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2人で仕事

 最近のルフィーナは、自分好みのベッドで眠れているからか、とても機嫌がよかった。

 以前より1時間も早起きして、朝食の準備を始めているほどだ。

 ルフィーナは高貴な女性だが、樹との生活のためにとても頑張っている。

 井戸まで朝食に必要な水を汲みに行ったり、竃に火を起こしスープを作ったりする。


 井戸では奥様方と世間話に興じ、ご近所付き合いもそつがない。

 なんだか樹のことは、女の子に声を掛けて回るダメ亭主のように思われているが。

 この世界では一夫多妻は当たり前だが、それは金を持っている男のことだ。

 普通の一般家庭並みの家に住み、使用人も雇えない男がすることではない。


「ルフィーナちゃんは働き者なのにね~」


 30代の婦人がルフィーナに同情するように言うが、ルフィーナは苦笑いだ。


「あ、えと……イツキはまだ下手なあたしの料理を美味しいって言って食べてくれますし、あたしの気に入った家具も買ってくれますよ? 女の子に声を掛けるのは、あの人にとって挨拶みたいなものですし」


「ほんとに健気よね~。こんなに可愛いのに」


「そうそう。男の人も選び放題でしょう?」


 褒めて貰っても、ルフィーナからすればモテている自覚はなく戸惑ってしまう。

 美しさと高貴な雰囲気で、平民は声を掛けづらいし、貴族は貴族でルフィーナの強さと身分の高さに尻込みをする。

 声を掛けてくるのは、品のない乱暴そうで傲慢な男だけだった。彼らは空気を読めない。

 樹のようなマトモな口説かれ方をされたことがないので、樹には好印象だった。


「そんなことないです。あたしはモテません。それにイツキは優しくしてくれてます。凄く楽しく暮らしてますよ」


 家事も手伝ってくれることなどを、ルフィーナは必死にアピールする。そんなルフィーナは可愛いらしく、奥様方に大人気だった。

 ともすれば冷たく見えてしまいそうな美貌の少女だが、健気でよく笑うので美しいと言うより可愛く見えるのだ。


 井戸端会議が終わるとルフィーナは朝食の用意を始めた。

 樹が好きな米を炊くようになったので、パンは用意していない。そのぶん時間が掛かるが、樹に喜んで貰いたい一心で、早起きして米を用意するのだ。


 炊飯器のように簡単なことではなく、少し焦げたり硬くなったりするが、樹が仕事に行っている間、ご近所の奥様方に料理を習っているので、少しずつ上達していた。

 食事の準備が終わると、エプロンを着けたまま樹を起こしに行く。樹が似合うんじゃないかと買ってきたお気に入りだったので、ルフィーナは必要もない時にも頻繁に身に付けていた。


「イツキ、おはよ! ご飯できたから起きて」


 最近の樹は1日に2つ~3つの仕事を請けたりしているので、少々お疲れだった。

 2人分の生活費を稼ぐのだと、妙に張り切っていたので、ペースを乱したのだ。

 なんだかんだで樹も、ルフィーナとの生活を楽しんでいた。健気に働くルフィーナを守りたいと思っている。


「う、お、おはよう。今日も朝から家事をありがとうな」


 閉じようとする目蓋を無理矢理こじ開け、樹はルフィーナに挨拶を返す。


「はい。これで顔を洗って? すっきりするよ」


 木桶に水を汲んできたルフィーナ。(ふち)にタオルも掛けてある。

 これもルフィーナが気に入ったために購入した、ピンク色の可愛らしいタオルだ。


「ありがとう。力仕事をさせて悪いな」


「別に重くないから大丈夫。イツキこそ毎日ありがとうね。男の人に養って貰えるなんて思ってなかったから、大切にされてるみたいで嬉しいんだ」


 ルフィーナも働くつもりだったし、働かなくても海賊退治の収入があるので大丈夫だったが、樹が男のプライドを発揮して、自分が生活費や家賃を稼ぐと言って聞かなかった。

 ルフィーナもルフィーナで、家事は女の仕事と譲らなかったので、お互い様だろう。


 樹が顔を洗い終わり、木桶の水を捨てに行こうとする前に、ルフィーナがさっと木桶を掴んで持って行ってしまった。

 普通の現代日本人的な感性の持ち主である樹にとって、女の子をこき使っているようで、この世界の常識は、未だに馴染めなかった。

 慌てて追い掛けて木桶を奪い、自分で捨てに行った。

 ルフィーナもそんな樹の優しさを、とても喜んでいたので、黙って奪われたのだった。


「家事は女のするものだから、1人暮らしじゃない男の人がしてると、男の人にバカにされるよ?」


 水を家の前の側溝に捨てて戻ってきた樹に、ルフィーナが心配そうに声を掛けた。

 家事を手伝う男は、女性には受けがいいのだが、男性には女の尻に敷かれているとバカにされてしまう風潮だった。男性が女性を一段下に見ている証拠だろう。


「オレは男の評価はいっさい気にしない。大事なのはルフィーナだ」


 またキザなことを言っているが、本心なので様になっていた。ルフィーナも嬉しそうに微笑んでいる。

 樹もルフィーナの笑顔が好きで、それを見たいがためにいろいろと張り切っていた。




「それで、今日のお仕事は何するの? 危ないことはしないでよ?」


 ルフィーナの笑顔が曇るので、最近の樹は戦う仕事から遠ざかっているのだ。戦いの勘が鈍らないか、密かに気にしている樹だ。

 食事の手を止めてルフィーナに向き直る。ルフィーナもナイフとフォークを置いて、口元を布で拭いた。


「それなんだが……そろそろ戦う仕事をしたいんだ。そっちのほうが稼ぎもいいしな」


「でも……慎ましくても一緒に暮らせる収入はあるんだし、わざわざ危ないことをしなくても」


 ルフィーナも樹の強さを知ってはいたが、不死身であることは知らないので、万が一樹が倒れ、この生活が壊れてしまうことを恐れていた。


「オレは大丈夫だ。必ずこの家に帰ってくるから」


 安心するように笑顔を見せる。


「それなら、あたしも行くわ。もしもの時に一緒にいられないなんて嫌だもの。樹の強さを疑うわけじゃないけど、ドラゴンとか危ない魔物もいるしね」


 まるで死ぬ時は一緒がいいと言わんばかりの穏やかな笑顔に、樹も渋々承諾した。

 このやり取りを他人が見たら、もうさっさと結婚しろよ! と突っ込まれそうである。



 食器洗いを仲良く済ませた後、2人は冒険者ギルドに向かっていた。

 その道すがら、樹は懲りもせず知り合いになった女性たちに声を掛けた。


「やあ、ローリエ。今日も綺麗――いててっ」


 ルフィーナが樹の耳を引っ張り邪魔をする。


「相変わらずね、イツキ。ルフィーナの前でよくやるわ」


 呆れながらも楽しそうに笑っているのは、樹の人柄だろう。樹の女好きは有名になってきたので、いつものことだと思っているのだ。


「もうっ。せめてあたしと歩いてる時くらい、女の子にデレデレするのはやめてよね!」


「悪い悪い。つい癖でな。可愛い女の子を見ると声を掛けてしまうんだ」


「知ってるけど我慢してね。久しぶりに一緒にお仕事をするんだから。早くギルドに行きましょう」


 ルフィーナは樹の腕を抱き締めるように引き寄せ、冒険者ギルドに歩いていった。

 ギルドに到着した樹とルフィーナは、依頼が貼ってある掲示板に向かう。

 いい仕事はないかと、1つ1つ依頼を吟味している2人に、職員が声を掛けてきた。


「イツキさん、ルフィーナさん。お願いしたい依頼があるのですが、話を聞いていただけないでしょうか?」


 ルフィーナと視線を交わす樹。ルフィーナは樹にすべて任せるという、信頼しきった目で見ていた。


「分かりました。まず話を聞いて決めます」


 奥へ通された2人が聞いた話は、誘拐された子どもの救出だった。

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