雷鳴山に挑むために
「次なる目的地は、雷鳴山~。雷狐ハタヒコさんが守護する土地でしたよね~?」
飛空艇内の会議室にて、室内の宙をふよふよと漂っていたラタちゃんが確認をする。
イデイアちゃんが無事、物質に魔力を宿らせるという能力を開花させることができたから、次なる地に向かうための話し合いをしていたところだよ。
「雷が降り注ぐ土地って怖すぎでしょ……。三年前の旅では、よくそんなところに行けたよね?」
「何としてでもやり遂げないと、ダメな状態になってたからね~。怖いとか言っていられなかったのもあるけど、ソラお兄ちゃんやナナお姉ちゃん、たくさんの人が協力してくれたから、やり遂げられたっていうのもあるかな」
私たちが向かう予定の雷鳴山は、その名の通り雷が降り注ぎ続ける山。
前の旅の時は、お兄ちゃんが張った防御魔法の表面に、お姉ちゃんが雷の魔法を張り巡らせて、落ちてくる雷を逸らしたんだっけ。
「私たちも同じことをすれば、登頂も可能だろうが……。強化魔法を得意とするソラさんと、当時は至っていなかったとはいえ、現大魔導士のナナさんの魔法を組み合わせた結果うまくいったと考えると、私たちに真似はできないだろうな……」
「第一に、他者への強化魔法の付与なんてウチらにはできないもんね……。真似をする以前の問題だよ……」
イデイアちゃんも魔法は得意だけど、さすがにお姉ちゃんほどの実力はない。
防御魔法の展開はできず、雷の魔法を張り巡らせることもできないとなると、私たちの力だけで登山をすることは無理。
他に取れそうな手段は一つだけあるけど、そちらも望み薄。
でも一応、案として出してみようかな。
「雪都アパシに住まう白竜王様――リッカ様にお願いしてみるのはどうかな?」
私の案を聞いたミタマちゃんとイデイアちゃんが、頭に疑問符を浮かべたような顔をする。
そういえば、リッカ様の能力のことは二人とも知らなかったっけ。
「リッカ様が得意とする舞にはね、雷を逸らす効果を持つものがあるらしいの。だから協力をお願いすれば、うまくいくかもって思ったんだけど……」
「なるほどな……。しかし、リッカ様は王の立場に就くお方だ。いくら面識があっても、私たちに力を貸してくれるかどうか……」
「それ以前に、会えるかどうかすら分からないんじゃない? ソラさんならともかく、何も連絡していない状態で、いきなり会いに行っても門前払いだと思うよ?」
もっともな返事を受け、私は再び腕を組んで考え込んでしまう。
すると、室内の隅に腰を下ろし、毛繕いをしていたテペス君が立ち上がり、こちらに近寄ってきた。
彼は私の前でくるりと回転すると、こう口にする。
「ならば、ボクが先んじて雪都へと向かい、皆さんが会いたがっているとお伝えしてきましょう! 聖獣の子であるボクであれば、話を聞いてくれると思いますよ!」
リッカ様も私たち同様、聖獣と大きな関りを持っている人物の一人。
仮に私たちの話を聞いてくれなかったとしても、テペス君の言葉であれば耳を貸してくれるはず。
まあ、リッカ様が私たちを無視するなんてことはあり得ないけど、彼女と出会うまでに存在する障壁はいくつかあるから、それを気にする必要が無くなるのはありがたいよね。
「ふむ、ならばテペスが出発してからしばらくしたら、私たちも飛空艇で移動をするか。このまま出発しては、ゴウセツさんや村の人たちに一言もなく出発することになってしまう。挨拶くらいはすべきだろうからな」
「だね。それじゃあ、挨拶をしたら出発しようか。次の目的地は、雪都アパシってことで!」
私たちは再び雪に足を乗せ、プルイナ村へと舞い戻る。
家族に、村の人たちに、故郷に別れを告げた後、飛空艇は宙に浮かび上がり、北東の方角へと移動を始めるのだった。
●
「雪都アパシ、到着いたしました。プルイナ村周辺より気温が低下していますので、ご注意ください」
大地に飛空艇が下りる際の揺れと共に、艇内放送が響く。
荷物を手に、雪の上へと足を踏み出そうとしていると。
「また、ラタちゃんにはお留守番してもらうことになるのかな?」
「村程度の集落でも混乱が起きる可能性があるというのに、都ともなれば大騒ぎとなってしまうだろうからな……。人が集まり、その中に不埒な考えを抱く者が混ざれば、ラタを攫われるなどといったことも発生しかねないだろう。待ってもらっていた方が確実ではあるだろうが……」
アイラル大陸に来てからというもの、ラタちゃんは自由に行動ができていない。
ある程度の広さがある飛空艇とはいえ、同じ景色しか見られないのは可哀想。
けれど、聖獣の子という立場も思うと、連れ出すにも危険があるわけで。
「……私のことはお気になさらず~。皆さんから聞いたお話からでも、色々と想像はできますからね~」
自由に行動できないことを気にしていないといいつつも、ラタちゃんはどことなく寂しそうにしている。
彼女をカバンの中に入れて移動することもできるけど、それでは外の景色を見ることなんてできない。
人目に触れさせることなく、ラタちゃんを移動させられる方法があれば良いんだけど。
「ご準備中、申し訳ありません。雪都アパシの御所仕えの方々が、皆様にご面会を求められているのですが」
頭を悩ませていると、通路へと繋がる扉が開かれ、ゴブリンの搭乗員が現れる。
御所仕えということは、リッカ様が手配してくれた人たちかな?
私たちが到着すると同時に現れたってことは、テペス君のお願いを受け入れてくれたってことだと思うけど。
「なんにせよ、話を聞くに越したことはないだろう。飛空艇の外に出てみよう」
イデイアちゃんの言葉に頷き、飛空艇の外にいるという御所仕えの方々の元に向かう。
そこには確かに、地位の高そうな服を纏う人物たちの姿が。
近くに人を乗せて運ぶための駕籠が用意されているところを見るに、リッカ様のお傍で使えている方が乗っているのかな?
「レイカ様ご一行ですね? これより、皆様をリッカ様のおわす御所へとご案内させていただきます」
「あ、ありがとうございます。あの……。失礼ですが、そちらの駕籠は……?」
「テペス様より、大地の聖獣の子が共に参られたと聞いております。そちらのお方を隠しつつの移動に最適だろうとのご判断を受け、運んでまいりました」
確かにこの駕籠を利用すれば、ラタちゃんも共に雪都内に入れるだろう。
けれど、リッカ様やその御傍仕えの方々も利用するはずの物を、私たちが使っても良いのかな。
「聖獣に連なる方が利用するとなれば、何も問題はないでしょう。もちろん、暴れて壊すというのであれば話は変わりますが、そのようなことはないでしょう?」
「大人しい子なので、大丈夫ですよ! それじゃあ早速、連れてきますね!」
飛空艇へと踵を返し、会議室で待機していたラタちゃんに事情を伝える。
彼女は嬉しそうに宙で一回転すると、私と共に飛空艇外へ。
ラタちゃんを駕籠に乗せ、共に雪都アパシの御所へと向かうのだった。




