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第六王子の汚い水は全てを呑み込む  作者: まんぼうしおから


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23・陸の舟

 皇女救援に向かう最中、聖女に足止めを食らわされた僕と魔女。

 そそくさと歩きながら事情を説明すると、やっと聖女エルスティルは状況を正しく理解してくれた。良かった。ここまで言ってまだ勘違いするようなら脳天に手刀を落としてたかもしれない。


「帝国の過激派による皇女暗殺。そして王国との開戦……一大事ですね」


「そこまで上手く話が進むかどうかってのは怪しいけど、邪魔者の始末と国交の悪化は確実だね」


「で、どうするんだい、聖女さまとしてはさ」


「私ですか? 無論、あなたたちと共に参りますよ。これもまたひとつの試練。いくつもの試練をこなしてこそ、我が鏡は曇りなく磨かれていくのですから」


「アハハ、小綺麗なこと言うのも結構だけどさ、やることは結局殺し合いだぞ?」


「悲しいことですが仕方ありません。理性も知性も乏しく、奪い、殺すことしか知らぬ者は、死をもって救済とするより他に……」


「うわ、きっぱり言い切っちゃった」


「悪人にかける慈悲は、あまり持ち合わせておりませんから」


 歪みないね。


「ん? 何かおかしな点でもある?」


「いえ、助太刀するのはいいとして、どのような方法で追いつくのかなと思いまして」


 聖女ちゃんが目を向けた先には、

 王都の外壁があった。


 王都には二つの壁がある。

 王宮だけを囲む内壁と、王都そのものを囲む外壁。

 僕とペルトゥレが抜け出てきたのは前者。

 そして、これから抜けないとならないのは後者だ。


 王宮とそこに住まう者たちを守るための壁と違い、こちらの壁の出入りは別に難しいことはない。

 緊急時でもない限りは、門のところにいる番兵も素通りさせてくれるという。

 事実ペルトゥレが入れた。

 この怪しげな少女が大丈夫ならもう何でも大丈夫だろう。

 毎日毎日人の出入りが激しいのに、いちいちチェックしたり許可出したりなんてしてられないもんね。


 子供ばかりなのを心配されるかもしれないけど、門の外で大人が待ってるとか、でまかせを言っておけば問題ないはずじゃないかな。


「アハハ、そこは心配ご無用ってね♪」


 ペルトゥレにはすでに教えてある。

 なんなら彼女にも手伝ってもらうからね。


「方法は考えてあるし、実行できると思うけど……まずは王都の外に出るのが先決さ」



 なので出た。



 怪しまれたりすることもなく、拍子抜けするくらい呆気なく通れた。

 有名人なエルスティルが顔バレするかなと不安だったけど、まさか鏡の聖女さまがこんな茶色まみれの格好してるとは思わなかったみたいだね。番兵たちは顔確認すらしなかった。

 もしかすると、この子が失踪したことはまだ王都内に広まってないのかも。


 それと。

 ついでに、それとなく皇女の話も聞いておいた。

 すると、番兵の話によれば、さきほど、一時間くらい前に皇女が乗る馬車の一団がここを抜け、東へ向かったのだとか。


「だとしたら、そこまで引き離されてないね」


「わりと余裕あるかもな、ハハッ」


 ペルトゥレの言うとおり、追いつくどころか追い越せるかもしれない。

 まだまだ挽回できる。



 広がる平地。

 どこまでも延びている、石畳の街道。


 西に向かえば魔女ペルトゥレの故郷、アードング王国。

 東に向かえば皇女ファルティニアの故郷、ゼルガル帝国。

 南はどこだったかな…………まあいいや。

 大したことじゃない。

 後から暇な時にでも思い出せばいいか。


 今は他にやることがあるんだ。自分の身に危機が迫っていることを知らない皇女さまを追わなきゃ。





「アハハハ、快適すぎるだろこれ!」


「なるほど、これならば追いつくのも造作もありませんね。うまい手を思いついたものです」


「でしょー?」


 まあまあの速度を出しながら、僕らは帝国へ続く街道を東へ進む。

 走ってはいない。

 馬でもロバでも馬車でもない。



 僕らは船に乗っていた。



 ペルトゥレが作り出した石の舟。

 僕が街道上に作り出した流水の上を、石舟がその勢いによって運ばれていく。

 汚水じゃない。

 ちゃんと事前に時間をかけて濁りを抜き、臭わないようにした。でないと大変なことになるからね。

 街道上が汚い水とゲロまみれの旅人や行商人だらけになったら流石に僕のやらかしだとバレてしまう。


「うわっ!?」


「舟!? なんでこんなところに……!?」


「ヒヒィインッ!?」


 人だけでなく馬までもが僕らに驚き、左右に退けていく。

 遅くはないけどそこまで速い移動でもないので、余裕をもって回避できるはずだ。実際、行き交う人々はみんな驚きながらも面白そうにこちらを見ている。

 やっぱり目立ちすぎかなこれ。


 オモチャの小舟を動かして遊んだことはあるが、こうも規模の大きなことをやったのは初めてだ。

 うまくいってよかった。

 もしこれが移動手段として活用できなかったら、その時はお姫さまと護衛の人たちに自力で頑張ってもらうことになっていたかもしれない。


 しかし、それにしても目立つ。

 この様子なら、今日中に王都でも僕らのことが話題になるのは避けられそうにないね。

 舟で移動する前に顔を隠しといたのは正解だった。


 念のため、僕だけでなくペルトゥレにもフードを深く被らせ、聖女ちゃんは言われるまでもなく布で隠している。

 顔さえ見られなければいい。

 顔さえバレなければ、いくらでも言い訳できるからね。


「舟なんて作れるとはね。おかげでわざわざボートを用意せずに済んだよ」


 最悪、ボートがなければ三人乗れるくらいの木の板で間に合わせようかとも思ってた。


「ハハ、このくらい朝飯前ってもんさ」


 ペルトゥレは上機嫌だ。


「…………」


 ウマの合わない相手が褒められてるのが気に入らないのか、エルスティルは不機嫌そうにしている。

 でも、その茶色い布の下は、きっといつもの無表情なんだろう。



「ふう。今の時刻は……どのくらいだろ」


 一度休憩する。

 もう、一時間くらいは舟を走らせていたはずだ。

 つまり一時間も水を出しっぱなしにしながら移動してたわけで、高位の魔術ではないにしても魔術は魔術。

 体力的にも魔力的にも消耗はしている。

 ただ、体力はともかく、僕って魔力はかなり多いみたいで、普通こんな長時間の魔術は行使できないそうだ。エルスティルもペルトゥレも口を揃えて言っていた。


「そろそろ見えてもいい気もするのに」


 まだ追いつけないにしても、街道の遠い向こうに、馬車の姿がかすかに見える頃合いのはずじゃないかなと思うんだけどね。


「まだ、太陽があの高さにありますからね。この時期ですから、そうなると……正午までは二時間くらいはあるのでは……」


「へえ、わかるんだ」


「日の出日の入り、時刻の推測、さらには天候の予兆を熟知しておくのも聖女のつとめですから」


「凄いね」


「むふん」


「チッ」


 鼻から抜ける満足げな笑いが、布越しでもわかった。

 今度は聖女ちゃんが上機嫌になり、魔女が舌打ちしましたとさ。



 ──そんな感じで交互に機嫌を良くしたり悪くしたりしつつ、さらに石舟を進めていくと。


 とうとう、皇女さまの乗っているとおぼしき馬車が、僕ら三人の視界に入ってきたのだった。

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