46話 終息
王太子マクシミリアン殿下は、『側妃を娶れ』と王妃(実母)陛下や重臣たちからかけられる、日増しに強くなる圧力に嫌気がさしていたらしい。
――そこで、信頼する側近のファゼリー伯爵エドガーが、幼馴染みの私に求婚すると聞き。エドガーの結婚式にお忍びで参列するという名目で、休養をかねてしばらくの間だけ、王都から逃げ出して来たのだ。それもエドガーには内緒で。
その王太子殿下が婚姻の儀式中に、突如乱入したお父様との言い争いで、中断され儀式が一向に再開されないことに痺れを切らし仲裁に入った。
「男爵の考えも分からなくはないが。……だが一つの家に二人の当主を置けば、不和の種になるとは思わないか?」
「……ですが殿下!」
お父様も少しは冷静さを取り戻したのか、王太子殿下を無視出来ず。殿下の話に耳を傾ける気になったようだ。
「男爵……この大きな王国に血の繋がった王子が二人いるだけでも、激しい争いが起きていると言うのにか?」
王太子となり、その立場は盤石に見えるマクシミリアン殿下でも。未だに腹違いの兄(側妃の子)、第一王子との諍いが絶えない。
「……」
(王太子殿下の言う通りよ。それも子供の頃からあまり仲が良くなかった、私とジョナサンを競わせるようなことをすれば……当然諍いが起こるのは目に見えているわ)
婚約していた時でさえジョナサンは『自分を見下している』と、私を嫌っていたのに。将来、ジョナサンがお父様から爵位を継いだ時。
私が当主のように領地の運営をしていたら――
きっと険悪な関係になるのを避けられない。
「そ、それぐらいのことは……プライドの高いジョナサンと一緒にジュリーが男爵家に残れば、不利益が生じるかもしれないと私も理解しています!」
お父様は不満そうに眉間にしわを寄せる。
「ならば、男爵。なぜジュリー嬢を引き止めるのだ?」
「……それは」
言葉に詰まったお父様の代わりにエドガーが答えた。
「男爵は自分が育てた有能な娘を、後継者にしたいという未練を、どうしても捨てられなかったのでは?」
「……っ!」
お父様はビクッと身体を強張らせた。エドガーはお父様の本心を言い当てたのだろう。そんなお父様にとどめを刺すように、エドガーは話を続けた。
「男爵が先ほどジュリーに言っていた、義務や責任などとは関係のないのではありませんか?」
「これは男爵家ことで……」
「お父様……こんなの誰も幸せになれないわ……」
(お願い。私とエドガーの結婚を許して! どうか……)
エドガーの腕に守られながら、私は切実に願った。
「お前が男なら……」
チラリと私を見て、お父様は悔しそうにつぶやいた。
それ以上、お父様は何も言わず。私に背中を向け、その場を去っていく。
「お父様……」
結局、お父様は最後まで私とエドガーの結婚を許すとは言わなかった。……そして私の花嫁姿を見ても何も言わなかった。
私は感傷的になり、無性に泣きたくなる。
「幸せになりなさい、ジュリー……!」
お母様が私の手を撫で、エドガーに微笑みかけた後。マクシミリアン殿下に優雅なお辞儀をする。
「殿下、本日は甥と娘への御助力を頂きまして、ありがとうございました。どうか夫の無礼をお許しください」
「男爵も娘が可愛くて嫁がせたくなかったのだろう。さぁ、夫人。早く行って男爵を慰めてやると良い」
「はい。それではお言葉に甘えまして失礼いたします」
お母様は別れの挨拶を終えて、お父様の後を追った。
セイフォード男爵夫妻が、祭壇前広間を去ってい行く姿を、その場にいた全員が黙って見送る。
入り口付近でジョナサンがお父様に『ついて行こうか?』それとも『この場に留まろうか?』……と取り残されてウロウロとしている。
そんなジョナサンの迷う姿があまりにも情けなくて、エドガーは弟を睨みつけ、手を上げて『参列者席に座れ!』と、祭壇前の参列者席を指し示す。
エドガーの意図に気づいたジョナサンは、慌てて一番前の席まで駆けて来て腰を下ろした。




