15話 王都にて……
心配していたセイフォード男爵との話し合いも、難なく無事に終り。私は早々に田舎の本邸から王都へと戻った。
私の執務机に山積みにされた、溜まりに溜まった仕事を再開するが。……何かにつけてふと、久しぶりに会った幼馴染みのことを思い出し。頭からそのことが離れなくなった。
「……」
(これからジュリーはどうするのだろう? すぐに嫁ぎ先を探すのだろうか。私がジュリーの保護者なら絶対にそうすると思うが……)
ゾッとするほどうず高く積まれた、私の処理待ちの書類を前にして。手を動かさずに物思いに耽るような贅沢は出来ず。ペン先をインクに浸すとカリカリといくつかの書類に署名を入れる。
円柱形の容器を振って書類にパラパラと吸い取り砂を落とし、紙に署名が滲まないよう余分なインクを吸い取る。インクを吸った砂を落として机の端の木箱に処理済みの書類を積んで行く。
「うぅ~ん……」
(ジュリーのために私がしてやれることは、良い嫁ぎ先を探してやるのが、一番良いのは分かっているが……誰を紹介するかが問題だ)
ふと顔を上げて、処理済みの書類を受け取りに来た同僚に声をかけた。
「なぁ、ブリュノ。……お前、結婚相手を探していると言っていたよな?」
(ブリュノは確か、子爵家の次男だから……家格もつり合うな)
ブリュノは領地や資産を親から継ぐ予定は無いが。そこそこ有能で国から受け取る報酬も、生活には困らない金額のはずだ。爵位は無くても夫にするには悪くない相手だった。
たった今、私が仕上げた書類に目を通しながら、同僚のブリュノは私の問いかけに答える。
「ああ、兄夫婦になかなか子供が出来ないから。叔父に早く結婚して後継者問題を解決してやれと、急かされているんだ」
「跡継ぎの子どもか。それなら私の幼馴染なら……」
(ジュリーは見るからに健康そうだったから。彼女なら大丈夫だろう。きっとすぐに可愛い後継者を産んで…くれ……る…………)
私はそこまで考えて、同僚の子を産むジュリーの姿を想像した。
生意気そうに笑いながら私を揶揄っていたジュリーが……聖母のように慈愛に満ちた笑みを浮かべ、我が子を抱く姿だ。
そんなジュリーの肩を抱く、同僚のブリュノが………????!
「……おっ⁉ 何だエドガー、誰か良い令嬢の心当たりでもあるのか?」
同僚のブリュノは書類から視線を上げ、執務机の椅子に座る私にキラキラと期待の眼差しを向ける。
「……っ」
(無性に腹が立って来たぞ?)
急にブリュノを殴りたくなった。
「エドガー? いるなら焦らさず、紹介してくれよ! 私は本当に困っているのだから」
「いや、ダメだ! お前にあの娘は合わない!」
(ダメだ、ダメだ! ジュリーにはもっと、最高の男でないと。少しぐらい有能でも、その辺にいる平凡な奴など、絶対に紹介できない!)
平凡と言ってもブリュノも私と同じく、将来有望な王太子殿下の側近だと周囲には言われているが。
「エドガー……性格の相性だとか、そんなことは実際に相手と会ってみなければ、分からないさ」
「いや、私には分かるんだ。ブリュノ、お前が弟のジョナサンよりも美形なら、望みがあったかも知れないが……」
(ジュリーはあれだけの美女に成長したのだから。やっぱり、隣に立つ夫の容姿も重要だ!)
ブリュノは、ジョナサンよりも美形とは言えない。醜くはないが平凡だ。
「……おいっ! エドガー、私を揶揄う気か? 美形でなくて悪かったな! それとも私に喧嘩を売っているのか⁉」
同僚のブリュノは顔を赤くしてムッとする。
「いや。少なくともジュリーには、私と同等の能力を持ち。私と同等の資産が当然あって……それから社会的地位も同等で、もちろん容姿も私以上に良くて……」
「そんな奴は、お前自身しかいないだろう? エドガーのような優良な花婿候補は、ほとんど婚約者がいるか結婚しているじゃないか」
「うう~んんっ……」
私が腕組みをし、唸り声をあげて考えに耽っていると……
「だったらその令嬢、私に紹介しろ!」
どこから私たちの話を聞いていたのか。王太子マクシミリアン殿下が、私の執務室へ入って来て口を挟んだ。
「マクシミリアン殿下……!」
(……ああ、クソッ! 面倒な人に話を聞かれてしまった!)
私は内心では顔を顰めながら……あわてて立ち上がり、ブリュノと一緒に頭を下げてお辞儀をした。
「エドガー、お前が選んだ令嬢なら。私の側妃にしてやっても良いぞ?」
ニヤニヤと笑い、王太子殿下は冗談で言ったのだが。私は本気でムッと腹が立った。
「いえ、殿下……」
(確かにマクシミリアン殿下なら、裕福で能力もあり。顔も王妃様ゆずりで美形だが……側妃だなんて! ただでさえジュリーはジョナサンに妹と浮気されて、傷つけられているのに)
「お前が私に薦めるなら、一度その幼馴染みの令嬢とやらに会ってみたいな」
「殿下、お戯れは、おやめ下さい! 私は側妃など、薦めてはおりません」
(考えようによっては側妃になるのは、女性にとって栄誉かもしれない。だが、ジュリーはそんなことで喜ぶ女性ではないから。……だから、側妃は絶対にダメだ! 殿下の命令でも断固拒否する!)
私は敬愛する王太子殿下まで、ブリュノと同じく殴りたくなった。




