31話 求婚3
エドガーは裕福な上級貴族らしく、私が直面している問題はお金で簡単に解決出来るとさらりと言った。
「ジョナサンが信用出来ないなら、私のように信用できる領地管理人を雇えば済むことなのだが?」
「……っ⁉」
「管理人が雇えないほど、セイフォード男爵家は金に困ってはいないだろう? もちろん困っているのなら、ファゼリー伯爵家から資金を援助するよ」
「領地管理人?」
(そうか……! エドガーは領地の運営よりも、王太子殿下の側近の仕事が忙しいから。自分の代わりに領地の管理をする人を雇っていると、ジョナサンに聞いたことがあった。忘れていたわ!)
「もちろん、管理人に任せっぱなしでは、いけないが……」
「なるほど。領地管理人かぁ……」
エドガーはそう言いながら、自分が持って来た大きな花束を私に渡した。
――何気なく花束をヒョイッと渡され。話に集中していた私は何も考えずに、花束を両手で受け取った。
「……あっ!」
エドガーから受け取った花束の中に『奇跡の薔薇』、『神の祝福』と呼ばれる、外国で品種改良された貴重な青い薔薇が混じっていることに気づき、私は思わず息を呑んだ。
白い薔薇と一緒に束ねられた淡く軽やかな色調の青い薔薇は、派手さはないけど。清楚で爽やかな魅力がある。
自分の目が信じられなくて、腕の中の青い薔薇から目が離せず、まじまじと見つめていると。どことなく緊張した様子のエドガーがたずねた。
「気に入ったか?」
「何が?」
私はキョトンと、首を傾げて聞き返した。
「花だよ! 香りが良いピンクの薔薇はジョナサンが全部アリアーヌに贈ってしまったから、良いのが残っていなかったんだ。それで……そんな地味な色で小ぶりなものしか無くて」
すごく悔しそうに、エドガーは何やら弁解を始めた。
「あら、そうなの? でもエドガー、この青いバラ……すごいバラなのよ?」
(確かこの青い薔薇は、知る人ぞ知るという薔薇で……)
十年ほど前に王都で開かれた『世界の博覧会』で、初めてお披露目された品種らしいけど。
すごく高価で貴重だから、王宮の温室でしか育てられていないと、女学園の教師から聞いたことがある。何と言っても、青い薔薇は元々自然界には存在しない花だから。
「きっと先代伯爵様が当時王家に仕えていたから、株をわけてもらったのね。すごいわ、エドガー! こんなふうに切り花にしてしまって良いの? アリアーヌに贈るためなのは、分かるけど……」
(たぶんアリアーヌは、この青いバラの価値を知らないから。ピンクのバラが良いと言うでしょうね)
「アリアーヌ? さっきから何を言っているんだ。花はジュリーへ贈るために持って来たのに」
「……私に⁉ きょうは私の誕生日ではないけれど?」
(私への贈り物⁉ アリアーヌへのお見舞いの花束ではなかったの?)
「……それでジュリーは、花が気に入ったのか?」
「勿論よ! こんな贅沢な薔薇を前にして、文句なんか言えないわ!」
(どんな花束だって、エドガーの贈り物なら喜んで受け取るわ)
私は青いバラに顔を寄せて、香りを確かめる。見た目にピッタリのさっぱりとしたフルーティな芳香だ。
私の感想を聞き、エドガーは満足そうにニコリと笑う。
青いバラがそれほど貴重な花だとは、贈ったエドガー自身も知らなかったのだろう。
私が薔薇の香りを楽しんでいると。エドガーは上着のポケットから、小さな紙の包みを出して開く。
「ジュリー、口を開けて……」
「んん?」
「口だよ!」
「口……?」
「ほらっ! 大きく……」
大きな花束で塞がっていて両手が使えない私の代わりに、エドガーは包み紙の中身を私の口の中にポイッ! と放り込んだ。
「んんんっ……⁉ んん〰〰っ?」
(甘い砂糖菓子だわっ! わぁ~美味しいぃぃっ!)
「気に入ったか?」
すごく緊張した様子のエドガーは、青い薔薇の時と同じようにたずねた。
「うん!」
コクッ、コクッ、とうなずき。私は幸せな気分で微笑んだ。
エドガーはもう一つポケットから包みを出して、私の口に砂糖菓子を放り込む。




