ルフィーナ
「新手の海賊?!」
樹に気付いて声を上げる少女。
「オレは冒険者だ。獲物の横取りはしたくないから、助けが必要になったら言ってくれ。それまでは見てることにする」
「わかったわ! あたしの華麗な戦いを見ててね! 惚れさせてあげるんだから!」
彼女は18歳。婚期を逃しそうで焦っていた。
樹は念のために拳銃を出し、地面に寝転がって美少女を眺めた。
「なんだっ! あのふざけた奴は!」
「こんな場所で寝転がってやがる!」
「痛い目に遭わせてやる!」
自分たちがザコ扱いされているのに気付いたのか、海賊たちが激昂した。
「行かせないわ! あたしが相手よ!」
激しい機動に、少女の美しい金色の髪が舞う。樹のみならず、海賊たちも見とれるほど美しい少女だった。
「これほどの美少女は初めて見たな~。この位置からだとパンツが見えて最高だ」
「変なとこ見るな! エッチ!」
樹に文句を言いながらも、敵を倒す手は止まらない。おかげで樹はパンチラを見放題だった。
「くそっ! あんな奴だけいい思いしやがって!」
「女を倒せば俺たちの物になる! 今はパンツより倒すことを考えろ!」
デレデレする樹を、海賊は悔しそうに見ている。
ミニスカートを気にしてか、少女の動きが遅くなるが、海賊たちもスカートに集中して遅くなっているので、やられることに変わりはない。
「男の人ってバカなの?! 見るな~!」
見えているのは寝転んでいる樹だけだが、少女には分からないので、動きが小さくなっていった。
「あの太もも見ろよ。細すぎず太すぎず、絶妙なムチムチだぞ!」
海賊たちが太ももに視線を向ける。その隙に少女が斬り倒した。
樹の感想は、ある意味で少女への援護になっていた。
「恥ずかしいでしょ! でも褒めてくれてありがとう!」
少女は強さのため、周りの男たちに怖がられていた。そのせいで褒め言葉に弱かった。
何より立場のせいで、樹ほど少女の体をストレートに褒める者はいなかったのだ。
見合いを失敗し続けた彼女は、自分の体に自信が持てなかったのだ。
見合いを失敗した理由は、相手の貴族が自分より遥かに強い彼女に怯えただけだが、自分に女性としての魅力がないのでは、と悩んでいた。
貴族としては面子があり、自分より強い女性を妻に迎えると、立場が弱くなってしまいかねない。
さらに彼女の性格は、自分より弱い男を情けないと思う強気な性格だった。
自分より圧倒的に強く、見合いで嫌そうな顔をされてしまった男たちは、彼女を口説く元気がなくなってしまったのだった。
そのせいで、美貌に惹かれる男は大勢いたが、心を折られて辞退が続いた。
業を煮やした彼女は、自分より強い結婚相手を見つけるため家出中だ。
「この調子ならあたしだけで倒せそう。数が多いだけね! バカだし」
斬られると分かっていて、少女のパンツを何とか見ようと必死な姿は、樹から見てもバカだった。
『本当にバカですね。樹も同類ですよ?』
「オレは斬られないから余裕で見てられる」
『だんだんにじり寄っているので、すごくバカっぽいですよ』
樹は常によく見える位置から覗いていた。その執念に海賊も引いている。そのせいか樹に近付こうとする海賊はいなくなっていた。
「さっきから女の人の声がするんだけど? 誰か仲間が隠れてるの?」
いったん攻撃を中止し、樹の傍に寄ってくる。
「オレの相棒だ。姿が見えない精霊みたいなもんだと思ってくれ」
「そう……不思議だけど納得しとく。加勢に来たのに残念だったね?」
残り少なくなった海賊を見て、樹の出番はないと思ったようだ。
しかしそれは油断だった。アジトの奥に逃げ込んだ海賊が、人質を連れて来たのだ。
「しまった! あまりにもバカな海賊だったから油断したわ!」
「バカバカ言うんじゃねえ! こいつを殺されたくなければ、武器を捨ててスカートをめくれ!」
「やっぱバカじゃねえか……」
樹には言われたくないだろう。さっきから少女のスカートの中ばかり見ている。
「あんな奴らにパンツを見せるのは嫌だけど、人質がいるし……」
スカートの裾を掴み、悩んでいる。
「まあ落ち着けって。従う必要はないぞ」
寝転がっていた樹が立ち上がり、拳銃を構えた。
「魔法を使うつもりか! 魔法が発動するより先に殺せるぞ!」
「そうよ! 魔法じゃ間に合わないわ」
樹は言葉に反応せず、慎重に狙いを定めていた。その横顔は、先ほどまでのだらしない顔とは違い、とても鋭く別人のようだ。
少女は言葉を失い、頬を染めて樹の横顔に見とれていた。
「女の子を傷付けるとなっちゃ、黙っていられねえな。オレを怒らせなきゃ死なずにすんだのにな」
静かに言い放つ樹に気圧されたように、人質の女性を掴んでいた海賊の体が、人質から少し離れた。
その瞬間、洞窟内に銃声が響き、人質を取っていた海賊の額を撃ち抜いた。
海賊が後ろに倒れ込む間に、樹は残りの海賊たちを撃ち殺した。
「…………」
あっという間の出来事に、少女と人質は言葉を発することを忘れ、樹の顔を見ていた。
「オレはこの美少女ほど優しくないんだ。人質を取ったからには遊びは終わりだ」
少女に斬られて、倒れていた海賊たちが震えた。
「……あなた強かったのね……助かったわ」
「礼はいらないさ。君のパンツは一人占めしたいからな」
「うっ……そうだった。パンツ見られた」
彼女はドレスでいることがほとんどだったので、ミニスカートは今回が初めてだった。
だから男性の視線を集める格好だと気付いて、急に恥ずかしくなった。
「下から見ない限りは、簡単に見えたりしないから気にするな」
「そうかな? ミニスカートは可愛いからずっと着たかったんだけど」
「そんなことより、放心している人質の彼女はいいのか?」
「そうだった!」
人質にされていた女性に近寄り、怪我がないかを確認する。
怪我がないことが分かり、少女はホッとしたように息を吐いた。
「よかった。あなたのおかげで、この人が無事だったわ。凄く速い魔法ね。見えなかったわ」
魔法で身体強化していた自分にも見えなかったことに、少女は素直に驚いた。
「改めて自己紹介するね? あたしはルフィーナって言うの。結婚相手を探して旅を始めたの」
「オレは樹。相棒はナレーションだ。ルフィーナのような美少女を放っておくとは、周りの男は見る目がないな」
樹の言葉に照れて頬を掻く。彼女は自分のせいで破談していることを自覚しているので、褒められると恥ずかしいのだ。
「えへへ……まあ、あたしもちょっと乱暴だしね」
見合い相手に一騎打ちを申し込んで、ことごとく叩きのめしていたから、並の男なら逃げるのも仕方がない。
「乱暴なだけじゃない。人質を気にしてスカートを捲ろうとしていたじゃないか」
不穏な空気を感じたので、樹はすぐに介入したのだった。
「まあね。凄く嫌だけど、民の命には代えられないもの」
樹とルフィーナが見詰め合っていると、人質の女性が我に返った。
「ありがとうございました! お2人のおかげで、夫の所へ帰れます!」
「気にしないで。あたしだけじゃ、2人ともあいつらの好きにされてたし」
樹も気にしないようにと、笑顔で返した。
「取り分はどうする? オレはたいして倒してないし、少なくて構わないぞ」
「? 取り分?」
彼女はお嬢様育ちで、冒険者の取り決めなど知らなかった。
海賊のお宝の取り分だと説明するが、お宝が手に入ること自体、知らないのだ。
樹に詳しく説明されたルフィーナは、ようやく理解してこう言った。
「2人で倒したんだし2人で分けよ?」
樹とルフィーナは、アジトの奥を確認して、かなりの量の財宝を見付けた。




