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婚約者を妹に譲ったら、婚約者の兄に溺愛された  作者: みみぢあん


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43話 婚姻の儀3 


 ジュリーの父親、セイフォード男爵が祭壇前まで来ると、老齢の女性神官様が一歩前に出て、厳しい口調で説教を始めた。



「セイフォード男爵! 神聖な婚姻の儀式の最中に怒鳴り声をあげて、故意に中断させるとは……これは女神様への冒涜(ぼうとく)ですよ!」


 怖気づいた参列者たちから抗議の声をあげる者はいなかった。……だが、神官様だけは毅然とした態度で声を上げた。

 

 腹を立てた男爵は神官様に負けじと怒鳴り散らし始めた。


「冒涜だと? それは違うぞ、神官殿! セイフォード男爵の私が許可を出していない娘の結婚を、勝手に行おうとしているのだ。私が儀式を止めて何が悪いのだ!!」


「いいえ、このような暴挙はけして許されることではありません! 恥を知りなさい、セイフォード男爵!」


「これは男爵家の問題だ。たとえ神官殿でも部外者は黙っていてくれ!」 


 男爵がジュリーの腕に手をのばした。だが怯えるジュリーは咄嗟(とっさ)に男爵の手を、パシッ! と振り払った。


「嫌よ、お父様……っ!」

「ジュリー!」


 私は父と娘の間に割って入った。ジュリーの前に立ち、自分の背中でジュリーを守り男爵の手を阻む。


「やめて下さい、男爵」

(ここまで大騒ぎをするほど、男爵がジュリーに執着しているとは……もっと人の目を気にする人だと思っていたが。これは大きな誤算だったな)


「ファゼリー伯爵! 娘への求婚はさっき断ったのを、君は忘れたのか?」 


 男爵がしつこく私の背中に隠れるジュリーに手をのばすから。私は男爵の腕を掴んで話を続ける。


「先ほどは男爵に言い忘れましたが。先にジュリー嬢から私の求婚を受け入れると、良い返事をもらいました。男爵に求婚を願い出たのは、形ばかりの義理を立てただけです」


 私の返答に目を剥き、男爵は激昂し顔を歪めた。


「ふざけるな――っ! 伯爵位を持つ者がこんな小賢しい手段を取るとは……何て奴だ! さぁ、ジュリー! 屋敷に戻りなさい!」


「嫌です! 今までのようにお父様の命令を、聞きたくありません!」 

 ジュリーはブルブルと震えながら、私の背中にしがみつく。

  

「男爵、これがジュリー嬢の意志です! 王都の貴族管理局も私たちの結婚の許可を出しました。いくらあなたが父親でも、成人したジュリーの結婚をする権利を侵すことはできませんよ!」

 ※貴族管理局→出生、婚姻、死亡の届出など、貴族籍関係の管理をする王国の機関


 私は正論で男爵を説得しようとしたが、興奮した男爵はまるで聞く耳を持たなかった。


「……黙れ――っ! ジュリーは私が育てた、私の娘だ! お前などに勝手なことはさせないぞ!」


「セイフォード男爵。あなたにはもう一人娘がいるのを忘れたのですか? それにもうすぐ私の弟ジョナサンが、あなたの息子になるのですよ?」


「そんなことは関係ない! ジュリーは男爵家を守るために、私が一から厳しく仕込んで育て上げた娘だ! 私の立派な後継者なのだ! 甘やかされて育った、ジョナサンなどとは比べ物にならない!」


「男爵……これは困ったな」

(ジョナサンに関しては、まったく否定できない)


 不謹慎にも私は胸の中で笑ってしまう。



 当のジョナサンの姿を祭壇広間の入り口で見つけた。ウロウロしながら、こちらの様子を窺っている。

 男爵と一緒に神殿まで来たのだろう。


「……ジョナサンのやつめ!」

 恐らく……私が伯爵邸へ送った使いの報告を聞き。ジョナサンは男爵邸へ行き、私たちが婚姻の儀を秘密裏に進めていたことを、男爵に告げ口したのだ。


(クソッ…! 予定通りの事後報告となっていれば、もう少し穏便に事を運べたはずなのに。結局は参列者たちの前で、男爵を説得しなければならなくなったぞ!)


「何をグズグズしている、ジュリー! 今すぐ屋敷に帰るぞ!」 

 

 男爵は私の隙を狙い再び手をのばして、ジュリーの手を掴もうとした。

 だがジュリーが身体を引き、男爵はジュリーの手ではなく、花嫁の長いベールをつかんで引っ張った。


「や、やめて――っ! お父様…っ…! 嫌っ!」

 ジュリーは悲鳴を上げて、ベールを取られまいと抵抗する。


 私は男爵の手首をつかみ、ベールを放すようギリギリと容赦なく締め付けた。


「男爵! 花嫁のベールを取るのは私の役目です!」

(クソッ! 怒りで頭に血がのぼった男爵は、人前でジュリーを辱めても平気なのか?)


「ううっ! ……このっ!」

 男爵が呻(うめ)き声を上げて手を緩めた隙に、ジュリーが引っ張りベールが男爵の手から離れ、はぎ取られるのを阻止した。


 醜態をさらす男爵に……普段はおっとりとした物静かな男爵夫人が声を荒げた。

「旦那様……! もう止めて下さい! あなたは娘の幸せをご自分の手で潰す気ですか⁉ あなたは恥ずかしくないのですか⁉」


 美しい花嫁姿の娘を見ても誇らしいと褒めるのではなく。……自分に服従させようと乱暴に手を出す夫に、男爵夫人(叔母上)は耐えられなくなり声を上げたのだ。


「今さら何を言っているのだ! 貴族に生まれたのだから、家を守るために個人の幸せなど後回しにして当然ではないか!」




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