力を求める種族の元へ
「やっと、雪の道を抜けられた……。でもこの先も、なかなか大変な道なんだよね……」
ザクザクと小気味よい足音を聞きながらの旅を続けていると、いつの間にか足元は、白い雪から青々と茂る草へと変化していた。
いま私がいる場所は、アイラル大陸の中央部辺り。
寒冷な北部と、温暖な南部のちょうど境と言うこともあり、純白の大地と広大な草原を交互に堪能できる、ちょっとした名所でもある。
事実、この辺りには各種種族の姿が多々あり、休憩するための建物も用意されているほどだ。
「一息入れようかなって思ったけど、結構人がいるなぁ……。目的地はそんなに遠いわけじゃないし、このまま進んじゃおうかな」
景色を楽しむ人々を横目に見つつ、旅を継続することに。
草の大地となったことで歩きやすくはなったものの、地面のぬかるみが少々気になる。
視界を上げて周囲の様子を調べてみると、ところどころに沼や水たまりが数多く存在していることに気付く。
この辺りは湿地帯となっていると聞いており、準備もしてきているが、雪の大地を進むのとはまた異なる厄介さが襲ってきそうだ。
「草が深く茂っているところには近づかない……。急なぬかるみにはまる可能性があるだけでなく、毒虫も襲ってくるから、だったよね」
事前に学んできたことを反芻しつつ、草原を進む。
深い草むらは避けて通り、ちょっとした水たまりは跳んで乗り越える。
この辺りに住むモンスターたちも毒を持っており、体が少し痺れるなどの状態になりかけたりもしたが、聖獣としての力のおかげで動きに難儀するような事態には陥らずに済む。
そんなこんなを繰り返しながら進んでいると、正面に石造りの建物が立ち並ぶ姿が見えてきた。
少々乱雑な造りであること、掛け声らしき声が聞こえてくるところから間違いない。
無事、ブラックドラゴンたちの集落にたどり着けたようだ。
「せい! はあ! これで……どうだ!」
「ハハハ! 技術は中々のもんだが、力が入ってねぇぞ? 俺がその技を使ったら――
こうなっちまうだろうな!」
「え!? うわあああ!?」
集落に踏み入れると同時に、悲鳴、何かが吹き飛ぶような音、積み上げられた木箱などが崩れ落ちる音が聞こえてきた。
この空気の中に踏み入るのはいささか気が引けるが、それをぐっとこらえて歩き続ける。
私がこの集落――タルボ村を訪れたのは、英雄となるための修行をするだけでなく、この地を訪れている神族の一人に会うため。
見くびられることがないよう、背筋を伸ばし、堂々とした姿勢で村の中心へと向かう。
そこには石造りの舞台が用意されており、その上で一人の男性が大笑いをしていた。
「技術や速度は十分だが、筋力が足りてねぇみたいだな! 俺の攻撃を受けきれなかっただけでなく、剣を振る動きに鈍りが出ていた。それじゃ、隙ができちまうぜ?」
「な、なるほど……。足腰と腕の筋力を鍛えて、支える力を強化しろと……。勉強になりました! また、胸を貸してください!」
「おう! その意気だ! つーわけで早速、走り込みから始めるぞ!」
舞台上で戦っていたと思われる、黒髪に黒い角を生やした男性と金髪の男性は、横並びになって村の外へと駆け出していった。
とても彼ららしい姿を見送りながら笑みを浮かべていると、私の存在に気がついた一人の女性が歩み寄ってくる。
彼女もまた黒い髪に黒い角が生えているところを見るに、力を求める種族、ブラックドラゴンのようだ。
「おねーさん、もしかしてだけど一人でここまで旅をしてきたの?」
「ええ、そうですよ。私の名前はラクリマ、とある事情から世界各地を旅しています」
「そうなんだ~。それじゃおねーさん、つよつよさんなんだね~。アタシの名前は、レッカって言いまーす。小刀の二刀流、やってまーす」
レッカと名乗った女性が語った通り、彼女の腰には二対の小刀が。
得物の説明をしつつ、自己紹介をしたということは、私に戦いを望んでいるということだろう。
しかし記憶が正しければ、ブラックドラゴンたちは回りくどいことはせず、己と戦わないかと直接誘ってくるはずなのだが。
「あ、ラクリマおねーさん、アタシたちのこと詳しいんだ~。確かに、以前はアタシと戦ってよ! みたいに勧誘してたんだけど、それだと他所から来た人たちをびっくりさせちゃうでしょ~? いまは、ゆっくりお話をしながら戦いに誘うことにしてるんだ~」
レッカさんが手振りで示した先には、ブラックドラゴンたちと会話をしている異種族の姿が。
少し離れた所から様子を見ているので、会話の詳細は分かりかねるが、互いの武器や肉体を褒め合っているようだ。
「この村には以前ね、ヒューマンの集団が訪れたことがあったの。その時にした交流のおかげで、こういう形があることに気付けたんだ~。せっかくつよつよの人たちが来てくれても、驚かせて逃げられちゃうんじゃもったいないからね~」
欲望を満たすためと言う形自体は変わっていないが、大陸間が繋がったことにより、ブラックドラゴンたちも変化をしている。
それだけ、ソラ君たちが以前にした旅は、多くの人に影響を与えたということだろう。
せっかくなので、私も変化した形を堪能してみたいところではあるのだが。
「ルビーという名を持つ方に会いに来たのですが……。ご存知はありませんか?」
「ルビーちゃん? 知らないわけがないよ~。ちっちゃい体なのに、村に住む大半の人をあっという間に、ぼっこぼこにのしちゃったんだからね~」
ルビーなる人物は、神族の座に就く一人であり、人々の誇りを見守る者のことだ。
案内をすると言ってくれたレッカさんの後に続いていくと、そこには腕立て伏せなどのトレーニングをしているブラックドラゴンの方々の姿が。
どうやらここに、ルビーさんがいるようだ。
「ルビーちゃ~ん。お客さんですよ~」
「え? お客さん? 僕にお客さんなんて――あ~! ハートちゃんじゃないか~!」
明るく元気な声の出所を探していると、小さな木箱の上でぴょこんぴょこんと跳ねる小さな影を見つける。
近づいてしゃがんでみると、そこには指先ぐらいの大きさしかない人の姿が。
そう、ルビーさんはリリパットの神族なのだ。
「お久しぶりです、ルビーさん。ふふ、お元気そうで何よりです」
「毎食たっぷり、ご飯を食べてるからね~。それと各種トレーニング! ブラックドラゴンの人たちと一緒にしてるんだよ~」
小さく可愛らしい姿から察するのは非常に難しいが、ルビーさんは戦闘能力に優れた人物である。
かつての世界では、並ぶ立つ者がいないほどの武人と称されるほどだったが、現代でもその異名通りの強さを誇っているようだ。
「いや~? この時代の人たちは本当に強いよ~。負けそうになっちゃったことはあるし、僕に勝とうと、こうして鍛錬を繰り返すほどだからね~」
「それって結局、一度も負けたことがないって言っているようなものじゃないですか。封印から解除された時の鈍りは、すっかり取れているみたいですね」
ルビーさんは腰に手を置き、ニカリと笑顔を見せてくれる。
彼の武器は剣や槍ではなく、己の体そのもの。
数十倍以上の体躯を持つ相手を投げ飛ばせるほどの筋力と、相手の動きを読み取る合気、そして何よりの誇りとしている素早さ。
聖獣である私から見ても、異常としか思えない存在だ。
「ハートちゃんといっぱいお喋りしたいところだけど、いまはこうして弟子たちに修行を付けてるからね~。しばらく、時間を潰してくれると嬉しいよ~」
「あ、じゃあ、いまの内にアタシとバトろうよ~。ルビーさんの知り合いともなれば、とってもつよつよだってことでしょ~? ふふん、アタシの見る目も良くなってきたかもね~」
ルビーさんと会話ができるようになるまでの間、レッカさんからの提案を受け入れ、一対一の戦闘をすることに。
準備運動がてらに体を動かしながら、私たちが舞台に上がるまでの時間つぶしをするのだった。




