次なる大陸は
「長時間の移動、お疲れ様です。お嬢様の邸宅に到着いたしました」
「ふぅ……。やはり車は苦手だな……。まあ、今日はこれで休むだけだから問題ないが……」
「明日は飛空艇で移動をする予定だからね……。そっちに乗るのはウチも初めてだから、緊張するなぁ……。空を移動できることは楽しみだけどね!」
少しふらつきを見せながら車から降りるイデイアちゃんと、どことなく不安そうな表情を浮かべながら綺麗に整備された道を歩き始めるミタマちゃん。
エルル大森林を離れた私たちは、帝都ドワーブンへと戻り、宿として使わせてもらっている邸宅へと帰ってきていた。
二人を追いかけるように車から降りると同時に、帝都ドワーブンの空気が鼻の中に入ってくる。
水分を有しつつも新鮮な空気であったエルル大森林とは異なり、どことなくくすんだような空気。
あまり心地よいものではないけど、これはこれで悪くない気がするのはなぜだろう。
「レイカちゃんは何度も飛空艇に乗っているんだよね? 乗り心地はどうなの?」
「う~ん……。何と言うか、普通って感じかな……。離着陸する時はどうしても揺れちゃうけど、空を飛んでいる間は地上を歩いている時と同じような感覚でいられるし……。あ、でも、強風が起きた時の揺れはちょっと辛いかも」
私の経験を聞き、イデイアちゃんの足取りは軽くなっていくものの、揺れという言葉で一気に重くなってしまう。
短所な部分は、あまり言わない方が良かったかな。
「酔い止めは用意させていただきますので、ご安心を。本日の夕食と明日の朝食も、胃に負担がかかりにくい料理をメニューに設定させていただきますので」
「事前に用意をし、耐えるしか方法は無いということか……。ハァ……」
肩を落としながら進むイデイアちゃんをなだめつつ、邸宅に、居間へと入っていく。
ふかふかのソファに腰を下ろしつつ、これからの行動について話し合いをすることにした。
「次の目的地は、空にある大陸、インヴィス空中大陸だったよね?」
「うん。風狼フェンリル様が見守る、風の大陸だよ」
「確か、私たちが現在いるこの大陸には、もう一つの種族――ビーストが暮らしているんだろう? 会いに行く必要はないのか?」
イデイアちゃんの質問に対し、頬に指を付けながら思案に耽る。
彼女の言う通り、この大陸にはゴブリン・ドワーフ、エルフの他にビーストと呼ばれる種族が暮らしている。
その種族の人々と交流をし、見聞を深めていきたいとは思っているけれど。
「その人たちが暮らす集落にたどり着くまでには、強風が吹きすさぶ谷を越えていかないといけないよ? かなり揺れが強くなるから、イデイアちゃんには辛いと思うけど……」
「ぐ……。それは確かに嫌だが……。だが、そんなことでお前の知的好奇心を止められるわけがないだろう。他に理由があるんじゃないか?」
「そうだよ~。交流を望まず、試練を優先しようとする理由、教えて欲しいな~」
私に理由を聞きだそうとしている割に、二人は分かっていると言いたげな表情を浮かべている。
私の言葉として聞きたいってことなんだろうけど、そんなに分かりやすかったかな。
「……ルクスル大陸の調査が近い内にあるからね。それに遅れることは絶対避けたいし、準備だってしなくちゃいけない。未知なうえに氷に閉ざされた大陸なら、万全を期しても足りない可能性だってあるし」
「やはり、そういう魂胆があったか。私としても新たな大陸の調査は楽しみだからな。お前なら絶対に見逃せない件だろう」
だからと言って、ビーストの方々に会いに行かないのは失礼に値するだろう。
世界を巡り、聖獣たちの試練を終えて時間が余っていれば、会いに行こうとは思っているけど、何かしらのお土産を用意するべきかな。
「最初から、会いに行けるかどうかすら分からない状態なんだから、考え過ぎる意味も無いと思うなぁ。会いに行くって約束をしてあるんだったら、何かしら用意すべきだとは思うけど」
「あー……。まあ、それもそっか……。こういう時の対応って、どうすればいいのか分かんなくなっちゃうなぁ……。お兄ちゃんだったら、どうするんだろう……」
「分からないことを分からない同士で話し合っても解決はしない。それよりかは、目先のことに集中すべきだろう。インヴィス空中大陸と、風狼フェンリル様の話をした方が有意義だと思うが」
イデイアちゃんの最もな言い分に頷き、要望された情報を話しだす。
インヴィス空中大陸は、遥か高空に浮かびながらも地上とほぼ変わらない環境を有している。
無論、自生している植物やその地に暮らすモンスターは、また異なる生態系を築いてはいるが、基本的には地上と同じような生活を成すことが可能。
体が非常に小さい種族、リリパットが暮らしている大陸でもあり、天災対策をするために神族の一人が拠点を構えている土地でもある。
「注意点としては、大陸各地に大地の裂け目があることだね。そこからモンスターが飛び出してくることがあるんだ」
「大地の裂け目……。落ちたら、海まで真っ逆さま――なんてことはないよね……?」
「強力な風が大地に吹き上げてくれるから、命に関わることはないよ。ケガをしちゃう可能性はあるけどね……。さてさて、次は風狼フェンリル様についてだね!」
風狼フェンリル様は、大地の竜ニーズヘッグ様やレヴィア様と同列の存在である、風の聖獣。
空から降ってきた小さな星屑を容易く斬り裂くほどの力を持っており、その力を駆使してインヴィス空中大陸を守っている。
他の聖獣同様、人と大きく関わらないようにしており、巨大な竜巻を作ってその内に身を隠している。
「確か、スターシーカーを使って会いに行ったんだったよね? でもあの剣は、ラクリマちゃんが持っているから……」
「剣はないけど、空中大陸には修行中のテペス君がいるからね。フェンリル様の元へは、彼が案内してくれるはずだよ」
テペス君というのは、風狼フェンリル様の子どもであり、私たちの家族。
明るく元気な性格をしており、人と共に歩む聖獣として修業をしているんだ。
「ふふ……。テペスと会ったら、あの緑の毛を撫でまわしたいな。あの子も、嬉しそうにしてくれるんだ」
「ウチも! すべすべで、気持ちいいんだよね~」
「あんまり構いすぎると嫌がっちゃうけどね~。でも久しぶりに会うし、いっぱい触れ合うのもいいよね!」
家族と再会することを楽しみにしながら、ベッドへと入り眠りに就く。
日の出と共に服を着替え、朝食を味わってから車に乗り込む。
目的地は、インヴィス空中大陸に向かう手段がある、飛空艇発着場だ。




