17話 王都にて…3
自分が結婚を避けて来た理由を、改めて思い返していると……不意にマクシミリアン殿下に声をかけられた。
「それでエドガー。お前の幼馴染みの令嬢を、私に紹介してくれるのだろう?」
「ですから殿下……先程その話は断ったはずですが? どうせ殿下は、そうやって私の幼馴染みを口実にして、側妃選抜の時間稼ぎに使う気なのでしょう?」
(殿下は少し軽薄で優し気な印象を相手に与える人だが。……本性は生粋の王族らしく腹の中は真っ黒で、常に策略を巡らせているような人だ。私は絶対に騙されないぞ!)
「やっぱり、わかるか?」
「わかりますよ、殿下。側近の私まで騙そうとするのはやめて下さい。相手をするのが面倒なので」
「おい、エドガー。今日のお前は一段と口が悪いぞ」
私にそう言いながら、殿下はニヤニヤと愉快そうに笑っている。
「本気で娶る気など無いのに。たかが時間稼ぎのために、私の大切な幼馴染みを巻き込むなど、私は許容出来ません」
(こんな策略家に、真っ直ぐな質のジュリーを会わせるなんて論外だ。危険過ぎる)
「なぜだ? 私の側妃候補に名前を挙げるだけでも、社交界で嫌でも目立ち、花婿候補が列を作って集まるのではないかな?」
王族の影響力はそれほど大きいのだ。
「それでも絶対に彼女はダメです! お断りします、殿下」
(ブリュノの言う通りだ。私が望むジュリーの花婿候補は、私が一番相応しい。私がジュリーと結婚する)
今までずっと結婚を避けて来たが、今の私なら妻や子供を守れるだけの、能力と経験が備わっている。今が好機なのだろう。
「エドガー、そう固いことを言わずにだな……」
「お断りします、殿下」
(自分の気持ちを素直に認めよう)
セイフォード男爵邸の玄関ホールで、彼女と再会した時から私はジュリーが欲しいと……いや、欲しくてたまらないと思っていた。
(王都に戻ってから彼女のことが頭を離れず、仕事も進まない。ジュリーを手に入れなければ! 絶対に誰にも渡したくない。私には彼女を幸せにする自信がある)
幼い頃から長男長女同士、私とジュリーは子供ながらお互いの義務や責任について、良く知り理解し合って来た。だから年が近い弟のジョナサンよりも、私の方がジュリーと仲が良かった。
何年も離れて別々に暮らし、大人になってから再会したが。時間の隔たりが作用する障害も無く、私とジュリーはすぐにお互いを理解して打ち解けた。
――そう出来たのは、私たちの相性が抜群に良いからに決まっている。
(あんなに気持ちが浮き立つ時間を、このまま手放したくない。だから他の誰かにジュリーを取られる前に私が……)
フゥ―――ッ……と大きく息を吐く。少し興奮気味だと自覚があったから、自分を落ちつけようと瞳を閉じた。
ギュッ! と拳を握り自分に気合いを入れる。
(よし!)
「殿下! 急用を思い出したので、私はここで失礼します!」
溜まった仕事が山のように積まれた執務机を離れ、マクシミリアン殿下の前を大股で横切り、私は執務室の扉に向かった。
(決めたらすぐにでも動かないと。私に訪れたジュリーと言う名の幸運が逃げてしまう)
「ええっ⁉ おい、エドガー! ちょっと待てよっ!」
仕事を放り出して帰宅しようとする私を、慌てて同僚のブリュノが引き留めようとするが……
「悪いがブリュノ、後は頼む。私は一刻も早く求婚の準備をしなければならないから」
「……はぁ⁉ 本気か、エドガー!」
「ああ、本気だ」
「おいおい……」
興味津々で私を眺めていたマクシミリアン殿下に、扉の前から頭を下げて一礼し。慌てて私を引き止めようとする、ブリュノの肩をトンッ、トンッ、と叩いた。
(まずは弁護士と会う。それから、セイフォード男爵が一目見て、ジュリーと私の結婚を即決で受け入れそうな、条件を盛り込んだ完璧な婚前契約書を作らないと)
ジュリー自身が私との結婚を受け入れるかどうか……その問題がチラリと私の脳裏を過ぎったが。今はあえて無視することにして先を急ぎ、自分の執務室を出た。




