13話話 温かい胸2
セイフォード男爵邸の前までエドガーに送ってもらい、屋敷に帰宅すると。何か問題でも起きたのか、使用人たちが普段よりも慌ただしくしていた。
いつも身の回りの世話をしてくれる使用人のマディが、ちょうどその場を通りがかったから。マディを捕まえて、私が留守にしている間に何が起こったのかを聞きだした。
「まぁ、ジュリーお嬢様。お帰りなさいませ!」
「ただいま、マディ。…それよりも、屋敷の中がずいぶん騒がしいけれど。何かあったの?」
マディはひどく気まずそうに、声の音量を少し落として私の質問に答えた。
「はい、ジュリーお嬢様。それがその……実はアリアーヌお嬢様が神殿で倒れられて。お医者様の診察を受けていらっしゃるところです」
「まぁ! アリアーヌが神殿で……⁉」
(子供の頃からアリアーヌは身体が弱かったけれど。最近はあまり倒れることは無くなっていたのに。今度は何があったのかしら?)
「はい。あの……奥様と一緒に神官様に…… その……」
そこでマディは言葉を濁し、その先をなかなか話そうとしない。
――それで私は、マディが話しにくそうにしているのを見て、「あっ!」 ……と思い至った。
ジョナサンとの婚約解消で落ち込んだ私が、自分の部屋に閉じこもり、一週間出て来なかったことを使用人たちは皆、知っている。そんな傷心を抱えた私を、気づかっているのだ。
(今朝までの私なら、ひどく落ち込んていたでしょうけど。今の私はエドガーにたくさん慰めてもらったから、少しぐらいなら平気だわ)
私は『大丈夫よ』と微笑みながらマディにたずねた。
「ああ、もしかして……神殿で“婚姻の儀”をおこなう花嫁が、私からアリアーヌに変わったことを、神官様に報告をしに行って倒れたのかしら…?」
「はい。私はそう聞きました」
(なるほどね。お母様もアリアーヌも部屋に閉じこもっていた私には、何も言わず二人で黙って神殿へ行ったのね。
普段ならそういう面倒ごとは、身体が弱いアリアーヌの代わりに、姉の私にやらせるのに。今回はさすがにお母様も、アリアーヌ自身にやらせることにしたのだわ…)
「はい。……それでアリアーヌお嬢様が、神官様にひどく叱られたと。付き添って、一緒に行ったアリアーヌお嬢様付きのキャロルに聞きました…」
「……そう。ありがとう! 引き止めてごめんなさい」
「いいえ、お嬢様! 失礼します」
マディは私に頭を下げ、その場を去ってい行く。
「……」
(私の婚約者だったジョナサンと、恋人になったことを……たぶん、アリアーヌは神官様に厳しく説教され責められたのね)
それでショックを受けて倒れた。でもそれは、当然のことだわ。 結婚前だったとはいえ、私とジョナサンは何年も前から婚約していたのだから、そんな裏切り行為は許されないことだもの。
ハァ―――ッ……とため息をつき、私は自分の部屋に戻る。
自室に入り、パタンッ! と扉を閉めた後に、ふと思う。
「この話を聞かされたのが、昨日だったら… 私は海よりも深く、さらに落ち込んでいた。でもエドガーと再会し慰められたおかげで……」
(私は今、冷静に受け止めることが出来ているわ!)
私は腕を交差して自分を抱きしめ、エドガーの広い胸の温もりを思いだす。エドガーのことを思い出すと、自然と笑みがこぼれた。
「本当にありがとう、エドガー……大好きよ!」




