48話 ファゼリー伯爵夫妻
お父様の乱入で儀式が中断し、『もうダメか……』と思うほど揉めたけど。
エドガーの機転と王太子殿下の助力により、無事に私たちは婚姻の儀を終えてファゼリー伯爵夫妻となった。
最後まで辛抱強く私たちが夫婦となるまで見守ってくれていた、参列者たち一人、一人と言葉を交わして、お礼の言葉を伝えて結婚式を終えた。
そして急な要請だったにも関わらず。婚姻の儀式を快く引き受けてくれた老神官様に、エドガーは感謝の気持ちを添えて神殿に多額の寄付をすることを約束する。
「あの神官様……アリアーヌの婚姻の儀式も、どうかお願いします!」
「ジュリー嬢……いえ、ファゼリー伯爵夫人。神官という立場にいる私がこう言ってはなんですが、あなたは本当に人が好いですね」
目尻のシワを増々深くして神官様は笑った。
「神官様……」
(ううっ。お人好しと言われてしまったわ)
一応、褒め言葉だとはわかっているけど。
「私としてはアリアーヌ嬢とジョナサン卿が、自分たちが犯した罪をしっかりと認めて。心から誠意を持ってあなたに謝罪すれば、婚姻の儀式を執り行うことに何の文句も無いのですよ」
「謝罪なら、二人に何度もしてもらいましたよ?」
私が答えると、神官様は首を横に振った。
「いいえ。口先だけの謝罪ではダメなのですよ」
詳しく話しを聞いてみると――
神官様のもとへジョナサンとアリアーヌは、別々に事情を説明しに来たそうだ。二人とも自分たちがいかに愛しあっているかを、神官様にそんな言い訳ばかり並べたてたそうだ。
そしてどちらも決まって……『ジュリーがジョナサンを愛していないから、婚約解消は仕方ない』と。結局、最後は私のせいにしたのだとか。
「貴族同士の政略結婚で結婚前から愛しあっているカップルなど、滅多にいないことぐらい、独身の私でも知っていますよ」
ジュリーがジョナサンを愛していないのも、普通のことだった。結婚してから夫婦二人が、お互いを尊重し愛し合えるように努力することが大切なのだ。だから最後に誓いの言葉を交わさせるのだが。
「ああ……そんなことがあったのですか」
「ええ。彼らもそのことを知っているはずなのに、責任逃れをしているようにしか見えなかったので」
「なるほど……」
(それでは私が何を言ってもダメね。やっぱりジョナサンとアリアーヌが、解決するべき問題なのだわ)
神官様は私たちの背後にいるジョナサンを、ジロリと睨みながら言った。
「二人とも大人なのに、まともな謝罪のしかたも知らないようですね」
「……」
(妹のアリアーヌは昔から私に譲られることが、当たり前になっているから。私からジョナサンを奪ったことを、口では『ごめんなさい』と言っているけど……。本当に悪いとは思っていないでしょうし……)
逆に『ごめんなさい』と言えば姉の私なら許すと。そんな甘えがあるアリアーヌは、それで済むと思っている。
一方、ジョナサンは私が嫌いだから。自分よりも私が悪いと、自分の非を認めたがらない。
私はそれ以上、何も言えなくなり黙りこんだ。
――すると、そんな私と神官様のやり取りを見ていたエドガーが口を挟んだ。
「神官殿の言う通りです。私もジョナサンの言い分に腹が立ち、拳で説明してやりましたから」
私の隣に立つエドガーが神官様の前で握り拳を作り、ニヤリと笑った。
「ああ、だからジョナサン卿はあんな姿なのですね?」
神官様は私たちの背後をチラリ見て、包帯をグルグルと顔に巻いたジョナサンへ視線を移す。
私も神官様の視線を追って振り返ってみると。居心地が悪そうにソワソワとしているジョナサンが、私たちの話が終わるのを待っていた。
「弟も少しは考えを改めたのではないかと思いますが……」
エドガーも背後を振り返って、ジョナサンをジロリと睨んだ。
「ふふふっ……仕方ないですね。これ以上、ジュリー嬢……いえ、ファゼリー伯爵夫人を困らせたくはありませんから。婚姻の儀は依頼通りに執り行うことにしましょう」
「ありがとうございます、神官様!」
私はホッと安心して笑った。正直……結婚する二人よりも。結婚の準備を全面的に引き受けている、お母様の心労が心配なのだ。
あまり長く王太子殿下一行を待たせるわけにもゆかず。私たちは神官様との話を切り上げ、ジョナサンを連れてファゼリー伯爵邸へ帰宅することにした。
私は実家のセイフォード男爵邸へウエディングドレスを着替えに、一度戻ろうと思っていたが……。
「さすが、お母様だわ。手際が良いわね」
いつの間にかまとめてあった三日分の私の荷物が、ファゼリー伯爵家の馬車に積んであった。
隣に座る夫のエドガーと仲良く手を繋ぎ、ガタッ、ゴトッ、とファゼリー伯爵邸までの道を馬車に揺られていると。
――ふと……お母様が神殿を去り際、私に言った言葉を思い出す。
『幸せになりなさい、ジュリー……!』
「……」
(ええ、お母様。そうするわ! 私、頑張ってエドガーと二人で幸せになるわ!)
隣に座るエドガーを見あげた。私の空色の瞳はきっとキラキラと輝いて見えるだろう。私の視線に気がついたエドガーも、穏やかな金色の瞳で私を見下ろす。
誰が見ても相思相愛だと分かる私たち二人の姿を、向かい側の座席からジョナサンがジッと見つめていた。




