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婚約者を妹に譲ったら、婚約者の兄に溺愛された  作者: みみぢあん


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42話 婚姻の儀2


 突然、広間に現れたお父様は私の結婚を許さないと大声で怒鳴り、『婚姻の儀』を中断させた。それまで神殿内にあふれていた、お祝いムードが一転し、大きな不安に包まれる。



「ジュリー! 父親の私の許しも得ずに、こんなところで何をやっているのだ! 今すぐ屋敷に帰るぞ―――っ!」


 儀式の前に花嫁の私がマクシミリアン様のエスコートで静々と進んだ通路を。今は顔を真っ赤にして怒り狂ったお父様が、娘を連れ戻そうと。祝福の場を土足で踏みにじるようにガツッ、ガツッ、と荒々しい足音を立てて祭壇の前へ歩いて来る。


 参列者席の真ん中にある通路を、悪魔のような形相で進むお父様の姿を見た参列者たちは、両手を組み合わせ口々に祈りを捧げた。

「おお……っ! 男爵様、どうかジュリーお嬢様をお許しを! どうかジュリーお嬢様をお許しを!」

「女神様、男爵様に慈悲の心を与えて下さい!」


 顔を強張らせた参列者たちは、不安そうに自分たちが暮らす土地の領主を見守りながら、口々に祈りを捧げた。


「男爵様がジュリー様の結婚をお認めになるよう、女神様… どうか御力をお貸しください!」

 参列している使用人たちにとってセイフォード男爵は、自分たちの雇い主であり、領地民にとっては自分たちの領主である。

 子供の頃から見守って来たジュリーを祝いたい気持ちは大きいが、男爵に逆らうこともできないのだ。


「ああ……どうかお気を静めて、いつもの穏やかな男爵様に戻って下さい!」


 何より、普段のお父様は良い雇い主で、良い領主でもある。善良な参列者たちは儀式に参列することで、裏切ってしまったという自覚があり。罪悪感を持っている。

 みんな複雑な思いを抱いているから、お父様の暴挙を止める者はいなかった。



「…っ?!」

 今まさに誓いの言葉を口にしようとしていた私は、お父様の怒鳴り声を聞き……ハッと息を呑み。怒鳴り声がした背後を振り返った。


 ベール越しで見てもわかるほど怒りで顔を真っ赤にしたお父様が、祭壇広間の入り口から真っ直ぐ私に向かって歩いてくる。


「ああ、やっぱり……ダメなの?」

(私は……エドガーと結婚は……できないのね……)


 私の人生には青い薔薇のような奇跡は起きない。


 父親の姿を見た瞬間、私の顔から血の気が引き青ざめた。娘の私にとってお父様は、自分を守る壁であり。同時に越えられない壁でもあった。


 過去に不満があって逆らった時も……結局、最後にはお父様の意のままにされて、私は従うしかなかったからだ。


「嫌よ……」

 幸せの絶頂で私の胸を満たしていた婚姻への喜びは、無残に霧となって散り。大きな失望感に襲われて私の瞳からジワリと涙が滲み出す。


(せっかく綺麗にお化粧をしてもらったのに……)

 泣き顔をさらしたくなくて俯(うつむ)くと、手に持った青い薔薇のブーケに瞳から溢れた涙がポツリと落ちた。


「ジュリー……心配しないで、私に任せてくれ」

 隣に立つエドガーから長い腕がのびて来て、私は腰を引き寄せられた。


 声を上げて泣きたくなった。


「エドガー、私……ずっとあなたが好きなの! あなたと結婚するのが、子供の頃から夢だったわ!」

(でも長女だから、やっぱりダメなのね? 諦めなくてはいけないのだわ)


 追い詰められた私は自分の願いを切々と口に出し、エドガーに伝えた。





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