41話 婚姻の儀
婚姻の儀が行われる祭壇広間の扉が、私たちのために大きく開かれた。
マクシミリアン様にエスコートされた私は、裾の長いドレスからシュルッ、シュルッ、と衣擦れの音を立てながら広間へと入り。ゆっくりと祭壇まで進む。
陽が落ちて暗くなり、蝋燭の炎で照らされた広間は……昼間、信徒たちに見せる厳かな雰囲気からがらりと変わり。琥珀色の幻想的な空間へと様変わりしていた。
チラリと参列者席を見ると、子供の頃から知っている使用人たちが、満面の笑みを浮かべて私を見つめていた。
「……っ」
(みんな……忙しいのに来てくれたのね? 嬉しいわ、ありがとう!)
参列者たちの顔を見ただけで、私は感動してしまい瞳が涙で潤み出してしまう。
急遽、決まった婚姻の儀(結婚式)だったため。男爵家と伯爵家の使用人たちが、順番に手があいた人たちから神殿まで来てくれたのだ。
他にも話を聞きつけて集まった、領民たちも参列していた。
招待状が送られて来たから、仕方なく義理で参列しているような人は、一人もいない。
――この場にいる参列者たちは、心から私たちの結婚を祝福したくて、集まってくれた人たちなのだ。
「……っ」
(お母様と私たちだけの寂しい式になると、覚悟していたのに。こんなにたくさんの人たちに見守られながら、婚姻の儀を迎えられるなんて……私は本当に幸せ者だわ!)
参列者席の真ん中にある通路を歩き、礼装に着替えたエドガーと老齢の女性神官が待つ祭壇前へと真っ直ぐ進む。
エスコート役のマクシミリアン様から花婿のエドガーへ、花嫁の私が託されると。
神官様に見守られながら、エドガーと私は祭壇の前に並んで立つ。その時エドガーが長いベールを頭から掛けた私の耳元でヒソヒソと囁いた。
「……今日の君は女神のようだね」
「……っ⁉」
(女神様の前で『女神のようだ』とお世辞を言うなんて! エドガー! あなたはなんて不謹慎な人なの⁉)
思わず私はクスクスと笑ってしまった。たぶんエドガーは私の緊張を解すために、わざと言ったのだろう。こういうところは憎らしいほど気が利く人なのだと、改めてエドガーに尊敬の念を抱いた。
エドガーは私から視線を祭壇前へと移し、神官様に軽くうなずき準備が出来たと合図する。神官様もエドガーにうなずいて答えると、一度深呼吸をしてから参列者席に向けて宣言する。
「ファゼリー伯爵エドガーと、セイフォード男爵家の長女ジュリーの婚姻の儀式を執り行ないます!」
老齢の女性とは思えない朗々とした声が神殿の広間に響いた。女神様を祀る祭壇の前で、いよいよ婚姻の儀式を始まった。
エドガーの求婚から儀式の準備まで、恐ろしいほど慌ただしかったのが嘘みたいに、婚姻の儀式は何の問題も無くゆったりと進んだ。
順調に儀式は進み、あとは夫婦の誓いを立ててキスで締めくくれば。これで私たちは夫婦となる。
――だが。
ガンッ!
突然、祭壇前広間の扉が勢いよく開き、どこかの不届き者が儀式の邪魔をした。
「ジュリー――ッ!! 私はこんな結婚など認めないぞ!」
怒り狂った私のお父様、セイフォード男爵が広間に現れた。




