21話 婚約者ジョナサン2
――あの気が強くて生意気なジュリーが泣いている。
そんな姿は幼馴染みの僕でも、今まで見たことが無い。思わず口をポカ~ンと開けて、まじまじとジュリーを見つめた。
「……っ」
自分がジュリーに向けた視線がどれほど無礼だったか、僕はあまりにも驚き過ぎて、指摘されるまで気付かなかった。
(アリアーヌではなくて、ジュリーが泣いていたのか? 信じられない。ジュリーの泣き顔なんて初めて見たぞ! これは驚いた)
「なっ、ジョナサン……!」
僕の視線に気づいたジュリーが泣き腫らして真っ赤になった目を、サッと隠してハンカチでゴシゴシと涙をぬぐう。
そんなジュリーを庇い、男爵夫人は冷ややかな目で僕を睨みつけた。
「ジョナサン! もうすぐジュリーとあなたは義理の家族となる間柄ですが。ジロジロと未婚の女性の顔を見るなんて……いくらなんでも不作法ですよ」
「こ、これは……申し訳ありません! 叔母上!」
男爵夫人(叔母)に叱られて、ぼんやりと僕はその場に立っていた。ジュリーはそんな僕を睨みつけて怒鳴った。
「あなたのせいよ、ジョナサン! あなたがもっと、しっかりしてくれていれば……私はこんな思いはしなかったのに!」
僕もジュリーの言葉を聞き、ムッとしながら睨み返した。
「……はっ?」
(今さらジュリーは、婚約解消のことを言っているのか? 僕たちの結婚式の準備を、何も言わずに手伝っていたから、もう気にしていないと思っていたのに。僕を愛していないくせに、なんて執念深いやつなんだ。一度、解決したことをまた問題にするなんて。)
「あなたはセイフォード男爵の後継者なのに! もっと領地のことや領民のことを、真面目に考えてくれていたら……」
「何だって? なぜ領地のことなんか、ここで急に言い出すんだよ!」
(婚約解消のことで泣いていたのではないのか?)
「お父様が……あなたには男爵家を任せられないから、私を他家に嫁がせないと、言っているの! 全部、あなたが悪いのよ!」
強い怒りで興奮したジュリーの、空色の瞳から再び涙がポロポロとあふれ出した。
「どういう意味だ? まさか男爵は……僕とお前をまだ、結婚させる気なのか?」
「バカ―――ッ! もう、あなたなんて大嫌い! 自分で直接、執務室にいるお父様に聞いてみれば良いのよ!」
わっ! と声をあげてジュリーは、男爵夫人の膝に顔をうずめて泣きだした。
「……っ?」
(何が何だか訳がわからない)
呆然とジュリーを見ていると。普段はお淑やかな男爵夫人(叔母)が貴婦人らしからぬ態度で、チッ! と忌々しそうに舌を鳴らす。
「何をぼんやりしているの、ジョナサン! 早く執務室へ行き、自分の耳で自分の愚かさを聞いてきなさい!」
「ええっ?」
「行きなさい!」
男爵夫人は居間の扉を、ビシッと指さした。
「は、はい!」
僕は足早に居間を出て、男爵夫人に言われるがまま執務室へ向かう。
「……いったい、何が起きているんだ?」
泣きわめくジュリーを見たのも初めてだったが。険悪な表情で怒鳴る叔母(男爵夫人)を見たのも初めてだった。




