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報告と通信端末

「そうかい! 魔導士ギルドが先んじて確保してくれていたなんてねえ! 気を揉む必要は、なかったってわけだ! 伝えに来てくれて、ありがとうね!」

 頭にポンポンと衝撃が走るたびに視界が白黒する中、私の瞳には豪快に笑うイラさんの姿が映る。


 ここは王都ラムダの武器屋。

 海都を離れた私は、特に道草を食うこともなく彼女に会いに来ていた。


「気を揉むって……。あまり、心配はしてなかったんじゃないですか?」

「まあね。オリハルコンほど目立つ鉱石だったら、仮に売り出されたとしても確実に情報が回ってくるはずだからねぇ。それが無かったってことは、まだ地中に埋まっているか、権力者が情報統制をしているか。後者の場合、ちっと揺さぶってやれば情報は出てくるもんだからね。事実、そうだったろう?」

 片目をつぶるイラさんは、実に悪そうな表情をしていた。


 元々神族は歴史の表舞台に出ることはせず、陰から世界を見守り続けてきたので、裏に通じるための知識や、振舞い方を熟知している。

 今回私は、オリハルコンに起きた過去を探ったおかげで、見つけ出すことができた。


 イラさんや他の神族であれば、あの手この手で取引を持ちかけ、大した労力をかけることもなく、回収してしまうのだろう。


「どうだろうね? アタシたちが暮らしていたかつての時代とこの時代とでは、異世界と思えるほどに違うからねぇ。同じ種族、同じ言語を使っていても、宿っている知識は大きく違う。思い通りになることはないだろうさ」

「そんなこと言って……。封印中、時折誰かの内に入り込んで現代の様子を見ていたんでしょう?」

「ま~ね~。とはいえ、自分の足で動き回り、見て聞いているわけじゃないし、協力者の数も大きく減ってちゃできるもんもできないからねぇ。やっぱり伝手がないとね」

 イラさんは伝手がないというが、既に各大陸の有力者と繋がりを持っている以上、やはりどうとでもなる気がする。


 事実、大魔導士であるナナちゃんと神族は繋がりを作っており、ナナちゃんは魔導士ギルドに多大な影響を及ぼすことが可能な人物だ。

 オリハルコンを所有しており、魔導士ギルドにも所属しているマギアちゃんとも知り合いなので、いずれは辿りつけたことだろう。


「それにしても、バトラーと言ったかい? 大道芸人を志す男の子に協力したことで、オリハルコンへと一気に近づくための足掛かりになったとはね。アタシも、その子とルトとの芸を見てみたかったよ」

「バトラー君は故郷へ、ルトちゃんは王都に戻って来る前に、オーラム鉱山の親方さんたちの所に返してきちゃいましたから。また会えた時のお楽しみですね」

 バトラー君は、故郷に無事たどり着けただろうか。


 故郷と家族の人たちに謝罪をし、大道芸人の道を心から志したいと伝えることができただろうか。

 既にやるべきことを終わらせ、特訓を開始しているかもしれない。


「その子たちの芸を見るためにも、天災は必ず退けないとね。さて、アンタの修行の件についてだが……。目的を達成するだけでなく、強力なモンスターから人々を守り、新たな繋がりを作ってくれたことだし、憂いもなく合格ってことでいいだろう。これといってやれるもんはないが、よく頑張ったね」

「ありがとうございます。イラさんに認められたこと、おじいちゃんとおばあちゃんにも伝えないといけませんね。でも、他大陸にいる神族の皆さんから、試練を受ける必要がありますから……」

 圧縮魔を用いての移動をすれば、グーラ地底大陸にはそう時間をかけることなくたどり着けるが、大きく魔力を消費する以上、休息を要してしまう。


 おじいちゃんとおばあちゃんに会いたい気持ちもあるが、天災への備えをしなければいけない以上、悠長な真似をするのはどうなのだろうか。


「ふっふっふ。実は、ハートちゃんが出かけていた間に、ちょっと面白いもんを開発してね……。もう喋ってもいいよ、アヴァ爺、グーラ婆」

「え……? おじいちゃんたちが来てるんですか?」

 室内のあちこちをきょろきょろと見まわしてみるも、どの扉も開く様子はなく、何かが動く様子もない。


 強いて気になるものと言えば、テーブルに置かれた板状の道具だが。


「よう、ハート、聞こえるか? おじいちゃんだぞ~」

「私もいるわよ~。楽しそうに旅ができているようで、安心したわ」

「おじいちゃんとおばあちゃんの声……。え? もしかして、この板状の道具から? 携帯端末を再現できたんですか?」

 二人の声は、間違いなく板状の道具から聞こえてくる。


 この時代に、遠距離での会話が可能な通信器具は存在しているが、あまりにも遠大な距離の会話ができるものは完成していない。

 かつての時代でも、地上と地下間で会話ができるほどの物は、なかったほどだ。


 この場にはいなくとも、王都周辺にまで出てきているのだろうか。


「いんや、俺たちがいるのは地下だぜ。その証拠に……。お前も喋れよ、ディア――って、寝てんじゃねぇ!」

「あらら……。いつの間にか、お布団に入り込んで……。これは、何をしても起きないでしょうね……。ごめんね、ハート」

「う、ううん、気にしないで! ディア君も、ルビア大陸との接続作業で疲れてるんだろうし。みんなが地底大陸にいるのも分かったよ。でも、こんな長距離の会話、一体、どうやってるの?」

 テーブルに置かれた通信端末を手に取り、くるくると回しながら形状の確認をする。


 重さはたいしたことがなく、片手で持つにも不自由がない。

 魔力の気配は感じるが、これが地底との会話を可能としているのだろうか。


「色々と細工はしてあるが、簡単に言ってしまえば圧縮魔を利用してるんだ。離れた場所との通話が可能となる通話石と組み合わせ、お前が持っているもんが出来上がったってわけさ」

「あ、じゃあ、圧縮魔を使える同士でしか会話ができないってこと……?」

「おや、アタシがそんな情けないもんを作るとでも思ってんのかい? とんでもない。圧縮魔どころか、魔力を持たない者同士でもいつでも自由に会話ができるよ。まあ、さすがに量産は難しいけどね!」

 さらりと言ってのけるイラさんだが、並々ならぬ苦労があったはず。


 だが、この通信端末があれば、天災対策をするにもかなりの利点となるはず。

 旅の様子を逐一報告することもできるので、彼女には感謝しなければ。


「ゴブリンとして生まれ、神族として選ばれたアタシがやるべきことと言ったらこれだからねぇ。その端末はアンタにやるから、存分に使い倒してくれればいいさ」

「分かりました。ところで、量産は難しいと言っていましたけど……。おじいちゃんたちの所にあるのと、いまここにあるこれだけしか作っていないんですか?」

「完成してんのは、全部で十個だね。地底にいるアヴァ爺たちの分は一個だけで良いとして、アタシ、ハートちゃん、他の大陸に向かっている奴ら、後はソラ君とレイカちゃんのぶんってところだ。二つは予備用に残してあるよ」

 ならば私は、皆が使う用の携帯端末を持ち、旅を続けた方が良いだろう。


 神族の皆からの試練を受けつつ、それを手渡して回る。

 天災での準備で忙しい皆より、私が動く方が有意義だ。


「魔導士ギルドとの会合もあるからな、そうしてくれると助かる。ナナたちも俺たちとすぐ会話ができた方が良いだろうし、イラには通信端末の増産を頼んでいいか?」

「ああ、もちろんだよ。これからのことを考えて、各ギルドや各国の有力者たちの分も作るとなると……。なかなか忙しいことになりそうだねぇ。美味い飯、一カ月分でどうだい? グーラ婆」

「ふふ、任せてくださいな。存分に腕を振るわせていただきますよ」

 天災に関わる話し合いが、着実に進んでいく。


 通信端末を間に挟んでいる上に、聞こえてこない声もあるが、かつてのように神族が一堂に集い、話し合いを行っていた様子が脳裏に浮かび、自然と口角が上がりだす。

 ふと気づくと、イラさんが笑みを浮かべながらこちらを見つめていた。


「な、なんですか、イラさん……」

「いんや、なーんも。ただ、ハートちゃんが嬉しそうな顔をしていたから、可愛いなあって思いながら、眺めていただけだよ」

「なに!? ハートの嬉しそうな可愛い顔だと!? くそっ! イラだけ見られるなんて、ずるいぞ! 次は、相手の表情や周囲の様子も見れる通信端末を作れ!」

 真面目だったはずの話し合いが、てんやわんやな状況へと化していく。


 ああ、こういう人たちだったと思い返しながら、自ら会話の渦に巻き込まれに行くのだった。

ご覧いただき、ありがとうございます。


次回は、レイカのお話に戻ります。

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