誘拐事件
樹とルフィーナが通された先で、ギルドマスターが待っていた。
職員が飲み物を持ってくると出て行き、その間にギルドマスターが説明をする。
「私がここのギルドマスターをやっている。アルフだ。2人で海賊団を壊滅させたと聞いている。今回の依頼に関して、概要を説明する。請けるかどうかは、聞いた後に判断してくれて構わない」
厳めしい顔つきのギルドマスターは、簡単な自己紹介しかせず、樹をじろりと見ながら口を開いた。
ルフィーナを見た時に妙な反応をしていたが、特に何も言わずに話を進めることにしたようだ。
「こんな場所に呼ぶくらいだから、機密か何かに関わることですか?」
樹は不思議そうな顔で聞く。自分がこんな場所に呼ばれたのが疑問のようだ。
「機密というわけじゃない。あまり騒ぎになると困るというだけだ」
『樹はなんか偉そうなヒゲおやじだな、と思った』
どこからか聞こえた声に、ギルドマスターの眉がピクピク動く。
「一応は報告で知っていたが、なかなか面白い相棒を連れてるな? イツキよ」
「こいつはたまに口が悪いんで、あんまり気にしないでください」
日本で社会人だった樹からすると、こんなに偉そうな口調の人間は会社にはいなかったので、偉そうだと思ってしまう。
上司も普通に君付けで呼んでいたし、取引先の人間も社会人として当たり前の礼儀を持っていた。目上の人間だからと適当な挨拶で済まさず、きちんと名刺交換などをしていたので、こちらの世界の対応は、偉そうに見えてしまう。
「まあいい。今回の依頼は誘拐された大商人の子どもの救出だ。兵士に報せると子どもを殺すと言われている。身代金を運び、子どもを無事に連れ帰るのが仕事だ」
荒くれ者の冒険者をまとめるには、このくらいの威圧感は必要なので、この世界では別に珍しくはない。
ギルドマスターも意識的に振る舞っている部分はあるので、樹の感想など気にせず説明を始めた。
「兵士はダメで冒険者はいいんですか?」
「犯人からしても、親が直接持ってくるとは思わないだろう。冒険者までダメとは言われてないそうだ。だが、冒険者じゃなく使用人のふりをして持って行くんだ。あまり人数を揃えるわけにはいかないから、2人で海賊団を倒せるような実力者がいい。兵士では実力が足らんし、強い騎士だと、それなりに顔が知られているからな。まだ無名で実力のあるお前たちが適任なんだ」
ギルドマスターの説明に納得した樹は、この依頼をぜひ請けたいと思った。
樹は子どもが好きだったし、子ども誘拐するような悪人は嫌いなので、子どもを無事に助け出したら倒そうと思ったのだ。
「オレは構いません。子どもの安全が優先ですけど、可能なら捕らえてきます」
「あたしもいいわ! 民を苦しめるなんて許せないもの」
ルフィーナも憤っているのか、形のいい眉と可愛らしい目がつり上がっていた。
「そうか。それなら依頼人の所に行け。執事服とメイド服を用意しているから、着て行けよ」
樹は刑事ドラマで見たことがあるなと思いながら、別室で着替えた。サイズはいろいろと用意されていたので問題なく、お嬢様が連れて歩きそうな美形執事となった。
ルフィーナも可愛い服が着れて、少し嬉しそうにしている。
「どうかな? 家のメイドが着てたから、前から着てみたかったんだ」
「可愛いぞ。この服は貰っていいそうだから、家でも着てみたらどうだ?」
「家事をする時の作業着にしようかな。お掃除する時とか汚れるし」
樹は冗談で言ったのだが、ルフィーナが乗り気になってしまった。
メイドのようにこき使っていると思われたくないので、樹は必死に止めた。
2人は渡された買い物袋を受け取り、買い物帰りを装おって依頼人の屋敷に向かう。
買い物はメイドの仕事なので、執事の服を着ている樹は、怪しまれないように重い物を持たされたが、怪力の樹には大したことはなく、不満1つ言わない。
門番にこっそり耳打ちすると、すんなり通して貰える。
屋敷に入ると、老執事が案内してくれて、主人の所に連れて行かれる。
別の執事たちが、さりげなく荷物を持ってくれて、一流の執事だと樹は感心した。樹も自然に渡してしまったほどだ。
「ありがとうございます! 依頼を請けてくださって!」
母親だろう。部屋に入ってきた樹たちの姿を見て、すぐにお礼を言う。とても心配していたのだ。彼女には樹たちが救世主のように感じていた。
「落ち着きなさいレジーナ。冒険者のお二方が驚いているじゃないか」
取り乱している母親を、父親らしき男性が宥めた。
「いえ、構いません。お子さんが誘拐されてしまったのですから」
樹は理解を示し、改めて子どもを無事に助け出す決意をした。
父親のパトリック・バクスターが名乗り、妻の紹介もする。
樹たちも名乗り返し、誘拐された時の事情を聞いた。
「夜に誘拐されたようなのですよ。息子の部屋に犯人の手紙が置いてありました」
かなり鮮やかな手口だったようで、誰も気付かないうちに拐われたそうだ。
樹は手引きした人間がいる可能性を考え、誰も屋敷から出さないように頼んだ。
そしてすぐに指定の場所に行くことにした。廃村らしく、この街から4時間ほどの距離らしい。
「これが身代金です。イツキ君、よろしくお願いするよ」
まだ36歳のパトリックだが、疲れたような表情のせいで老けて見えた。
「イツキさん。リチャードを……息子をお願いします」
母親のレジーナも、化粧で誤魔化せないほどのクマを作っていた。
樹は受け取った身代金が、急にズシリと重くなったような気分で、指定の場所に急いだ。
「急いで助けないとな」
「そうね。ご両親、見てられないくらい憔悴していたもんね」
馬の背に揺られながら、2人は気を引き締める。樹は普段ならルフィーナの胸でも触っているかもしれないが、こんな時は自重するようだ。大人しく後ろに乗っている。
「作戦はあるの?」
「人質がいるからな。じっくり狙える時間があるなら、撃ち抜くことはできるが……さすがに武器を構えたら人質がヤバイだろ」
樹の腕も上がっているが、瞬時に狙って撃てるほどの腕前はない。
「あたしの魔法も無理だと思う。素直に子どもを返してくれればいいけど」
魔力を使えばすぐに気付かれてしまうだろう。樹が銃を出す時間くらいなら大丈夫だろうが、魔法を撃つ時間はないだろう。数秒も棒立ちでいてくれるとは思えない。
「まずは身代金で交渉してみよう。敵の数にもよるし、作戦は立てられそうにない」
ルフィーナも困ったような顔で、それに納得した。行き当たりばったりになるのも仕方ないと思っている。
予定より早く着いた2人は、こそこそせずに廃村に入っていく。
敵が何人いるか、どこに配置されているか、誘拐された子どもがどこにいるか、すべて分かっていないのだ。こそこそと入っていって、刺激したくなかったのだ。
「そこで止まれ!」
村の中に入ったとたん、鋭い声が2人を制止した。
「主人の指示で、身代金を持って参りました。リチャード様はご無事でしょうか?」
樹は声がするほうに顔を向けながら、他に敵がいないかを探る。
声の主1人だけで、付近に隠れている者は、樹には感じ取れなかった。
ルフィーナのほうは怯えたように樹の後ろに隠れながら、周囲の気配を探った。
2人ほどが弓で狙っているのに気付き、こっそり樹にサインを送る。
「なら寄越しな!」
「まずはリチャード様の無事を確認させてください。確認できたらお渡しします」
誘拐犯はイライラしながらも、人質を見せ付けたほうが交渉が進むと思い直し、連れてくることにした。
樹の落ち着いた様子を見て、金持ちの執事だし実力者かもしれないと思ったのも理由だった。
スランプになってしまいました。毎日更新はできそうにありません。申し訳ありません。




