次なる旅は
「ルクスル大陸渡航計画の事前説明は以上です。計画に参加希望の方は、書類の方に記名をお願いします」
タルボ村の中央に置かれた舞台に上がり、未来に行われる計画の説明をするソラ君。
周囲には村の住民であるブラックドラゴンたちが、期待を寄せた様子で耳を傾けており、瞳にも強い輝きが灯っている。
渡航計画とはいえ、調査が主なので興味を持たれないかもしれないと考えていたが、さすがの彼らも異大陸へ向かえる可能性を知り、好奇心を抑えられないようだ。
「異大陸……! つまり、強い奴と戦える可能性があるってことだよな!」
「それだけじゃないかもよ? いろんな種族の人たちが集まってくるから、戦いぶりを学ぶ機会にもなるはずだし!」
「見たことねぇモンスターとも戦えるってことか……! そんなの、我慢できるわけねぇぜ!」
話が終わったためか、人々は興奮した様子で一斉に会話をしだす。
知的好奇心によるものでは無いということに、呆れを抱いてしまったものの、こちらの方がブラックドラゴンらしくある。
しかし、こうも戦闘に期待を強めていては、渡航計画中に勝手な行動を取ってしまいそうなのだが。
「期待を高めてくれるのは良いが、勝手な行動は慎むようにな。仮に渡航計画中に我らが問題を起こしてしまえば、更に未来で行われる予定の、ルビア大陸渡航計画に参加できなくなる可能性があるのだからな」
少し離れた場所で様子を見ていた、タルボ村の村長――ホムラさんが口を尖らせながら注意をする。
彼女もまたブラックドラゴンであるように、戦闘や鍛錬に強い興味を抱いているのだが、村の人々たちと比べるとずいぶんと冷静だ。
事前に渡航計画のことを知っていたはずなので、落ち着いて話を聞くことができたのだろうか。
「それもあるだろうけど、ホムラ村長は他の種族の代表と会議をするようになったからね~。他のブラックドラゴンのみんなよりも、異種族たちとの付き合い方を知っているし、戦闘への好奇心を剥き出しにする危険性を、強く理解しているんだろうさ~」
私の右手のひらに座り、説明会の様子を見ていたルビーさんが、ホムラさんの近況を説明してくれる。
異種族と深く交流をしたことで、自身の種族の問題点、難点を深く理解したということだろう。
互いの求めるもの、興味を持つものが異なることを知る者が存在するのは、己の種族をより繁栄させる強みとなる。
事実、ホムラさんの言葉を聞いた村人たちは、己の欲望を抑え、ソラ君の話をさらに詳しく聞こうと質問等を始めていた。
「ああ、そうだ。イラさんからルビーさんに贈り物があるのを忘れていました。え~っと、確かここに……。あった、あった」
自身のカバンに手を入れ、とある物を取り出す。
豆粒のように小さな道具――ルビーさん用に大きさを調整された、通信端末だ。
「へ~! これを持ってきてくれたってことは、大陸間での通信が可能になったってことだよね? さすがはルビーさんだね!」
「使い方は、過去の世界で使っていた物と同じになっています。まだ量産体制はできていないようなので、無くしたり壊したりしないように注意してくださいね」
ルビーさんは通信端末を手に取ると、早速、通信機能を試しだす。
自身の通信端末が音を鳴らしたため、回路を開きながら耳に当てると、彼の声が聞こえてきた。
ここに来るまでの道中で何度か戦いがあったが、故障等が起きている様子はなさそうだ。
「ルビーさんに通信端末を運ぶという役目は、これで終了。後はソラ君たちにも渡せば、この大陸での目的は終わりかな」
「次の大陸に向かうってことだね。アヴァル大陸、アイラル大陸って渡って来たのなら、次に向かうはインヴィス空中大陸か、アディア大陸になるけど……。どうするの?」
インヴィス空中大陸はその名の通り空中に浮かぶ大陸なので、向かう手段は飛空艇に乗り込む以外にはない。
しかし、それに乗り込むにはアディア大陸に向かう必要があるので、アディア大陸行きの定期船を待ち、その後に飛空艇に乗り込んでインヴィス空中大陸へ、という順番になるだろう。
「飛空艇ならすぐそこにあるじゃないか~。ソラ君たちに頼めば、空中大陸に連れて行ってくれるんじゃな~い?」
「え? ああ、確かに……。でも、彼らはすごく忙しい立場ですし、邪魔をしちゃったら――ううん、最初から決めつけちゃうのはダメですよね。説明会が終わったら、声をかけてみようっと」
顔を上げると、説明会が終わったのか、舞台に集まっていた人々がはけていく様子が。
座っていた木箱から立ち上がり、ルビーさんと共にソラ君たちの元へと移動する。
彼はそばで様子を見守っていたウェルテさんと会話をしていたが、私たちが近寄ってきていることに気付くと、笑みを浮かべながらこちらに視線を向けてくれた。
「お疲れ、二人とも。説明会はうまくいったみたいだね?」
「ホムラさんが皆さんをなだめてくれたからね。彼女の一声がなかったら、正確な説明ができなかったかもなぁ……」
ソラ君の瞳には、ホムラさんと村人が会話をしている様子が映っている。
恐らくは、渡航計画に参加して良いかの確認と、選抜者をどのように決めるのかを話し合っているところなのだろう。
「実は、ソラ君にお願いしたいことがあって……。その前に、イラさんから受け取った通信端末を渡しておくね」
ルビーさんにした説明をソラ君にもしつつ、インヴィス空中大陸に向かいたいという要請をする。
すると彼は一も二もなくうなずいてくれた。
どうやら彼らも、空中大陸に向かう予定だったようだ。
「リリパットたちは気軽に大陸間を移動できないからね。こうして足を運ぶ必要があるのさ」
「いずれは彼ら用の飛空艇もできるかもだけど、開発はかなり難しそうだもんね……。そういう意味でも、通信端末が上手く使えると良いんだけど……」
移動が難しいのであれば、いつでもどこでも自由に会話ができる通信端末の出番だろう。
しかしさすがのイラさんと言えど、量産をするには至っておらず、量産に成功したとしても、世界に広まるまでの時間もある。
いましばらくは、互いの居場所へ赴き合うという方法しかとれなさそうだ。
「まあ、初めての相手とは直接顔を合わせて会話をしたいわけだから……。この道具だと、相手の顔を見たりはできないわけでしょ?」
「そう言ったところも、いずれって感じかな。それじゃあソラ君、ウェルテさん。短い間かもしれないけど、同行させてもらうね!」
再び旅に出るのは明後日に決まったため、体を休ませつつ、ブラックドラゴンの皆と交流を深めることにした。
結局、力比べやら狩猟対決なりに巻き込まれてしまい、あまり休むことなく大空へと向かうことになるのだった。
ご覧いただき、ありがとうございます。
次回は再び、レイカの旅に戻ります。




