23話 ふたたび帰郷
私は溜まった仕事を全部、執務机に山積みにしたまま放りだし。青い顔をした同僚が必死で引き止めるのを振り切り、再び帰郷した。
急いだ理由はいろいろあるが。一番の理由は私がせっかちな性分だからだ。
花嫁を交代して行われる、ジョナサンとアリアーヌの結婚式の前に、私は自分の結婚をさっさと決めておきたかった。
花嫁を変えて結婚式を予定通りに行うのは合理的だと。私の都合ばかり考えて男爵には提案したが。ジュリーが悲しむ姿を見た後では、そのことを深く後悔していた。……今さらだが、もっと彼女に配慮するべきだったと。
「私の前で泣き崩れたジュリーの悲哀を考えると……一刻も早く田舎から連れ出して、惨めな気持ちからもジュリーを救い出してやりたい」
それが最善なのだ。
通常の場合。婚約期間が短いと『花嫁が妊娠しているのか?』だとか、『二人のどちらかに問題があるに違いない』 ……などと。くだらない邪推を呼び寄せ醜聞になりかねない。
だが、ジョナサンとアリアーヌのせいで、すでにセイフォード男爵領近隣では、醜聞となっているため。
『正式に段階を踏んで結婚準備を進めることに、あまり意味は無いだろう?』
…と、省くことに決めたのである。
ジュリーのために男爵令嬢にしては、破格と言っても良いほどの好条件で、セイフォード男爵に婚前契約を提案しようと。私はファゼリー伯爵家の顧問弁護士と相談して、内容を練り上げた完璧な契約書を作成した。
男爵家からの持参金は一切求めず、逆に多額の支度金を『ジュリーのために伯爵家から贈る』という内容の契約書だ。
結婚に必要な書類がすべてそろうと、私は王太子殿下に再び休暇を申請し(すごく王太子殿下にゴネられた)、田舎にあるファゼリー伯爵家の本邸に戻って来た。
「お帰りなさいませ、旦那様」
ファゼリー伯爵邸の荘厳な玄関ホールで、私を出迎えた執事に帽子と手袋、上着を順番に脱いで渡しながら、ジョナサンの居場所をたずねる。
「それで、ジョナサンはまた男爵家へ行っているのか?」
「ジョナサン様ですか?」
執事は急に顔を曇らせた。
「どうせ飽きもせず、アリアーヌ嬢に会いに行っているのだろう?」
(ジュリーに比べると昔からメソメソと泣いてばかりで。ほとんど成長を感じられない子供っぽい娘のどこが魅力的なのか、私にはさっぱりわからないが)
男爵と婚約解消の話し合いをするため、前回帰郷した時。私はついでにアリアーヌとも話をしたが、その時も何が悲しいのか、ずっとメソメソと泣いていた。
『まるで自分の方が誰かに裏切られて、傷つけられでもしたような態度ではないか?』 ――と感じた。
それ以来、私が持つアリアーヌの印象が増々悪くなり。だから彼女に関することを語る私の口調が、辛口になるのも仕方がない。
「確かに容姿は美しいが。私の目には王都にいる未婚の令嬢たちと、大差無い」
アリアーヌを賛美する下手くそな詩を、毎日書いて贈っているジョナサンの気持ちが、私にはまったく理解出来ない。
(でもまぁ……彼女はジュリーの妹だから、一応丁重に扱うが。正直どうでも良い)
アリアーヌに関する酷評を口に出しながら、頭の中でつらつらと考えていると。執事が私に助けを求めるように口を開いた。
「あの……旦那様、ジョナサン様が二週間ほど前から、自室に籠ったきり、出て来られないのです」
「ジョナサンが?」




