペスの坊やなら、別室で休んでいるぜ。プルイナ村から自分の足だけで移動してきたからか、くたびれちまったみたいでな」
「そんなに無理してたんですか……。でも、おかげでつつがなく謁見できたのですから、感謝しないとですね」
リッカ様とラタちゃんの会話が続く中、私たちはカゲロウ様と会話をすることに。
彼はブラックドラゴンとしては珍しく、純粋な力ではなく、知という力を強く求めるようになったお方。
その知識と知恵は、ホワイトドラゴンの私たちでも舌を巻くほど。
いまではこうしてリッカ様の教育係を務めているんだから、すごいよね。
「ほうほう、ラタちゃんはこの世に生を受けてそれほど時が経っておらぬのか。ずいぶんと我らのことを知ってのご様子なので、わらわよりも年上なのかと思ったぞ」
「レイカさんたちに色々教えていただきましたので~。リッカさんも私たちのことを良くご存知のようで、嬉しいです~」
リッカ様とラタちゃんの方へと意識を向けてみると、そこでは楽しげな会話が続けられていた。
リッカ様は自分と同じくらい、もしくは年下の存在と会話する機会が乏しいはずなので、新鮮なのかも。
ラタちゃんは、自分たち聖獣のことを深く知っている人物と会話ができることが嬉しいみたいだね。
「リッカさんとはもっとお喋りしたいですが、私たちがここに来た目的もありますからね~。そちらのお話を始めましょうか~」
「うむ、そうじゃな。テペスから話は聞いておる。雷鳴山へと登り、雷狐ハタヒコ様に拝謁したいとのことじゃったな?」
「はい。雷鳴山を登るための許可を頂くことと、登山をするための方法を知りたいのです。どうかご助力いただけないでしょうか?」
私たちのお願いに対し、リッカ様は悩むことなくうなずいてくれる。
快諾してくれるのは嬉しいけど、簡単に許可を出しても良いのかな。
「ハタヒコ様とは、そろそろ会合をしたいと思っていたのじゃ。今度、ルクスル大陸の調査が行われるじゃろう? 先んじて、彼の大陸に住まう聖獣のことを聞いておいた方が良いと思っての」
「なるほど……。聖獣とのかかわりが深いリッカ様は、正しい知識を集めておかなければいけませんもんね……。私たちも、レヴィア様から話を聞いておくべきかな……」
レヴィア様と初めて邂逅した時、彼女は私たちに試練という形で実力を測ってきた。
ルクスル大陸を見守る聖獣も、そういった形で見極めてこようとするかもしれないから、事前に情報を集めておくのは大切なことかも。
「彼の大陸や、そこに住まう種族の情報は、自分の目と耳で見て聞いた方が良いかもしれねぇが、聖獣ともなると話が変わってくるだろうな。俺たちに寄り添ってくれるとはいえ、機嫌を損ねでもしたら……な」
「逆鱗に触れ、暴れられたら私たちなど一捻りだろう。確かに情報は集めておくべきだろうな……」
「いくら何でも、そんなことは起きないと思うけど……。でもまあ、かちこちの氷像にされちゃうのは嫌だもんね……」
なぜかミタマちゃん、イデイアちゃん、カゲロウ様の三人は、聖獣の機嫌を大きく損ねた場合のことを想像している。
命を奪うようなことをしてくるなんて、私たちがよっぽどのことをしない限りないと思うんだけど。
氷の大陸を見守る聖獣ということで、冷たい性格をしているとでも考えているのかな。
「そこの三人の考えが正しいのかは置いておくとして……。直接的な働きかけはせぬとはいえ、わらわもホワイトドラゴンを、この大陸のことを考えねばならぬ立場じゃからのう。情報は集めておいた方が何かと都合が良いというわけじゃ」
「そういうことでしたら、私たちもご一緒したく存じます。もちろん、道中の護衛等もさせていただきますね!」
こうして私たちは、雷鳴山を登り、雷狐ハタヒコ様に会う権利を得ることに。
数日を雪都で過ごした後、私たちはリッカ様に随行する形で雷鳴山へと向かうのだった。




