5話 ジュリーの憂鬱
お父様とジョナサンの兄、ファゼリー伯爵が話し合いをする最中も、私は自分部屋に閉じこもり鬱々と考え込んでいた。
「……っ」
ベッドに寝転がり天井を眺めていると……不意に妹のアリアーヌと元婚約者のジョナサンが、抱き合う場面が脳裏をよぎる。
その場面を見た直後の、不快な感情まで蘇ってしまい身体を強張らせた。
「なぜ、こんなことになったの?」
本当は分かっているけど。惨めな現実を受けいれたくなくて、言わずにはいられなかった。
(――そうよ。私がジョナサンに捨てられた理由は分かっているわ。周囲の人たちも皆知っている、分かり切った理由だから……)
産まれた時から妹のアリアーヌは身体が弱く。日光に当たり過ぎただけで、熱を出してしまうほど虚弱体質で……日焼けして色黒の私とは大違い。アリアーヌは日焼けをすることなどほとんどなく、色白で透き通るような美しい肌の持ち主だった。
背中にフワフワとたらした淡い金髪に、小さくて繊細な造りの顔と華奢な身体つき。そんな儚げで美しい姿のアリアーヌは……『妖精のお姫様のようだ』と、両親にとって自慢の娘である。
「ジョナサンがアリアーヌを選んだのは、私よりも美しいからだわ。分かっているわ、そんな当たり前のこと」
私は自分の赤みがかった金色の髪を手に取って見つめ、貴族の令嬢にしては日焼けが目立つ色黒の肌を撫でた。
アリアーヌの空色の瞳だけは私と同じ色なのに。……無邪気に笑うアリアーヌの瞳は、目を奪われる程輝いて見える。心が純粋だから。
「姉妹なのに、こんなに違うなんてね……」
妹のアリアーヌと自分の容姿が、姉妹なのになぜこうも大きく違うのか。私はその理由も知っていた。
馬車ではなく。勇ましく馬にまたがりお父様と一緒に、領地をまわっているからだ。私の身体は逞しく引き締まっていて、女性らしい儚さなんて一つもない。
「でも、たくさん努力したわ……本当にたくさん……」
地元の女学院で一緒に学んだ友人たちが、お茶を飲みお洒落を楽しんでいる時も。将来ジョナサンと二人で男爵家の後継者となり、セイフォード男爵領を治めるために熱心に領地の運営を、お父様から実地で学んで来た。
実際に爵位を継承するのはジョナサンだけど。幼い頃から私はお父様に、セイフォード男爵家と領民たちを『長女のお前が守るのだ』と躾けられて育った。
正統な血筋の子であっても、女性は爵位を継承することができないと、王国法で決められているから。
「私がジョナサンと結婚しないのなら……私が男爵家と領地を守らなくても良いのよね?」
これからはアリアーヌがジョナサンと二人で、セイフォード男爵領を治めることになるのだから。
「つまり、私が今まで学んできたことが、すべて無駄に終わってしまうの?」
私に対する配慮の欠片も無い、ジョナサンの言葉を思い出す。
『落ち着くんだアリアーヌ! どうせジュリーは僕を愛していないし。僕は彼女と婚約解消をするつもりだった!』
(私が婚約者のジョナサンを愛してないから、いけなかったの?)
結婚すればいつかジョナサンと、愛し合う夫婦になれると思っていたのに。だからジョナサンを支えるためにも、立派な男爵夫人になろうとたくさん学んで……。
「ああ、疲れたわ……」
ジョナサンに婚約解消をされて、私が一番辛かったのは……今までの努力が水の泡となり消えてしまったことだった。
ファゼリー伯爵が帰ると私はお父様に執務室へ呼ばれ。姉の私から妹のアリアーヌへと花嫁を変えて、予定通り三か月後に神殿で結婚式が行われることを聞いた。




