故郷を踏みしめて
「空の旅は素敵だけど……。景色が大きく変わるわけじゃないし、さすがに飽きてきちゃったなぁ……」
ミタマちゃんの気だるげな声に振り返ると、椅子に座って大きくあくびをしている彼女の姿が。
私たちの現在地は、インヴィス空中大陸から少し離れた空中――飛空艇の中。
空中大陸に来る前も空を飛び、いまもこうして空を飛んでいるので、飽きてきたという気持ちは分かるかな。
それでも私は、何かしらの特別な光景が見られるかもと思って、窓に張り付いているんだけどね。
「アイラル大陸にたどり着いたら、まずはプルイナ村に行くんだったよね? 故郷で家族と会ってくるの?」
「うん。お父さんとお母さんは都で働いているから、実家にいるのはおじいちゃんだけだけどね。でも最近は会う機会も減ってきていたから、近くに来ているのなら顔を見せていかないと」
「家族と顔を合わせる……か。飛空艇があればどこにでも行けると思っていたが、ルビア大陸にはいまだ向かえない。魔力の霧の中で、家族たちは何をしているんだろうな……」
武器の手入れをしていたイデイアちゃんが、小さくつぶやく。
彼女が持つ銀の剣身には、愁いを帯びた表情が映りこんでいる。
ちょっと、配慮に欠けたことを言っちゃったかな。
「ああ、すまない。気にせず話を続けてくれ――と、本来なら言いたいんだが……」
「ううん。私たちも、イデイアちゃんのことを考えずにお喋りしちゃってごめん。もしあれだったら、プルイナ村には行かなくても……」
「いや、それは行き過ぎた配慮だろう。家族と会える余裕があれば会うべきだし、しばらくぶりの故郷の様相をみることに悪いことなどあるわけがない。私としても、あの村の温泉は入って行きたいからな」
温泉のことを話題に出したイデイアちゃんの表情は、小さく笑みが浮かべられていた。
故郷という言葉に複雑な思いを抱きつつも、楽しみを他に見出しておく。
彼女の割り切った考え方は、見習わないとね。
「操縦席より連絡いたします。前方から飛空艇の接近を感知いたしましたので、少々航路を変更いたします。揺れが発生する可能性がありますので、ご注意を」
再び窓に視線を戻そうとしたその時、天井に取り付けられた装置から放送が聞こえてくる。
揺れの衝撃で転び、何かに体をぶつけてはたまったものではないので、固定された椅子にでも座ろうかと思ったその時。
「あれ……? この気配は……」
遠方から、知っている気配が近づいてきていることに気付く。
これは、スターシーカーの気配?
もしかして、近づいてきている飛空艇に乗っているのは――
「どうした、レイカ。放送があったのに、窓に近寄るのは危ないんじゃないか?」
「うん……。どうしても気になっちゃって……。スターシーカーが近づいてきているみたいだからさ」
窓に張り付き、周囲に視線を送る。
青と白しかない景色の中、高速移動をする黒い点を見つけた。
遠方だから判断は難しいけど、多分あれが飛空艇かな。
そして、あの中にスターシーカーがあって、その持ち主のラクリマちゃんがいるんだと思うんだけど。
「は~。スターシーカーの気配を探知できるなんて、レイカちゃんもすごい人になったもんだね~。魔法剣士になる前の試験では、私に負けちゃってたのに」
「そ、それは関係ないでしょ!? それに、いまは私が勝ちこしているじゃない!」
「程度の低い言い合いになってるぞ。身内同士での強弱など、比べる意味などないだろうに」
室内が騒がしくなっていく中、飛空艇は目的地に向けて移動を続ける。
やがて窓には南に緑を、北に白い雪を抱いた大地が見えてきた。
私の故郷、アイラル大陸。その中の最高峰である雷鳴山には、黒い雲が垂れこめていた。
●
「さっむ~い……! 防寒着はしっかり用意してたつもりだけど、やっぱりこの辺りは寒いね~……!」
「ルクスル大陸は現在の気温よりもっと低くなるんだろう? 防寒着以外にも、対策は増やしておいた方が良いかもしれないな」
白い大地を踏む音が複数続く中、話題はルクスル大陸の調査についてのものとなる。
かの大陸は氷の大陸であり、雪だらけのアイラル大陸北部より寒さが強まるのは確実。
防寒着を着込む程度では寒さを防ぎきれない可能性があるので、何かしらの対策を用意しておいた方が良さそうだね。
「でも、防寒着を着込む以外で対策なんてできるのかな。熱を発生させる魔道具とかはあるけど、魔力の消費が激しいし、魔法を使えないと扱えないから……」
「魔法を使える、使えないで不公平感を与えるわけにはいかないからな……。確か、レイカの祖父が魔道具技師でもあったよな? 何か助言を貰うのも良いかもしれない」
「確か魔法族って、物体に魔力を宿らせることができるんだったよね? イデイアちゃんがそれを利用する形で、新しい魔道具を作ってみるとかどう?」
ミタマちゃんの発言を聞き、私とイデイアちゃんは顔を見合わせてしまう。
彼女が言う通り、魔法族は物体に魔力を宿らせることができると、神族の皆さんから聞いている。
でも、イデイアちゃんは記憶を失ってしまったがゆえに、そういった特殊能力関連も扱えなくなっていると思っていたから、考えもしなかったなぁ。
「魔法族の力か……。記憶を呼び覚ますきっかけになる可能性がある以上、試してみる価値はあるかもな。だがまあ、うまくいくかどうか分からないことよりも、知識も経験もある人物から話を聞く方が確実だろう」
「手段はいくつも用意しておいた方が良いもんね! それじゃあわずかな時間だけど、プルイナ村を堪能していってね!」
雪道を進み、プルイナ村の入口へと踏み入れる。
故郷の独特な香りと、知り合いたちの嬉しそうな表情に喜びながら、しばしの休息を取ることにするのだった。




