47話 祝福
大きなため息をつくと、エドガーは神官様に向かって催促した。
「やれやれ……神官殿、婚姻の儀を最後まで進めて下さい。何としても今日中に、ジュリーを伯爵夫人にしなければならない、理由がありますから」
「ええ伯爵、そうですね! 後は夫婦の誓いを交わすだけですから。最後まで終わらせましょう」
疲れた顔をした神官様も、ため息をついた。
「実はジュリー、私にはセイフォード男爵家の存続問題よりも、もっと急を要する面倒な問題がファゼリー伯爵邸で待っているんだ!」
困った顔で私を見下ろした後。エドガーは嫌そうな顔をして、チラリと王太子殿下を見た。
「エドガー?」
(問題? 何かしら……)
私が首を傾げていると、マクシミリアン殿下がニヤニヤと笑い出し、自分の部下を揶揄った。
「ふふふっ……何だエドガー。お前、ジュリー嬢との初夜がそんなに待ちきれないのか? このむっつりスケベめ! 恥を知れ!」
「初っ……」
顔がカッと熱くなり、まだベールを頭から掛けていて良かったと思っていると。エドガーが不敬とも取れる発言を冷ややかに放つ。
「フゥ――っ……何をおっしゃっているのですか、殿下。あなたがその面倒な問題そのものではありませんか」
予告も無しにいきなり現れた王太子殿下のせいで、普段は少人数の使用人で回している、ファゼリー伯爵邸は大騒ぎとなっているらしい。
「まぁまぁ! お前と私の仲ではないか!」
途中で中断した、私たちの波乱に満ちた『婚姻の儀』を含めて。王太子殿下はあきらかにこの状況を楽しんでいる様子だ。
フゥ――ッ……とエドガーは再び大きなため息を吐いて、私の手を取りキスをする。
「ある高貴なお方がお忍びでヒョッコリあらわれたと思ったら。我がファゼリー伯爵邸に宿泊すると言い出してね。……ジュリーには早速、男ばかりの我が屋敷で女主人として腕を振るってもらいたいのだが……良いかな?」
「ああ、そういうことなの」
(確かに……それは大変だわ!)
「やってくれるかい?」
「ええ、私にできることがあるのなら」
「すまない、ジュリー! 頼りにしているよ」
「どういたしまして」
ようやくエドガーと王太子殿下の険悪なやり取りの原因がわかり。思わず私は苦笑した。
社交デビューをした年に一度だけ、他のデビュタントたちと共に王都で行われた王室主催の舞踏会に出たきり、私はほとんど地元から出たことが無かった。
だから王太子マクシミリアン殿下の顔を、今まで知らなかったのだ。
チラリと王太子殿下を盗み見ると、パチリと目が合ってしまう。マクシミリアン殿下はニコリと私に微笑み返してくれた。私も微笑み小さくお辞儀をして返す。
(エドガーとのやり取りを見ても、王太子殿下は気さくな性分のようだわ)
「……はぁ」
(エドガーの妻になれば、これから王族の方々とこうして会う機会が増えるのね。覚悟しておかないと)
「さぁ、お二人とも……祭壇の前に並んでください! 参列者たちがあなたたちに早く祝福の言葉を贈りたくて、首を長くして待っていますよ!」
神官様に声を掛けられ、私たちは祭壇の前で手をつないで立った。
「はい」
「お願いします、神官殿」
「では改めて。……夫エドガー、あなたは妻ジュリーを命ある限り愛し、守り、共に生きることを我らの母なる女神様に誓いますか?」
「誓います!!」
「妻ジュリー、あなたは夫エドガーを命ある限り愛し、慈しみ、共に生きると我らの母なる女神様に誓いますか?」
「誓います!!」
「よろしい! 今日、この場にいる者たち全員が、この二人の婚姻の見届け人となります!」
神官様は大きくうなずき、朗々と宣言する。
「大いなる女神様に代わり、これよりあなたたちを夫婦と認め、祝福の加護を贈ります。では、誓いのキスを交しなさい!」
私たちは祭壇の前で向かい合い。エドガーが私の顔に掛かったベールを上げる。
エドガーは私の頬を大きな手のひらで包み……私にだけ聞こえる囁き声で、愛の言葉を紡いだ。
「愛しているよ、ジュリー。君を幸せにする」
「エドガー……私も、ずっとあなたを愛しているわ」
「ジュリー」
「私もあなたを幸せにするわ!」
私の心が蕩けそうな甘い笑みを浮かべたエドガーが、私の唇にそっと誓いのキスをした。
中断していた婚姻の儀式は最後まで進められ。参列者席から贈られる祝福と温かい拍手の中、私たちは夫婦となった。




