実家の祖父
「ただいま~! 帰って来たよ、おじいちゃん!」
実家の玄関を開きつつ、中にいるはずの人物に声をかける。
求めた人の姿はそこになかったが、家の奥の方から動き出すような音が。
部屋と部屋を隔てるふすまが横に動くと、その奥に年老いた男性が姿を見せる。
深くしわが刻まれ、いかめしそうな顔。
されど瞳には優しさが宿っており、帰ってきた私を歓迎してくれていた。
「無事、帰ってきたな。友人も一緒か」
「うん! ミタマちゃんとイデイアちゃんを連れてきたよ!」
「お久しぶりです、ゴウセツさん。ご健勝のようで何よりです」
「レイカちゃんの旅に同行する形で、プルイナ村を訪れました!」
私たちを出迎えてくれたのは、ゴウセツおじいちゃん。
見た目通り厳しくて多くを語らない人だけど、とても優しい人。
鍛冶師と魔道具技師を兼任しているからか、私が幼い時はおもちゃを作ってくれたりしたんだよ。
「旅……か。会いに来てくれるのは嬉しいが、わざわざ寄っていく意味も無いだろう。何かしら、ワシに聞きたいことがあると見たが?」
「さっすがおじいちゃん! 実は私たち、数カ月後に――」
「早く話したいのは分かるが、玄関で話すことではないだろう? 奥に入れ。茶と菓子を用意しよう」
奥へと進むように手招きをされたため、靴を脱いで畳に上がる。
座布団を三つ用意し、部屋の中心に置かれた囲炉裏の周囲に置いていく。
パチパチと火種が跳ねる音が響く中、冷えた体が少しずつ温まっていく感覚が。
アヴァル大陸の暖炉も良いけど、やっぱり私はこっちの方が好きかな。
「ゴウセツさん、元気そうだね」
「うん。前回来た時は、ちょっと調子が悪そうだったんだけど……。元気そうで良かったよ」
おじいちゃんは見た目通り、老齢の身。
鍛冶師や魔道具技師として働いているおかげなのか、歳の割には元気なんだけど、最近は調子が悪い時が時々ある。
薬を飲んだり、布団で寝ていたりした時もあるんだけど、今日はかなり調子が良いみたいだから、一安心。
「……そばにいた方が良いんじゃないか?」
「う~ん……。私もそう言ったことがあるんだけど、おじいちゃんには断られちゃったんだよね……。しかも、不機嫌な様子で」
「可愛い孫が、頑張っているところを邪魔したくないって言われたんじゃないの~? ゴウセツさん、そう言うこと言いそうだし!」
ミタマちゃんの考えは当たっており、実際に私は、おじいちゃんにそう言われた。
魔法剣士としての仕事や、英雄としての役目等々やるべきことは多々あるけど、それでもおじいちゃんは大切な家族。
いつまでも元気でいて欲しいし、調子が悪そうだったらそばに居たいよ。
「ワシとしても、お前たちがいてくれるのは嬉しいし、助かるがな」
おじいちゃんの声に振り返ると、丸い真っ白なお菓子が置かれたお盆を持ってくる姿が。
それを受け取り、ミタマちゃんとイデイアちゃんの前に置きながら、彼の言葉に耳を傾ける。
「お前が何かしらの病に伏せ、友人たちが看病しに来たとしよう。ワシと似たような感情を抱くんじゃないか?」
「そりゃあ確かに、嬉しくは思いつつも、自分のやるべきことをやって欲しいとは思うけど……。おじいちゃんはそうじゃないもん。いなくなっちゃうかもって思うと……」
私が不満を口にすると、おじいちゃんは小さく驚くような表情を浮かべたのち、どこか懐かしそうな表情を浮かべる。
変なことは言ってないと思うけど、どうしたんだろう。
「……いやなに。ワシも、ワシの祖父母にそんなことを言った記憶を思い出してな。同じ質問をワシがし、同じ答えをお前に返されるとは思わず、驚いたんだ」
「そっか。当たり前ですけど、ゴウセツさんにも子どもの時代があって、おじいちゃんやおばあちゃんがいたんですもんね。私たちが尊敬する大人たちは、ずっと昔から大人なんだろうなって、ついつい思っちゃいます」
「脈々と受け継がれていなければ、私たちは存在しない。私たちもまた、生まれてきた子どもたちや孫たちにそばに居たいと言われ、お前たちは自分のやるべきことをやれと返すのかもしれないな」
ずっとそばに居たいと思っても、命は必ず終わりを迎え、この世を去ってしまう。
おじいちゃんでもそれを経験してきたとなると、私がどうにかするのはおこがましいことなのかもしれない。
でもやっぱり、おじいちゃん――ううん、多くの人たちがずっと生きていて欲しいって思っちゃうな。
「この辺りは堂々巡りだ。いずれは納得し、受け入れるしかないだろう。それより、何かワシに聞きたいことがあるんじゃなかったのか?」
「そうだった。実は今度、ルクスル大陸って呼ばれている氷の大陸に行くんだけど――」
おじいちゃんに、強力な寒気を対策するための魔道具について相談をする。
すると彼は自身の作業部屋へと向かい、何かを探し始めた。
ガサゴソと音が響く中を待っていると、いくつもの魔道具と資料を手に戻って来る。
「これらは、いままでに作ってきた暖房関連の魔道具と、その資料だ。これらを活用することで、何かしらの手助けになると良いが……」
「おじいちゃんがそう言うってことは、誰でも使える魔道具はいまのところないってことだよね……。当てが外れちゃったかぁ……」
「こればかりは仕方がないな。だが、実物と資料を見せてくれたのはとてもありがたい。後は私の内に眠るという、物体に魔力を宿らせる能力が開花し、うまく効果を発揮してくれると良いんだが……」
イデイアちゃんは、受け取った資料を読みながらうなりだす。
私は私で魔道具を触りながら思案に耽っていると、おじいちゃんが好奇心を抱いた瞳をイデイアちゃんに向けていることに気付く。
種族の特殊能力という言葉を聞けば、興味を持たないわけがないよね。
「確かにそれを開花させられれば、新たな魔道具を作り出せるかもしれんな。ここには様々な素材もあるし、試していくか?」
「そ、それはありがたいお話ですが……。お邪魔ではないでしょうか……?」
「邪魔ってことはないんじゃない? イデイアちゃんの能力を開花させられれば、ゴウセツさんも新たな魔道具を作るきっかけにもなるかもしれないし、単に能力のことを調べるだけでも知見になると思うよ? もしかしたら、知りたいだけかもしれないけどね!」
ミタマちゃんの言葉に対し、おじいちゃんが恥ずかしそうに小さくうなずいたところを見るに、そういう魂胆があった様子。
老齢の身とはいえ、やっぱり彼もホワイトドラゴン。
知的好奇心をくすぐる何かがあれば、知りたくなっちゃうよね。
「……私も、自身に宿る力の正体を知りたいと思っています。もしかしたらそれをきっかけに、過去を思い出す可能性がありますので。ゴウセツさん、短い期間かもしれませんが、学ばせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わん――と言うより、むしろワシの方からお願いしたい。お前の力、調べさせてくれ」
ほんのわずかで、小さな期間の師弟関係が芽生えることに決まり、私たちはしばしの時をプルイナ村で過ごすことにした。
村での日々を懐かしんだり、村に近寄ってきたモンスターを追い払ったり、温泉を楽しんだり。
私たちは、それぞれの形で休息をするのだった。




