ルフィーナを仲間に
樹は戦利品を見ているルフィーナを、改めて見つめていた。
金色の髪を腰まで伸ばし、ツーサイドアップにしている。
瞳は美しいエメラルドのようで、今は可愛らしいツリ目を好奇心に輝かせていた。
戦利品を見るルフィーナの背中は美しく、腰からお尻のラインは多くの男性を魅了するだろう。樹も腕を組んで鑑賞中だ。
ミニスカートから伸びる脚は、細すぎて貧相にならず、太すぎて醜くならない、絶妙な太さで、男性なら目がいくのは仕方がない。樹もデレデレと夢中だ。
『樹は思った。これで胸が普通サイズでもあれば完璧だったのに』
ナレーションの余計な言葉に、楽しげに揺れていたルフィーナの背中が、ピクリと震えた。
その震えはどんどん大きくなり、ルフィーナはゆっくりと振り返った。ホラー映画の間のようなゆっくりとした動作だった。
「あ、いや……おいナレーション。余計なことは言うんじゃない!」
不穏な空気を察知した樹は、ナレーションに文句を言いながら、部屋から撤退しようとした。
「……イツキ。ナレーションが言ったことは本心かしら?」
体から魔力のオーラを発したルフィーナが、樹の前に素早く回り込んだ。
『樹は逃げ出した。しかし、ルフィーナに回り込まれた。逃げられない』
「うっさいわ! 誰のせいだよ!」
「イツキ……正直に答えてね? あたしのおっぱいは小さいかな?」
可愛らしくニコニコしているが、目は笑っていない。先ほどまではキラキラしていたが、今は妙に昏い。
「あ~っと……オレは正直者なので言うが、小さくて可愛い」
正直に言ったが日和った。
「これが可愛いの? 自分でも、え? これっておっぱい? ってくらい無乳なんだけど?」
可愛いではダメだったようだ。彼女のコンプレックスは根深い。
樹も小さいだろうと思っていたが、まさかそこまでだとは思っておらず、返答に困って妙なことを言ってしまう。
「女の子は女の子ってだけで素晴らしいのだ」
胸のことにはまったく関係ない。
本人は女の子の体というだけで、胸がなくても美しいと言いたかったのだが、ルフィーナの怒気に焦ってしまった。
「お尻だって女の魅力よ! 胸だけじゃないもん!」
「そ、そうだな。ルフィーナのお尻は素晴らしい。オレも夢中だ」
「そうよね! 胸がなくても結婚できるわ!」
少しでもあるほうが有利だろうが、彼女の美貌なら問題ないだろう。
親が用意したお見合い自体は多いのだ。しかし彼女が乗り気ではない。自分より弱い男は嫌だった。
立場的にも実力的にも、夫に恐れられながら暮らすのが嫌だからだ。
「あたしって結婚相手として魅力的?」
ちょっと困る質問だ。今のところ美貌と戦闘能力しか知らないのだ。樹に答えられるはずもない。
「美貌しか判断材料はないけど、それだけでも結婚相手として魅力的だと思うぞ」
胸がないらしいのが引っ掛かっている。樹は少しでも欲しかった。せめて膨らみが分かるくらい。
「そっか、よかった。イツキも遠慮なく口説いてね」
「あ、ああ」
樹は最高のお嫁さんを欲しがっているので、結婚に関しては慎重だ。
ルフィーナを口説けば結婚まで一直線になりそうで、樹は返事を濁らせた。
『彼女に決めたんですか?』
「いや、まだ中身を知らんし」
ちょっと胸がない件で恐怖を味わったが、樹は悪い印象は持っていない。コンプレックスを迂闊に刺激した自分のせいだと思っていたし、海賊を退治にくる正義感もある。
かなり強いので努力家だろうし、笑顔も多くて親しみやすい。悪い印象を持ちようがなかった。
「イツキのことを観察してもいい? あたしの強さを見ても怖がらないし」
冒険者の中には怖がらない男もいるだろうが、彼女はゴツい男は好みではなかった。
「オレとしても嫁さんは欲しい。ルフィーナは笑顔が可愛いし、このままお別れは嫌だな。オレでよければ傍にいて欲しい」
まるでプロポーズの台詞だが、樹は言葉のままの意味で言っている。
「な、なんか恥ずかしいわ……イツキなら好きになれそうだし、お互いのことが分かるように一緒にいましょう!」
『ルフィーナが仲間になった。おっぱいがあればなぁと樹は思った』
「もうそれやめろ! 最初にちょっと思っただけだろう!」
「や、やっぱり……あたしのおっぱいってダメなのかしら……」
「ほら見ろ! ルフィーナが落ち込んだぞ」
樹は必死にルフィーナを慰めて、何とか気を取り直した。
「とりあえず戦利品をどうするか」
「それなら大丈夫。実家から持ってきた魔法の袋があるから、これくらい持っていけるわよ」
「それは助かる。ルフィーナの実家はやっぱり金持ちなんだな」
これだけ入る魔法の袋は、当然値段も高い。
「まあね。でもあたしは家を継げない6女だから、玉の輿にはならないけどね」
「嫁さんくらい自分で養うさ。オレは金は稼げるが、美少女にはなれないからな。ルフィーナのほうが大事だ」
「そんなに美少女って言われると照れる」
頬に両手を当てて、真っ赤になった顔を冷まそうとしている。
樹は本当に残念に思った。これで少しでも胸が膨らんでいれば完璧なのにと。
樹は別に胸が大きくないと嫌だとか思わないが、女性の胸は好きなので、少しは欲しいだけだ。
ルフィーナの持っていた魔法の袋に戦利品を詰め込み、人質になっていた女性の所に戻る。
まだ海賊は縛られたまま気絶していたので、樹が叩き起こして連れていく。
「ルフィーナは彼女を馬に乗せて、先に帰って兵士を呼んできてくれ。オレはこいつらを連れてのんびり帰る」
途中で海賊を回収しにきた兵士と合流するだろうから、街まで一緒ということはない。
「いいの? 一緒のほうが安全だと思うけど」
「心配するな。オレがこんな奴らに負けることはありえんから」
「わ。凄い自信だね~。それなら、なるべく早く迎えにくるから、気を付けなさいよ?」
ルフィーナが女性を連れて馬の所に向かう。
樹は海賊たちのロープを繋ぎ、1人で全員を連れて行けるようにした。
「おいっ! 俺たちは怪我人だぞ」
「そうだ! 足を斬られて歩けねえよ!」
自分たちを倒したルフィーナがいなくなった途端、海賊たちが騒ぎ出す。
「嘘つけ。そんなに深い傷じゃないだろ。応急手当をしたから知ってるぞ。痛いだろうが歩けないほどじゃない。撃ち殺されんように黙って歩け」
にべもなくあしらわれ、樹を睨む。
樹は海賊などに甘くするつもりはない。逃げようとしたり、攻撃しようとしたら撃つつもりだ。
女性を奴隷として売り飛ばしてきた海賊に、樹は激怒していた。
人質になっていた女性は、年齢のこともあり、売れ残ったそうだ。
売られずにすんで運がいいのか、海賊に捕まって運が悪いのか微妙なところだ。
「どうせ死刑になるか強制労働だろう? なら死ぬ気で歩けよ。いま死んでも、あとで死んでもオレには変わらんぜ?」
樹の容赦のなさに、海賊たちは黙り込んだ。
さすがに樹が恐ろしくなったのか、文句を言わずに歩き続けた。
2~3時間ほど歩いただろうか? 前方から砂煙が上がった。
兵士たちが武装した騎馬に乗って、猛スピードで駆けてきた。
「お~い! イツキ~! お待たせっ!」
先頭で馬を走らせていたのは、ルフィーナだった。ニコニコ笑って手を振っている。
樹は海賊たちを兵士に渡し、ルフィーナと再会を喜んだ。
「ほら、後ろに乗って? これから忙しいんだから、急いで帰ろ?」
パーティーを組むにはギルドに申請したりする必要がある。そのことだろうと樹は納得した。
樹が後ろに乗ったら、馬を発進させた。樹はルフィーナの腰を掴み、2人は街に向かった。




