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風の聖獣の子と大地の聖獣の子

「テペス君! 迎えに来てくれて、ありがとう! 久しぶりだね~」

 飛空艇の出入り口に現れた、緑色の毛を持つオオカミ――テペス君。


 私は彼に警戒心を抱くことなく歩み寄り、その体を撫で始める。

 毛量は多いものの、両手は抵抗なく彼の体を滑っていく。


 一撫で毎に小さな風が巻き起こり、インヴィス空中大陸の香りを運んできてくれた。


「えへへへ……。レイカさんの手、あったかくて気持ちいいです~。もっと、撫でて――」

「レイカちゃんばっかりずるーい! ウチも、ウチにも撫でさせて!」

「私も撫でさせてもらいたい。テペスもそれを望んでいるようだからな」

 瞳をぎらぎらと光り輝かせつつ、近寄ってくるミタマちゃんとイデイアちゃんの姿を見たテペス君は、ほんの少しだけ毛を逆立てるも諦めたような表情を浮かべる。


 撫でて欲しいと口を滑らせた都合上、断ることができなかったのだろう。

 彼女たちからの触れ合いに対し、どことなく不満そうにしているテペス君だったが、その瞳にラタちゃんの姿が映り込む。


 しばらく呆然とした様子で彼女のことを眺めていたが、その正体に気付くと。


「ま、まさか、ボクと同じ聖獣の子ですか!? いつから共に旅をしているのですか!?」

「ど、どうしたんだ、急に……。出会ってから、二、三日くらいしか経っていないぞ?」

「はは~ん、なるほど。ここで修業をしている間に、ウチらがラタちゃんを仲間に加えたから、嫉妬してるんだ~。そういう一面も、可愛いね~」

「し、嫉妬なんてしてません! ボクより共にいた期間が長かったら、なんだか嫌だと思っただけです!」

 テペス君は感情豊かな子ではあったが、このような一面もあったとは。


 家族で集まる時も修行で帰って来れなかったこともあり、より強く嫉妬心を刺激されちゃったのかな。

 そんな中、嫉妬心を向けられたラタちゃんは、ゆっくりと彼の元に近づいていき――


「大地の竜ニーズヘッグの娘、ラタトスクと申します~。ラタと呼んでくださいね、テペスさん~」

「え? ええっと……。ぼ、ボクは風狼フェンリルの子、テペスです。よ、よろしくお願いします……」

 ラタちゃんの朗らかな雰囲気に動揺したのか、嫉妬心を隠せずにいたテペス君の様子が沈静化していく。


 嫉妬を向けられても、穏やかに受け流してしまう。

 活発な子とのんびり屋な子。案外、この子たちの相性は悪くないのかもしれない。


「ご、ゴホン! ラタさんのことは後々知っていくとして、皆さんを父の所に案内しないといけませんね! 大地の裂け目に注意しながら、ボクについてきてください!」

 元の状態に戻ったテペス君は、とある方向目掛けて歩き出す。


 そちらには、巨大な暴風が巻き起こる自然の要塞が存在していた。


「あの中にフェンリル様が……。人の魔力程度では、あの防壁は解除できそうもないな……」

「前の時は、スターシーカーを使ってあの中に入って行ったんだよね……? テペス君がいて、通り抜けるための方法を知っていることは分かっていても、あれに近づくのは怖いなぁ……」

 砂ぼこりが舞い上がり、草木までもが宙を漂っていては、恐怖を覚えるのも詮無きこと。


 それでも私たちは、風狼フェンリル様に謁見するため、あの防壁を越えていかなければならないのだ。


「風が強くなってきたな……。ラタ、宙に浮いていては危険じゃないか?」

「そうかもですね~。ですが、パパと同列のお方に会うとなれば、カバンの中に隠れているわけにはいきません~。でも、本当に吹き飛ばされそうになっちゃった時は、皆さんの肩をお借りしてもいいですか~?」

「もちろん! いつでも掴まりに来ていいからね!」

 背後から聞こえてくるやり取りに微笑みを浮かべつつ、少し先を歩くテペス君に視線を向ける。


 やはり同族がそばにいるためか、落ち着かない様子。

 耳が忙しなく動いているかと思えば、尻尾は垂れ下がっているところを見るに、ストレスを感じているのだろう。


「やっぱり、不満?」

「はい……。こんな感情を抱いたのは初めてですので、どう対処すればいいのか……。ラタさんは不躾な言葉をぶつけてきたわけでもないのに、こんなにイライラしちゃうなんて……」

 ラタちゃんが誕生するまでは、テペス君だけが聖獣の子として存在していた。


 私たち人と多くの経験をし、交流をしてきたので、突如として現れた彼女に好奇の瞳が向けられていると分かれば、どうしても不満は抱いてしまうだろう。


「レイカさんは、誰かに嫉妬してしまったことはありますか……?」

「え、私? そうだなぁ……。お兄ちゃんとお姉ちゃんが結婚する時は嬉しかったし、お兄ちゃんとの繋がりを取り戻せた時も、お姉ちゃんに嫉妬することはなかったなぁ……。あくまで私がそうだってだけで、テペス君がおかしいってことはないと思うよ」

 嫉妬を抱くということは、その相手に対して対抗心を抱いたということ。


 もちろん私も、誰かに対抗心を抱き、越えて見せると努力をしたことがあるので、ある意味では嫉妬を抱いてはいたのだろう。

 それを嫉妬と認識していなかったのは、恐らく――


「大好きな人たちだったから、嫉妬しなかったんだと思うなぁ。全く理解ができていない、嫌いな人だったら、きっと私も打ちのめそう、引きずり落とそうって判断をしちゃう。もしかしたら、初対面のラクリマちゃんに抱いた感情が近いのかもね」

 過去を取り戻すために活動を始めたラクリマちゃんの言動、思想は、私たちには理解しがたいものだった。


 絶対に止めなければ、倒さなくちゃいけないと思っていたが、戦いを続けているうちに、彼女の心を知っていくにつれ、そういった感情は消え失せた。

 むしろ、彼女を未来へと連れて行きたい、共に成長していきたいと思うようになったほどだ。


「いまじゃ私たちは仲良しだし、お互いを支えに成長し合ってる。テペス君とラタちゃんがどういった関係になるのかは分からないけど、いっぱい喋ってみたらどうかな?」

「知っていくことで、嫉妬心を変えていくと……。ボクには、父様から受け継いだ膨大な知識があります。ラタさんという知識にない存在を見て、受け入れがたくなっただけなのかもしれませんね」

 私の言葉に納得をしたのか、テペス君は歩みを止め、ラタちゃんへと振り返る。


 向こうも会話を続けていたためか、こちらの話は耳に入っていなかった様子。

 ミタマちゃんとイデイアちゃんが困惑したような、不安そうな表情を浮かべる中、彼は口を開く。


「ボクが好きな食べ物はお肉です。ラタさんの好きな食べ物ってなんですか?」

「私も、お肉が大好きですよ~。ああ、でもでも、お魚さんも好きですし、お野菜も好きです。皆さんが作ってくれる料理は特に大好きですね~」

 剣呑な雰囲気により、テペス君とラタちゃんの間を遮っていた壁。


 わずかながら、それが取り払われていく気配がした。

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