7話 再会
乗馬服に着替え、支度を終えた私は自分の部屋を出て玄関ホールへと行くと。窓の外から庭を眺めていたエドガーが、私の足音に気づいたのかこちらを向いた。
階段の途中にいた私を見あげるエドガーと目が合い、微笑みかけた。
「やっと会えたな、ジュリー!」
エドガーは私の手を取り、礼儀正しくキスをする。
その姿が板についていて、私のような田舎娘が隣に立つのが申し訳ない気がするほど。エドガーは凛々しく威厳まで備えた大人の男性になっていた。
私もエドガーに負けないよう、礼儀正しく挨拶を返す。エドガーと同様にいつまでも子供ではないと、大人になった今の私を見せたかった。
「お久しぶりです、ファゼリー伯爵様」
(驚いた! ……エドガーはなんて立派になったの⁉ こうしてエドガーと会うのは二年ぶりかしら。すっかり伯爵様が馴染んでいるように見えるわ)
王都で忙しい毎日をおくるエドガーと会うのは、二年前に亡くなったエドガーのお父様、先代伯爵の葬儀に参列した時以来である。
そして亡くなった先代伯爵の喪が明けるまではと、私とジョナサンの結婚式は二年延期され。ようやく喪が明けて準備が整ったと思ったら、今度はジョナサンに妹と浮気をされて婚約は解消された。
こうして大きな災難でも起きないかぎり、私はエドガーに会うことさえ叶わない。幼馴染みがそんな遠い存在へと、変わってしまったことに寂しさを感じる。
変わらないのは優しい金色の瞳ぐらいだ。茶色の髪でさえ、昔はもっと長くして馬の鬣みたいだったのに。
今はスッキリと短く切りそろえて綺麗に整髪している。
「やめてくれよ、ジュリー! ファゼリー伯爵様だなんて。幼馴染の君にまでそんな呼ばれ方をされたくないよ」
「ふふふっ……エドガー様とお呼びした方が良いのかしら?」
感慨深い思いを抱きつつ。ファゼリー伯爵となった幼馴染を、私は首を傾げて見つめる。
「……っ」
当のエドガーは苦笑を浮かべて嫌そうに手を振り。何かを追い払う仕草をした。
そんなエドガーに私は高慢そうに見えるよう、わざと腕組みをしてツンッと言い放つ。
「まぁ、エドガー! あなたが伯爵様になったから、礼儀正しく、私はそうお呼びした方が良いのかと思いましたの!」
(そう言えば……昔からエドガーは恥かしがり屋だったわね。ああ、本当に懐かしいわ!)
お互いが長男長女で、弟と妹の世話をする立ち位置だったからか。私は二歳年上の弟ジョナサンよりも、四歳年上の兄エドガーの方が良く気が合った。
「ははははっ! まったく君は……私を揶揄うなんて。子供の頃から生意気なのは変わらないな」
楽しそうにエドガーはカラカラと笑いながらも、さりげなく私にエスコートの手を差し出す。
「ごめんなさい、田舎娘丸出しで馴れ馴れしかったかしら? ふふっ……」
(王都暮らしが長いからか、紳士の服装も立ち居振る舞いも。エドガーの些細なしぐさ一つ一つが洗練されているわ! 地元の紳士たちとはぜんぜん違う。もちろん弟のジョナサンとも)
見上げるほど背が高くて頼りがいもあり。昔から何もかも素敵だったけれど、大人の魅力まで加わっている。
(……エドガー、今のあなたは怖いモノ無しでしょう?)
私の頬がポッと熱くなる。……きっと年頃の娘らしく、薄っすらと頬がバラ色に染まっているはずだ。
「いいや。王都で飼いならされた鳥籠の外を知らない小鳥みたいな、貴婦人たちに囲まれていると。君のように元気な女性は、かえって新鮮に感じる。ジュリーはとても魅力的だよ」
(まぁ! あんなに恥ずかしがり屋だったエドガーが、こんなにスラスラとお世辞を口にするなんて。……そんなに婚約解消をされた私に、同情しているのかしら?)
「あら、エドガー! あなたが私にお世辞を言うなんて……そうやって何人の令嬢を泣かせたの?」
ニヤニヤと笑いながらとっておきの話題を口にすると、エドガーはすごく嫌そうな顔をする。
「ジュリー……その話、ジョナサンに聞いたのか?」
「ええ、あなたが王都で令嬢たちに、追いかけ回されているとね」
(王太子の側近をする将来有望な独身の伯爵なら、令嬢たちが目の色を変えて結婚したがる気持ちがわかるわ。……それにエドガーは裕福で魅力的だから、完璧な夫になれるはず)
そんなエドガーを幼馴染みの気安さから、揶揄うことができる私は、会ったこともない王都の令嬢たちに少しだけ優越感を持った。
ハァ――ッ……とため息をつき。私は楽しい気分を噛みしめたくて瞳を閉じる。




