37話 エドガーは恥知らず2
どういった経緯で私たちが男爵家の玄関ホールでキスをしていたのかを、エドガーは自身の叔母でもある、私のお母様に報告すると――
「男爵に求婚の許しを得る前に、ジュリー自身の気持ちを先に確かめたかったのです。無理強いだけはしたくなかったので」
エドガーは我が物顔で私の腰をグイッと引き寄せ、自分の身体にピッタリと密着させた。大きな花束を抱える私は上手く抵抗が出来ず、エドガーにされるがままだ。
逞しいエドガーの腕から感じていた熱を、ピッタリとくっついた大きな半身から伝わり。羞恥で私の体温がエドガーと同じぐらい上昇して行く。
「ううっ……」
(もう… 顔から火が出そうだわ。どうしてエドガーは、さっきからこんなに冷静なの? お母様にまでキスを見られてしまって恥ずかしくないの?)
火照る顔で背の高いエドガーを見あげると、パチリと目が合った。
――その瞬間……再びエドガーの唇が、私の唇に落ちた。チュッ! と小さな音を立ててキスされてしまう。
「……っ!」
(エドガー―――ッ!!)
強い羞恥心から、お母様の顔を見ることが出来なくなり。私は大きな花束を腕に抱いたまま顔をそむけ、エドガーの広い胸を見つめることで、お母様と視線を合わせないようにした。
「叔母上、出来ればこのままジュリーを、攫って行きたいぐらいです」
ジュリーの激しい動揺に気がついていても。エドガーは何食わぬ顔でお母様に平然と言った。
「ふふふっ……あなた、ずいぶんと燥いでいるわね? 昔から見て来たあなたは、真面目なうえに子供にしては冷静沈着な印象だったのに」
エドガーの砕けた態度にお母様は、面白そうにクスクスと笑っている。
「そう見えますか?」
「ええ。エドガーがこんなにジュリーを気に入っているとは知らなかったわ」
「私自身も驚いています。昔から好感は持っていましたが……王都で同じ年頃の令嬢たちに接してうんざりしていたので」
「……ああ」
お母様は何かに納得するようにうなずいた。
「こちらでジュリーと再会してからは、ジュリー以上に気に入る女性は他にいないと、確信しています」
「そう。その言葉を聞いて安心したわ、エドガー」
お母様は満足そうに笑う。
二人の会話を聞きながら。私は動かず黙ってジッとエドガーの胸を見ていると。エドガーはクイッ! と私の顎をつかみ上を向かせた。アッと言う間にまた、私の唇にエドガーの唇が落ちる。
「……っ!!」
(エドガー! キスは嬉しいけど……)
「ふふっ」
エドガーは嬉しそうに、自分がキスをした後の私の唇を、硬い指先で撫でた。
「あらあら! 昔から礼儀正しかった私の甥は、いつからそんな恥知らずになったのかしら?」
お母様は手首にひっかけていた扇を開き、パタパタと煽ぐ。
「ほんの数分前に、ジュリーが私の求婚を受け入れた時からです」
「……ぅ」
私はエドガーから逃げ出そうと、身体の向きを変えた時にお母様と目が合う。
お母様は外出用の手袋を外し、私の火照った頬を白くふくよかな手で優しく撫でた。
「ふふふっ……ジュリーは子供の頃からずっと、エドガーが好きだったから。お父様がジョナサンとの婚約を決めた時は、私も心を痛めたけれど」
「お、お母様? いきなり何を言い出すの?」
自分の古い秘密を明かされそうになり、動揺した私は魚のように口をパクパクした。
そんな私にお母様は笑みを深くする。
「あなたは一生懸命、気持ちを隠していたけれどね。エドガーに纏わりついてアレコレ好みを聞きだそうとする姿は、とても微笑ましかったわ」
当時子供だった自分たちだけが、そのことに気づかなかったが。周囲の大人たち(使用人を含め)は全員、私の幼い恋心に気づいていたのだ。
「……ジュリーが子供の頃から、私を好きだった?」
「そうよ」
私とお母様の会話にエドガーが喰いつきたずねると。お母様が私の代わりに答えた。
「……うっ」
(もう……っ! もう……っ!! もう~~っ!! エドガーに言ってしまうなんて、ひどいわ、お母様ぁ~!)
羞恥が限界に達して。私は自分の顔をさらすことに耐えられず、目の前にあるエドガーの広い胸で顔を隠すと。エドガーが嬉しそうにつぶやく。
「ジュリー、知らなかったよ……」
「……っ!」
これで私とエドガーは昔から相思相愛だったと、その場に居合わせた全員が知ることとなった。
誰もが笑みを浮かべ祝福ムードの中。
――不意にお母様の表情が曇った。
気まずそうにお母様は口を開く。
「でもエドガー……男爵はおそらく、あなたたちの結婚を許可しないわ」




