ルフィーナと買い物
「それで、イツキはどっちのベッドがいい?」
天蓋付きの高いベッドは早々に諦めて、家に備え付けてあるベッドよりも少し大きなベッドを見比べる。
1つは大きさはそれほど変わらないが、精緻な模様が彫り込まれている。
もう1つは倍近い大きさだが、非常にシンプルなベッドだ。値段はさほど変わらない。
「オレはどっちでもいいけど、大きいほうが便利ではあるな」
ルフィーナはその言葉を聞いて、少し残念そうな顔をした。樹はそれを見逃さず、すぐに言葉を足す。
「でも、狭いベッドのほうが、ルフィーナとくっついて寝れるな」
やはり可愛いベッドのほうがよかったのだろう。ルフィーナが笑顔になる。
「そうよね! だってイツキはエッチだもん」
微妙に納得のいかない樹だったが、素直に可愛いベッドがいいと言うのは、子どもっぽくて恥ずかしかったのだ。
こういう細かいところで、ルフィーナの樹に対する印象はよくなっていく。
樹にしても18歳は日本なら女子高生。大人ぶりたい年頃で可愛いものだと思っている。
「でも、オレも使うんだし、半分出すから天蓋付きベッドにしよう」
「え、でも……イツキは別に今使ってるベッドでよかったんでしょ? ならベッドが欲しいあたしが払うのがスジでしょ?」
「男に恥を掻かせないのも、いい女の条件だとオレは思うぞ」
「いい女……それなら、イツキに半分出して貰おうかな? いい女って思われたいし」
樹にしてみれば女の子に喜ばれるのが好きなのだから、気持ちよく全部払いたいのだ。
しかしルフィーナは真面目で男性馴れしていなかった。おねだりなど頭にない。
樹からすれば、可愛く甘えておねだりされるほうが嬉しい。樹はプライドが高めだった。
「それじゃ天蓋付きベッドにしような」
樹は店員を呼び、自分が払う。
「あたしも払うんだけど……」
「それはあとにしよう。面倒だし」
少し納得のいかない顔をしていたが、男性に恥を掻かせないという言葉を思い出し、ルフィーナは引き下がった。
当然のように樹はうやむやにするつもりだ。ウェイトレスにチップを払ったように、女の子にお金を使いたい男なのだ。若いくせにバブルのオッサンのような思考回路だ。
「次はカーテンを見に行きたいんだけど……いい?」
買い物に連れ回すのが悪いと思っているのか、ルフィーナは控え目に聞いた。
ちょっと上目遣いなのが、樹のオッサン心をくすぐって、無意識のうちにルフィーナの頭を撫でていた。
「なんで撫でるの?」
「それはルフィーナが可愛いからだ」
答えになっているような、いないような返事だったが、素直なルフィーナは首をかしげながらも納得した。
女心を男が理解しづらいように、男心も女性には理解しにくいものだ。
樹のエスコートでカーテン売り場に向かう。
色鮮やかなカーテンに、ルフィーナは嬉しそうにキョロキョロした。
「ピンクか緑のカーテンがいいんだけど、イツキは何色がいいの?」
「オレは青が好きだけど、緑なら構わないぞ」
インテリアに拘る男ではないので、特に喧嘩もない。
「それじゃ、柄はどんなのがいいかな? あたしは豪華なのがいいんだけど」
「派手な柄は落ち着かないし、無地でいいんじゃないか?」
「う~ん、ちょっと寂しいけど、カーテンなんてお客さんは見ないだろうし、無地でいっか」
カーテンをするのは夜なので、泊まっていくほどの、仲のいい客しか見ないだろう。樹の意見が通った。
「で、次は何が欲しいんだ?」
買ったカーテンを魔法の袋にしまいながら、ルフィーナに尋ねる。樹は女性の買い物に付き合うということがどういうことか、よく分かっていたので、長々と付き合わされても不満はまったくなさそうだ。
「カーペットって買ってもいい? 必要はないんだけど、あったほうが嬉しくて」
「金に余裕はあるし、ルフィーナが喜んでくれるなら全財産を使っても惜しくはないさ」
ルフィーナは結婚の予行練習の気分だったので、いちいち樹の言葉に嬉しくなっていた。
樹も女の子が喜ぶ顔が見れて嬉しいため、お互いに幸せそうで、お似合いのカップルに見えていた。
ルフィーナは心持ち樹に近付いていた。人前でくっつくのは恥ずかしいのだが、樹の言葉にテンションが上がり、近付きたくなったのだった。
そんなルフィーナの気持ちに気付いてか、自分からはくっつけないルフィーナの腰を抱き寄せ、安心するように笑い掛けた。
顔を赤くしていたルフィーナも、樹に微笑まれて安心したのか、周りの視線が気にならなくなった。
大人しく樹に体を寄せて、男のたくましい体に守られる心地よさに、自然と楽しくなったルフィーナは、いつしか自分から樹の腕に手を回していた。
「このお揃いのカップ可愛い! 買ってもいいかな?」
「必要な物なんだから遠慮するな。オレに食器への拘りはないから、ルフィーナの好きに選んでいいぞ。オレはルフィーナの顔を見ていて忙しい」
「……恥ずかしいな~。でもありがと。いま凄く楽しいわ」
樹が半額出すと言ったので、ルフィーナは逐一買ってもいいか尋ねる。樹はそのたびにルフィーナが喜ぶようにした。
樹はインテリアより女の子が重要な男だ。部屋が可愛くなっても気にしない。
ルフィーナは男性と親しくしたことがなく、初めての経験に浮かれていた。
そのせいでどんどん必要のないインテリアを買うことになり、部屋がかなりファンシーになってしまいそうだ。
「男の人とデートって楽しいのね。そのせいで買いすぎちゃった。ごめんなさい」
「オレとルフィーナが暮らす家だ。ルフィーナが笑顔で暮らせることのほうが大事だ。本当に気にしないで笑ってくれ。オレは女の子の可愛い笑顔を見るのが好きなんだ」
またもキザな台詞に、恐縮していたルフィーナに笑顔が戻る。
樹の場合は本当に女の子が喜ぶことが最優先だったので、まったく照れた様子がない。根っからの女好きだ。
「そ、そろそろ帰るわよ! …………あたしたちのお家に」
照れ隠しに少しだけツンとしてみたが、ルフィーナの顔はとても幸せそうだった。
樹はその顔を見て嬉しそうにニコニコする。完全に新婚のようだ。
樹に喜んで貰いたいルフィーナは、帰りに食材を買って帰ることを提案した。
簡単な物なら作れるのだが、樹に喜んで貰おうと張り切っていたので、自分の腕に見合わない料理を作ろうと、食材を買い込む。
家に帰ってきたルフィーナは、竃に火を入れる。かなり不器用に切られた食材を炒め、シチューを作ろうとしていたが、牛乳を入れたところで止まる。
「そういえばシチューの作り方なんか知らない……どうしよう」
買ってきた家具を配置していた樹のほうを見るが、樹も知るはずがない。
とりあえず火から鍋を離し、ルフィーナはキョロキョロした。近くにあった食材を入れた。
とろみを出したかったのか、チーズを入れてみたようだ。
再び火に掛け、チーズを溶かそうとかき混ぜる。
「なんか違うような……」
「ルフィーナ。無理するな。近所の奥さんに作り方を聞いてこよう」
とろみではなく粘り気が出てきたシチューもどきから、2人は目を逸らした。
「でも……あたしは自分の力で完成させて、樹に美味しいよって言って貰いたいんだもん」
そうはいっても、このままでは美味しいシチューなどできないのは明白だった。
「誰だって分からないことは聞くしかないさ。作るのはルフィーナがするんだし、オレはそれで充分に嬉しいぞ」
自分のプライドよりも、樹を喜ばせることが優先だと思い直し、素直に近所の主婦に聞いてくる。
作り直したシチューは、初めてなりの味だったが、樹はとても喜んだ。
「次は心から美味しいって言われるように頑張るんだから!」
ルフィーナは不満そうだったが、自分の料理を樹が食べてくれて嬉しかったようだ。
食事が終わったあと、さらに張り切って料理を練習した。




