聖獣の新たな道
「まさか君が、魔法剣士ギルドの受付に来ているとは思わなかったよ。君であれば、直接この部屋に来てくれてよかったというのに」
「そうはいきませんよ。組織において、小さな違和感は大きな混乱の元。波風立てないのが一番だって、おじいちゃんを始め、神族のみんなが言ってましたから」
カツン、カツンと足音が響く中、私の少し先を歩く金の髪の男性が声をかけてくる。
彼の名前はルペス。魔法剣士たちの現マスターであり、レイカちゃんたちの上司。
魔法剣士ギルドへとやって来た私は、ルペスさんに案内される形で彼の部屋へと向かっているところだ。
「乗船許可証を求めてきたということは、海を渡るつもりなんだね? 目的地はどこだい?」
「アイラル大陸です。かの大陸に神族の一人、ペルさんがおられますので。あの方とお会いし、試練を賜ろうと思っています」
アイラル大陸に滞在し、天災来訪に向けて準備をしている神族は、リリパット族の方。
リリパットは体が小さいことが種族の特徴であり、ペルさんもまた小さな体躯の人物ではあるが、見た目とは裏腹に非常に勇猛な人物だ。
人々の自信を見守る人物であり、時に人々を奮い立たせ、時に高慢な考えに至った人物を咎めるといったことをしていた。
「リリパットの勇猛な戦士、か。彼らとは幾度か顔を合わせ、会話もしているが、どうしても戦闘に不慣れな種族と思ってしまうな……。小さいということは、急所を狙いやすいということでもあるというのに」
「実際、舐められて頭にきたことが幾度もあるって言ってましたよ。そういう人たちは、ぼっこぼこにしてきたとも……」
私の発言に対し、ルペスさんは引きつった笑みを浮かべだす。
ペルさんを舐めるような発言はしないよう、心に留めておくつもりのようだ。
「さあ、ここが俺の部屋だよ。ここなら秘密の話題も、気兼ねなくできるさ」
「ご配慮、感謝いたします。それでは失礼しますね」
案内された部屋へと続く扉を潜り抜け、室内に置かれたソファに腰を下ろす。
目の前に鎮座するテーブルの上にはいくつかの高級そうなお菓子と、複数の情報誌が。
どれもこれも、異大陸から取り寄せた物のようだ。
「この街も、三年前とは大きく様変わりしたよ。大陸外から様々な人や物がやって来て、大陸外に向けて人や物が出ていくようになった。元々賑やかな街ではあったが、現在とは雲泥の差があるよ」
「街を見守るあなた方としては、困ることも増えたかもしれませんね……。でも私としては、かつての世界を見ているようでとても嬉しい。少しずつ戻っていくんだ、さらに成長していくんだって思えて、楽しみになるんです」
天災を払えず、悲しみに暮れていた時は、世界の成長に目を向けようと考えたことはなかった。
そのせいで少しずつ世界が元に戻っていくことに気付かず、過去の世界だけを追い求めてしまい、過ちに進んでしまったのだ。
だが、私を導いてくれた人たちのおかげで、正しい道に戻ってくることができ、もう一度やり直す機会を手に入れることができた。
私は今度こそ、この世界を守りたい。
さらに成長していく世界を見届けたい。
この窓から見える景色一つ一つを見て行くたび、その想いが強まっていく。
「白角ちゃんたちを始め、多くの人たちが天災に抗おうと動き始めている。君だけが戦っているんだとは思わないようにね」
「ええ。前回の時に失敗してしまったのは、私が一人で何とかしようと思ってしまったからです。でも今回は、レイカちゃんがいる。私という聖獣を越えた人たちがいる。頼らないといけませんよね」
いまの私が得るべき力は、他者を頼り、他者と共に協力をするための力。
迷惑をかけたくないという気持ちはどうしても湧いてきてしまうが、既に失敗している以上、その気持ちはどう考えても間違い。
抑えなくてはならないのだが。
「ふふ、君が悩む姿を見ていると、白雲君のことを思い出すよ。彼もまた、一人で何でもしようとして涙を流す日々があったからね」
「ソラ君が……!? 意外というか、何というか……。彼はどのようにして、その気持ちを克服したんですか?」
「自分にしかできないことを見つけた瞬間、その行動はなりを潜めたね。自分にしかできないことを全力でやることで、自分ができること、できないことを判別していったんだろう。いまでは特別大使として、複数の種族を繋いでいるんだから面白いよ」
自分にできることを、全力でやる。
聖獣として生まれ、聖獣として様々な経験をしてきたので、できることは数多い。
逆に考えれば、できることが多いからこそ、一人でやろうとしてしまうのだろうか。
「可能性はあるね。ならば、白角ちゃんたちが苦手とすることのみに集中して、学んでみるのはどうだい?」
「レイカちゃんたちが苦手なことを……。彼女たちが、苦手そうなことは……」
魔法剣士という職業上、魔法も剣も一定以上の技術を持つレイカちゃんたちが苦手とすることは何だろう。
レイカちゃんは剣術がずば抜けて得意で、イデイアちゃんは魔法が得意。
ミタマちゃんは確か、両方ともある程度以上に得意と聞いたはずだ。
回復に関してもイデイアちゃんが得意としていると聞いたことがあるので、彼女たちが苦手としていることと言ったら――
「守り……。レイカちゃんたちの中で、守りを担当している人って……」
「お、良いところに気が付いたね。そう、彼女たちは守りを苦手としている。現状では、それぞれが攻撃を受け、回避し、反撃をしている状態なんだ。かつては白雲君が担当していた部分だが、離れて活動をするようになった弊害だね」
かつて私たちが争った際、ソラ君は皆を守るように行動していた。
彼らを傷つけようとしてしまった私が、彼と同じような行動を取ると考えると少し変な感覚もあるが、私を止めてくれたお礼と、彼らへの贖罪になるのであれば、守りを学んでみるのもいいかもしれない。
「とはいえ、君の実力は俺たち魔法剣士が束になっても敵わないほどだからね。どうしても独学で学んでもらう必要が出てくるわけだが……」
「いえ、新しい道を示していただいただけでも、とてもありがたいです。ソラ君たちも、あなたから様々なことを教えてもらい、前へと進んで行ったんですね」
「俺も、彼らからは多くのことを学ばせてもらったさ。そのおかげで俺は魔法剣士マスターの座に就き、皆を導くという形で協力することができるようになった。君からも、何かを学べるかもと思うと、ワクワクするよ」
魔法剣士たちは、学びを重要視する職業だとも聞いている。
ルペスさんという若き人物がマスターの座に就いているのも、知識に対して貪欲かつ、吸収力の高さを見込まれたからなのだろう。
聖獣としてたくさんの知識、技術を得ているからと言って驕ることはせず、いつまでも学び続ける気持ちでいかなければ、見守るべき人たちに追い抜かれ――いや、既に追い抜かれているのかもしれない。
「アイラル大陸行きの船は、二日後に出るんだったな。出航するまでの間、良ければこのギルドを見て回ると良い。学べることがあれば、将来に役立つかもしれないからね」
「ありがとうございます。それに付随して、旧知と話をしたいと思っているのですが……。良ければ、取り次いでいただけないでしょうか?」
ルペスさんは私のお願いに頷くと、部屋を用意すると言って執務室から出ていく。
案内された部屋で荷物を置き、魔法剣士たちの日々の業務を学ばせてもらっているうちに、空は暗く染まりだすのだった。




