6話 エドガーからの誘い
花嫁をアリアーヌに変えて、私が今まで準備して来た結婚式を行うと、お父様に聞き。怒りを通りこして、何もかもどうでも良くなってきた。
私が細かくこだわっていた花嫁のドレスまで……アリアーヌに譲らなければいけないのかと思うと、気持ちが沈んでしまうけど。
(でも……あのドレスは私に似合うように仕立ててもらっているから。アリアーヌが着ても似合わないし、サイズも大き過ぎるわ)
「私に比べるとアリアーヌは華奢で小柄だから。やっぱり新しく仕立て直すべきだと思うけど」
(ああ、さすがにモヤモヤするわ!)
……ずっと、領地の運営や自分の結婚準備で忙しく働いていたけど。ジョナサンの浮気を知った日から、私は長女の義務も責任も、仕事と一緒に何もかも放り出して拗ねていた。
何もやらないでヒマを持て余した私は、自室のベッドでゴロゴロしていると、私よりも年下の使用人マディが手紙を届けに来た。
「ジュリーお嬢様、ファゼリー伯爵様からお手紙が届けられました」
「ファゼリー伯爵? 私ではなくお父様ではないの?」
「いいえ……あの、伯爵家の使用人がお嬢様の返事が欲しいと待っておられます」
「……あら」
王都で王太子の側近を務めるファゼリー伯爵は、弟のジョナサンから連絡を受けて。私とジョナサンの婚約に関する問題を、速やかに解決するために大量に仕事を残したまま、王都から急遽かけつけたらしい。
そのため今後の話し合いが済んだら、いつまでも田舎の領地でゆっくりとしてはいられず。一刻も早く王都へ帰らなければならないとお父様が言っていた。
私は急いで封蠟を剥がして、手紙を確認すると……
”ジュリー、久しぶりに馬で丘の上まで行かないか?”
予想外の内容に、私はしばらく呆けてしまい、まじまじと手紙を見つめた。……でも良く考えてみると、この手紙を私に届けた本当の意味がすぐに読み解けた。
(私は婚約解消を素直に受け入れるつもりだけど……たぶんエドガーはそのことについて、お父様だけでなく当事者の私とも話をしたいのね)
「いいわ。一緒に出かけましょう、エドガー……」
私は時々、丘の上まで行くけれど。王都で暮らすエドガーはもう何年も、あの場所へは行っていないはずだ。
その場で手紙の返事を書いて、使用人に渡した。
「久しぶりにあなたの顔が見れるなら……お供するわ」
(エドガーの顔を見たら、少しは元気が出そうだし。それに恐らくこれが、二人で気兼ねなく会える最後の機会でしょうから)
大人になった私たちは気軽に会って、二人で馬に乗って出かけることが許されない立場にある。
田舎にあるエドガーが育ったファゼリー伯爵家の本邸は、セイフォード男爵邸から馬で一時間半ほどの場所にあり。私のお母様がファゼリー伯爵家の出身で、母親同士も仲が良く。
子供の頃は私とアリアーヌ。年上のエドガーとジョナサンは、従兄妹同士でもあり。仲の良い幼馴染みでもあったから。私たちは今よりも頻繁に会っていた。
でもそれはファゼリー伯爵家の兄弟が、王都の学園に入学するまでの話。
その後、私は王都の学園には行かず、男爵邸から一番近くの女学院へ進んだから。まるで縁が切れたように会う機会が無くなった。
そのうえ先代伯爵様が王族に仕えていたのが縁で、エドガーは学園を卒業すると同時に王太子殿下の側近となり。
私とエドガーは社会的格差にも広がり、お互いの住む世界まで交わらなくなった。
「私もいつまでも、落ち込んではいられないわね」
(王都で頑張っているエドガーに、久しぶりに会うのに。じめじめした顔は見せたくない)
「滅多に会えない人に会えるのだから。無理してでも元気な顔を見せないと! どうせなら彼の心に私の良いイメージだけを残したい」
何の屈託も無くケラケラと笑っていられた子供の頃のように。……そう思うと少し元気が出て来た。
エドガーの手紙をそっと胸に抱き締め、記憶の奥へ大切に封印していた思い出を呼び起こす。
「ふふふっ……何年もまともに会っていないから。十代の子供だった頃のエドガーしか思い出せないわ」
アリアーヌとジョナサンの浮気を目撃して以来、部屋に閉じこもっていた私はエドガーの誘いを歓迎し。乗馬用のドレスに着替えた。




