空からやって来たもの
「嬢ちゃん、ラクリマと言ったよな! 俺とも力比べをしてくんねぇか!?」
「アンタはさっき力比べをしてただろ! 次はアタイとやってくれよ!」
ルビーさんとの会話をしている中、私とレッカさんの力比べを見ていたブラックドラゴンたちが詰め寄ってくる。
強さを貪欲なまでに求める彼らを刺激してしまったようだが、さすがに連続で力比べをするのは避けたい。
ここで疲れ果て、多少なりケガをしてしまえば、これからの旅に影響が出てしまう可能性があるからだ。
「気持ちは分かるけど、ダメだよみんな~。ラクリマちゃんは力比べをしたばっかりで、大なり小なり疲れが溜まってるんだ。疲れ果てるまでの鍛錬は、鍛錬じゃないってみんなも言っていたじゃないか~」
ルビーさんが助け舟を出してくれたことにより、力比べを求める声は鎮静化する。
それでも私を見つめる瞳たちは強く輝いており、ある程度の時間が経ったら即座に提案をしようと狙っているようだった。
「アハハハ~。良い感じに目を付けられちゃったね~。僕もこの村に来たばかりの時にさっきみたいになって、力比べを受け続けた果てに、指導者として残って欲しいって言われちゃってさ~」
「ルビーさんもブラックドラゴンの方々も、らしいなんて言葉じゃ言い表せませんね。私はこの後、どうやって断っていけばいいかな……」
力比べの強要することは、さしものブラックドラゴンの方々でもしてこないが、ここまで注目を集めてしまっては、断ることに対して申し訳なさが出てきてしまう。
しかし私には、旅を続ける理由があるので――
「ん? お! 村長が帰って来たんじゃないか?」
ブラックドラゴンたちの嬉しそうな声が聞こえてくる方向に視線を向けてみるも、彼らが見つめる先に人の姿はない。
よくよく見ると、彼らの視線は空に向いている様子。
白い光に顔をしかめながら見上げてみると、そこには黒い小さな点が。
それは少しずつこちらへと近寄ってきており、その姿を拡大し、鮮明にしていく。
鳥ではなく、かといってドラゴンなどの危険なモンスターでもない。
それは鉄で――機械で作られた乗り物、飛空艇だ。
空飛ぶ乗り物飛空艇は、タルボ村の上空で停止し、その威容を見せつけるがごとくゆっくりと降下してきた。
村長と親しいと思われる人物はその降下地点へと向かい、中から人が現れるのをいまかいまかと待ちわびる。
やがて飛空艇の出入り口が開き、黒髪に黒い角を抱く女性と、銀の髪を持つ男性、そして剣士と思われる女性が姿を現す。
現れた人々の姿を見た私は、大きく驚くと同時に、嬉しさで口角が上がっていた。
「タルボ村の村長である、ホムラさんだね。そして、彼女の後ろにいる二人は――ラクリマちゃんの方が詳しいか」
「ええ、まさかこの場で出会えるなんて。私も、迎えに行ってきますね!」
ルビーさんの元を離れ、飛空艇から出てきた人々の元へ向かう。
村長さんが村人たちと会話を始める中、私が近寄ってきたことに男性と女性が気付く。
彼らも驚く表情を浮かべつつ、嬉しそうにしてくれているようだ。
「ソラ君にウェルテさん! ここで会えるなんて!」
「ラクリマじゃないか! 久しぶり――ってほどじゃないけど、会えて嬉しいよ」
「まさかタルボ村に来ているとはな。もしや、ルビー様に会いに来ていたのか?」
ソラ君とウェルテさんは、私との再会を大いに喜んでくれた。
再会できたことを喜びつつ、私がこの場を訪れた理由を説明していく。
「修行のため、か。お前もラクリマを見習って旅でもしたらどうだ?」
「姉さんの言い分は分かるし、気兼ねなく旅はしたいけど……。特別大使としての役目があるからなぁ……。でもまあ、この村に滞在している間で体を動かしておこうかな」
ソラ君たちがこの村を訪れた理由は、特別大使としての仕事があったからのようだ。
村の長であるホムラさんが共に飛空艇に乗っていたところから察するに、何かしらの会議等が別の場所で行われ、送りに来たと言ったところだろうか。
「送りに来たというのは間違いじゃないけど、他にも目的があってね。近い内に行われる予定の、ルクスル大陸渡航計画の協力者を募ろうと思ったのさ」
「ブラックドラゴンたちは良くも悪くも力至上主義だからな……。資料のみでの説明よりも、口頭での説明の方が理解しやすいだろうという判断からだ。それに加え、協力者になるのは良いが、力比べをさせてくれと言われてもいいよう、私たちが来たと言うわけだ」
ソラ君はこの村の方々と交流をしていたこともあり、ブラックドラゴンたちへの知識が深い。
ウェルテさんは私が、もう一人の私が認めるほどに強い人物であるため、仮に力比べを求められても即座に対応できるだろう。
ブラックドラゴンとの交流をするには、これ以上ないほどに最適な人選だ。
「そういえば、神族の皆さんに計画の説明はしたけど、君に参加確認はしてなかったね。どうかな、君も計画に参加してみないかい? レイカたちも参加予定だから、いろんな意味で経験になると思うよ」
「う、うん! ぜひ参加してみたいけど……。お邪魔じゃないかな……?」
「聖獣に関わる知識を持っているお前が、邪魔になるわけがないだろう。ルクスル大陸に行くとなれば、現地の聖獣と会うことになる。互いを知り、橋渡しになってくれる者がいるのは、交流の場においてありがたいことだからな」
異なる種族、存在との交流においては、ソラ君たちほど詳しい人たちはいないだろう。
そんな彼らに求められたとなれば、受け入れない理由は何もない。
「分かった。ルクスル大陸の聖獣――ニクスとの橋渡しは私に任せて。久しぶりに会うわけだから、ちゃんとした会話ができるかは分からないけど……」
「私たちの久しぶりの再会とは、まさに桁違いの年月が過ぎているわけだからな。心配する気持ちは分かるが、会えることを楽しみにしておけばいいさ」
ウェルテさんの言葉で思い出すは、レヴィアとの会話の風景。
彼女が私を見た瞬間は複雑そうな表情を浮かべたものの、会話が始まったとたんに嬉しそうにしてくれた。
ニクスもまた、あの表情を浮かべてくれるだろうか。
「きっと大丈夫さ。そうそう、渡航計画に付随してやりたいことがあるんだけど、せっかくならそれにも参加してみないかい?」
「やりたいこと……? 私にできることであれば、やらせてもらうけど……」
ソラ君は楽しそうに、やりたいことというものを話してくれる。
私はそれを受け入れ、彼の計画を手伝うことにするのだった。




