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天災の名と到達予測

「ふああぁぁ~……。良く分かんない物がいっぱい……。触ったら、ダメなんですよね?」

「ちょっとの衝撃でずれてしまうものも、中にはあるからね。私が許可を出したもの以外は、触れないでくれるとありがたいよ」

 愛を見守る神族――ルクス様に招かれるまま、彼の研究所を進む私たち。


 周囲には機械に加えて魔道具が複数置かれており、それらが絶え間なく動き続けている。

 何かしらを計測している機械、計測したものを数値に変換して紙に書きだす魔道具。


 この場所は、機械技術と魔法技術が融合した場所のようだ。


「飛空艇もそうだが、機械と魔法が組み合わさった技術を見ると胸が高鳴ってくるな。これらの技術の進展に携わったわけではないというのに、なぜだろうか」

「知らない物を見るのは、怖いことでもあるのに不思議だよね。ほんの少しだけでも知っているからこそ、興味が湧いてくるのかな」

 この研究所内に存在する物は、どれもこれもが知らない物。


 だというのに恐怖感や忌避感が湧いてこないのは、これらに近い技術を知っているから。

 知っている人物が案内してくれているからに違いない。


 でも、微塵も関わっていない技術に対し、誇らしい気持ちが湧いてくるのはなぜだろう。


「新たな領域に至れたと知ることで、人の心は楽しみという感情に包まれるものさ。いつの日にか、これらの技術に触れられる。これら以上の技術を見られるかもしれないという、期待感が湧いてくるんだろうね。さあ、この奥の部屋へと進んでくれ」

 ルクス様が開いてくれた扉の奥に進むと、そこはきれいに掃除がされた客間が。


 私たちはふかふかのソファに腰をかけ、テペス君は私の真横に腰を下ろし、ラタちゃんはイデイアちゃんの膝の上に顎を乗せる形で落ち着く。

 聖獣とは無縁の場所に座ってしまったミタマちゃんは、どことなく寂しそうだ。


「飲み物やつまめる物を用意したかったところだが、あいにく……ね。私が言うことではないが、我慢してくれるとありがたいよ」

「お買い物に行くのも大変なんですね……。普段の食事とか、どうしているんですか?」

「近場に農園を作り、自給自足をしているよ。グーラさんに教わったおかげで、美味しい野菜や料理を作れるから、それほど不自由はしていないさ」

 甘い物はなかなか口にできないけどね、と、ルクス様は小さく続ける。


 世界を陰から見守り、導いてきた存在である神族の一人が、自給自足生活を営んでいるのはなんだか不思議。

 私だったらとても耐え切れず、誰かが作った物を、誰かから買う生活に戻っちゃいそうだなぁ。


「誰かと歩めるのなら、それが一番さ。一人で自給自足ということは、正真正銘、全てを自分の手でやらなくてはいけないからね。さあ、そろそろ本題に入ろうか」

 ルクス様は別の机に置かれていた資料を手に取り、私たちの前にあるテーブルに乗せる。


 大量の数列に、何かしらの意味が込められた記号が記されており、意味を理解することは全くできなかった。

 辛うじて読み取れたのは、小惑星ヴァラクという文字だけだ。


「小惑星ヴァラク。それが天災の真の名であり、我々が住まう星、アステラに最接近することで甚大な被害をもたらす小さな星。小さな星と言っても、インヴィス空中大陸などすっぽり収まってしまう大きさだけどね」

「確か、本体が直接落ちてくることはない――んですよね? でももし、そんな大きなものが地上に落下しちゃったらどうなるんだろ……」

 スケールが大きすぎて想像することすら難しいが、星そのものが崩壊するほどの被害になってしまうのではないだろうか。


 星は生き残ったとしても、私たち人やモンスター、植物すらも息絶えてしまうのは確実だろう。


「そんなものが私たちの頭上を移動しているのはとても恐ろしいよね。でも案外、我々に被害が出るほどの星が近づいてくることは極めてまれなんだ。仮に近づいてきても、大抵の星は地表にたどり着く前に燃え尽きてしまうからね」

「つまり小惑星ヴァラクとやらは、ありえないまでの低確率を引き当てた星であると……」

 非常に低い確率を引き当て、私たちに被害をもたらそうとしていると考えると、天災と名付けられるのも、むべなるかな。


 ヴァラクが私たちの星に到達するのはいつで、被害の最大規模はどれほどになるのだろうか。


「到達予想日時は、七年と八十四日。既に各大陸の機関が動き出しているところから判断するに、対応策は問題なく完成するはずさ。だが、それよりもなによりも、星空を見ていたことで興味深い発見ができてね。何だと思う?」

「小惑星ヴァラクに対して、ですか? ウチらの頭の上に落ちてくることを考えると、怖いという気持ちしか湧いてこないから、興味深い発見と言われても……」

 ルクス様以外の皆で頭を動かしてみるも、これといったものは思い浮かばない。


 ありえそうなのは、小惑星ヴァラクの中に珍しい鉱石が含まれている、だろうか。


「異なる星の鉱物だからね、その可能性は十分にある。が、私が発見したこととは異なるね。正解は、ヴァラクによる被害が出る可能性が、現状だとゼロになった、だ」

「なるほど、被害が出る可能性が――はい? ゼロ? ゼロって、本当ですか!?」

 ルクス様が発した答えに、皆が一様に驚く。


 ヴァラク来訪による被害が無くなるのであれば、それは何よりの朗報だ。

 それに対処するための準備をする必要が無くなれば、資材の消費も無くなり、他の出来事に回すことができるようになる。


 何より、不安を抱いて暮らさなくてよいというのは大きいだろう。


「おや、君は英雄を目指していたんだろう? ヴァラク来訪の可能性が無くなり、悲しくはないのかい?」

「英雄を目指していたのは確かですよ。でも、私が一番に願うのは、たくさんの人が平和に、穏やかな日々を暮らせることです。ヴァラク来訪があろうとなかろうと、それだけは変わりません」

 英雄を志した理由は、ヴァラクによる被害を防ぐための道のりだったから。


 英雄にならずとも、危険があれば安全とするために動くだけであり、問題が発生すれば

解決に動くだけ。

 私が魔法剣士である以上、人々のために行動をするのは変わらないのだ。


「……いま、レイカさんの姿が誰よりも立派に――英雄そのものだと思えました。あなたに与えるべき試練を悩んでいましたが、もう、必要ない気がします」

「え、ええ!? きゅ、急にどうしたの? テペス君。嬉しくはあるけど……」

 テペス君は私が英雄となるための試練を考えてくれていたが、突如としてそれに認められてしまう。


 私の心構えというか、思っていることを口にしただけでしかないのだが。


「ふむ、英雄として認められるに最もふさわしい形で、しかも聖獣に認められたのであれば、私としても異存はないよ。それに、ヴァラク来訪による被害が確実にゼロになったわけではない以上、英雄が必要になる可能性は十分あるからね」

「え……? さっき、被害確率はゼロになったって言ってたじゃないですか!? ウチらをぬか喜びさせたんですか!?」

「あくまで現状はゼロというだけさ。七年後に来訪するということは、それだけヴァラクとこの星の間に距離があるということ。より近づいて来れば、より正確に計測ができるようになり、結果が悪い方向に変わることもありえるんだ」

 明日の天気予報ですら外れることがある以上、七年後、しかも遥か空の彼方から近寄ってくる災いの予測ともなれば、非常に難しいということか。


 喜ぶだけでなく、最悪を想定して行動し続けなければ。

 いただいた情報も、各地に渡さない方が良さそうだ。


「そうしてくれると助かるよ。さて、せっかく星空を見る研究所に来たというのに、星を間近で見ないのは勿体ない。ついておいで、我が天体望遠鏡を覗かせてあげるよ」

 星空を見るための装置を使わせてもらうことに、私たちは歓喜にどよめく。


 通された部屋で代わる代わる星空を眺め始めたことで時の流れを忘れてしまい、気付いた時には東の空が白み始めているのだった。

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